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還暦の叔母がモンスターに影響されて作家として初個展を開催することになった話

小学生の時、毎年夏になると僕は従兄弟の家に泊まりにいっていた。それは恒例行事であり、僕はいつも年上の従兄弟から影響を受けていた。何よりもおばちゃんのご飯が美味しかった。

何気ない会話から生まれたきっかけ

上京してしばらく地元の岐阜にも帰っていなかった2018年の夏のこと。
おばちゃんから従兄弟の家に放置していた荷物や作品を整理してほしい、と連絡があり僕は仕事の休みをとって岐阜県に帰ることになった。そして、従兄弟の家に散乱していた荷物や作品を整理していた。

物量がかなりあったので集中して片付けていると、おばちゃんが徐にビニール紐で編み込まれたバックを持って僕に話しかけてきた。

「最近、こんなの作ったけどどう?」

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おばちゃんは仏具店を営んでいた。田舎の仏具店なんて暇なもんで、その暇な時間を使って編み物に勤しんでいたのだ。しかも、おばちゃんの編み物はビニール紐製。編み物ではあまり見かけない素材で作られたバッグは僕にとってすごく新鮮でかっこよく思えた。

僕は思わずこう返した。

「おばちゃん、モンスターとか作れないの?」

「多分できるよー。」と、テレビを観ながらおばちゃんは言った。

完成したおばちゃんの"作品"

次の日の午後には、2体のモンスター編みぐるみが誕生していた。

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僕は何よりも完成までのそのスピードに驚愕した。ビニール紐で編み込まれ命を吹き込まれたモンスターは最高にクールに思えた。
僕はすっかりおばちゃんの作るモンスターに魅力された。

還暦のおばちゃんはもう立派なアーティストになっていた。

魂を揺さぶる作品の裏側で

その後、おばちゃんは数々のモンスターを作り、着々と作品数が増えていった。そしてスキルも物凄い速さで進化していった。
岐阜の仏具屋のおばちゃん。すっかりアーティストになっちまった。おばちゃんの進化を、創作意欲を、誰も止めることはできない。

そこで、僕はおばちゃんに巨大モンスターの製作をお願いしてみることにした。通常のサイズが20〜25cmくらいだとすると、その4〜5倍くらいあるサイズのモンスターだ。

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おばちゃんは製作に取り掛かると修行僧の如く編み続けた。おおよそ1ヶ月もの間、編み続けて完成させた。編み続けたおばちゃんの手首は限界に到達していた。腱鞘炎になりながらもひたすらに編み続けていたらしい。

そんなおばちゃんの一連の姿を、僕はある人物と重ねていた。それは、僕の中のスーパースターであるバスケ漫画の金字塔、スラムダンクの“桜木花道”。おばちゃんのアーティストとしての生き様が彼とすごく重なっていた。

インターハイ3連覇を果たした絶対王者“山王工業”と対戦した際に、桜木花道は選手生命に関わる怪我をしてしまう。桜木は一度はベンチに戻るものの、その後再びコートに戻り、桜木の気合いに鼓舞されたチームは逆転勝利した。

これは、アーティスト生命に関わる手首の腱鞘炎になりながらもひたすらに編み物を続け完成させたおばちゃんと同じとしか思えない。
桜木花道がバスケットマンになった裏側で、おばちゃんもアーティストになっちまった。きっと水戸くんも震えながらそう言うだろう。

おばちゃんの魂の力作たちは、口コミで徐々に名前が広がり、気づけばお店に並び値札が付けられていた。

断固たる決意が必要なんだ

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おばちゃんは命を削って作品をつくっているといっても過言ではない。

作品たちには我々の魂を揺さぶるパワーがある。僕はそう思っている。
桜木花道の好きなセリフで“おめーらバスケかぶれの常識はオレには通用しねえ!! シロートだからよ!!”という言葉をチームメイトに言うシーンがある。

作品をつくっている間、きっと周りからいろいろ言われたに違いない。それでも毎日のように作品をつくり続けた。だからこそ、おばちゃんの作品には我々の常識やイメージなどを超えてくるパワーを持っている。これは実物を見た人なら共感してもらえるはずだ。

何かに挑戦することに遅すぎることはない

還暦にしてアーティストデビューしたおばちゃんが遂に表参道で個展を開催した。
岐阜の仏具屋のおばちゃんが、いきなり表参道で個展。その時点で我々の常識を超えている。しかも、初個展にしてそうそうたるアーティスト達とのコラボ企画まで実現した。
どれだけ想像の上をいけば気がすむのか。何よりも無数に作られたモンスター達がとてつもないパワーを放っている。

自粛生活で疲弊している私たちにまだ大丈夫だと思わせてくれる、そんな勇気をもらえる作品達。是非1人でも多くの方々に見ていただきたい。

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何かに挑戦することに遅すぎることはない。
そして何より、おばちゃんは今、とっても楽しそうだ。


展示詳細


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