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そもそも、日本酒の「古酒」「熟成酒」とかって、何だろう?

以前、「古酒」とか「熟成酒」と呼ばれていなくても、貯蔵・熟成後出荷される日本酒はたくさんある、という話をしました。

そしたら、日本酒の「古酒」とか「熟成酒」って、そもそも何だろう?

「古酒」や「熟成酒」の5つの考え方

調べてみたところ、古酒・熟成酒の定義はひとつではないようです。
次の5つが見つかりました。

1.  国税庁

古酒」とは、「一年以上貯蔵した清酒

2.  灘酒研究会

古酒」とは、「前酒造年度内に醸造された清酒
大古酒」とは、「前酒造年度より前に醸造された清酒
「酒造年度」とは、7月1日から翌年6月30日までの一年間。

なお、この研究会は、1917年(大正6年)に発足した、灘五郎(西郷・御影郷・魚崎郷(以上、神戸市)・西宮郷・今津郷(以上、西宮市))および近隣地区の酒造技術者が集まり、日本酒醸造の技術向上に取り組んでいる組織。

3. 長期熟成酒研究会

熟成古酒」は、「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加を除く清酒

そして、「熟成古酒」には、次の3つのタイプがあります。

濃熟タイプ:
本醸造酒・純米酒 
常温熟成
熟成を重ねるにつれ、照り、色、香り、味が劇的に変化、風格を備えた個性豊かな味わいの熟成古酒

淡熟タイプ:
吟醸酒(純米)・大吟醸酒(純米)
低温熟成
吟醸酒の良さを残しつつ、ほどよい苦味と香りが渾然一体となった、幅のある深い味わいの熟成古酒

中間タイプ:
本醸造酒・純米酒・吟醸酒(純米)・大吟醸酒(純米)
低温熟成と常温熟成を併用
低温熟成から常温熟成へ、またはその逆の貯蔵法により、濃熟タイプと淡熟タイプの中間の味わいの熟成古酒

「熟成古酒」の「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加を除く清酒」という定義について、詳細を長期熟成研究会に確認してみました。

●協会会員(酒蔵など)の経験などから判断し、大体の日本酒が3年熟成させるとまろやかになり、大抵の人が飲んで熟成感が出ていると感じるようになるので、「熟成古酒」を最低3年間貯蔵・熟成させた日本酒と定義した
● 定義の中の「蔵元で」というところは、そこまでこだわりはない
● 国税庁の「古酒」の考え方はもともと分かっていて、それと当協会の考え方は違っており、区別するために、「熟成古酒」とした

また、事務局長 伊藤淳氏は、次のように述べていらっしゃいます。
月刊「たる」 2021年3月号 p.8より。

「当研究会では、平成に入り貯蔵を目的に醸造された清酒を「熟成古酒」として呼ぶよう啓蒙しています。
 古酒は新酒ができたら古酒になるのですが、「熟成古酒」は長期熟成を意図して予想調和するお酒をイメージして、酸味、旨み、甘味が多く、複雑味のある、甘味、酸味のバランスを工夫して仕込むようになってきています。」

なお、この協会は、日本酒の熟成古酒の普及と製造技術の向上を主な目的として、小売店、酒販店、流通業者、酒造会社による任意団体として、昭和60年(1985年)に設立されました。

4.  いにしえ酒店

古酒・熟成酒専門店「いにしえ酒店」店主 薬師大幸さんの考え方。
「日本酒ファン必見!古酒・熟成酒専門店『いにしえ酒店』に行ってきた【前編】」食楽web(2017年6月16日)より。

「古酒」
原材料や製法は日本酒と同じだが、熟成によって味や香りをかなり変化させているので、まったく別の飲み物だと思っていいほど。

「熟成酒」
熟成により豊潤さを出しているものの、元の日本酒の酒質の延長線上にあるお酒。

「熟成させても美味しい酒」
未熟成だが、寝かすことによって美味しく変化するお酒。もちろんそのまま飲んでもおいしい。

5. 一般社団法人 刻(とき)SAKE協会

この協会は、2019年に設立され、協会のサイトにある「協会について」には、次の記載があります。

「世界に誇れる日本酒を価値化していくため、
時間軸を用いて高付加価値の基準つくり、ブランド化を目指します
既存の流通体制や価格帯を見倒し、新たな市場開拓へ活動します。」

また、常任理事 上野信弘さんは、次のように説明されています。
月刊 たる (2021年3月号) p.16より。

褐色系は、「古酒」
「褐色系は、常温で熟成したもので、お酒の中の糖分とアミノ酸が豊富にあると温度の高まりによって化学変化が起こり褐変します。冷蔵設備がなかった昔ながらの古酒(ふるざけ)はその典型で、協会では「古酒(こしゅ)」としています。」

無色透明系は、「熟成酒」
「無色透明系はなぜ褐変していないのかというと、色が付きにくい低温で熟成させたからです。近代的な冷蔵設備になってからのお酒で、「熟成酒」としています。」

つづけて、
「長所は、常温熟成の「古酒」は、色や香味が変化し香ばしさの中に味の奥行きや幅をもらします。低温熟成の「熟成酒」は香味を損ねることなく新酒の良さを保ったまま円熟味が備わり、吟醸系のフルーティーなタイプが向いています。「古酒」=ナチュラル、「熟成酒」=テクニカルとも言えますね。もちろん例外はありますが、協会ではこの2つに分けています。」

5つの考え方のまとめ

いろいろ見てみましたが、一番よく目にする古酒・熟成酒の説明は、長期熟成酒研究会の「満3年以上」の熟成、です。
簡潔に、かつ、数字で示されていて、分かりやすいからでしょう。

国税庁や灘酒研究会の「古酒」や「大古酒」も数字で示されていて、それでも良いのでしょうが、これでは、一般的には、古酒だとは全く思われていないような日本酒まで、「古酒」や「大古酒」になってしまいます。
例えば、通常、「大古酒」と聞くと、何十年も熟成している日本酒、というイメージがありますが、灘酒協会の「大古酒」だと、「前酒造年度より前に醸造された清酒」となり、かなり幅広です。

いにしえ酒店の店主の考え方は、厳密ではないけれども、分かりやすい。
ただ、もしかしたら、日本酒の古酒・熟成酒を全く知らない人にとっては、これを聞いても、イメージがわきにくいかもしれません。

ひとつ、「熟成させても美味しい(日本)酒」という分類は、すごくいいです!

「「熟成させても美味しい酒」 未成熟だが、寝かすことによって美味しく変化するお酒。もちろんそのまま飲んでもおいしい。」 

これが世の中に広がると、日本酒のすごさや可能性の大きさがもっと認知されるようになるだろうな、と想像するだけで嬉しくなります!

刻SAKE協会の考え方は、古酒・熟成酒の中でも一定の基準を満たした古酒・熟成酒に付加価値をつけ、差別化をはかろうとしており、ここでも日本酒の可能性がぐっと広がって行く、と思います。

日本酒の古酒・熟成酒を定義するとしたら…

日本酒の古酒・熟成酒の呼び方や定義は、統一されていないようです。

呼び方だけでも、「古酒」「大古酒」「熟成古酒」「熟成酒」など、さまざまあります。
ただ、ワインだって、古酒・熟成酒には、「古酒」や「ビンテージワイン」「オールドビンテージ」などさまざまな呼び方があり、言葉の決まった定義はないようです。

「日本酒の古酒・熟成酒って何?」って質問されたら、
厳密な定義はないけど、仕込んでから3年くらい、または、それ以上熟成させた日本酒
と伝えると、ざっくりとしたイメージが伝わるのではないでしょうか。

あとは、質問してきた人の知りたいことや、その人がどの程度日本酒の古酒・熟成酒の経験があるかによって、説明を加えると良いのかな、と思います。

なお、今まで、私は、「古酒・熟成酒」を使ってきたので、「古酒・熟成酒」を「3年くらい熟成した日本酒」という意味で使い続けます。

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