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【論文レビュー】エグゼクティブ・コーチング成果11項目と5要因

「コーチングの成果」論文レビューの第3弾。
今回はお待ちかねのエグゼクティブ・コーチの成果についてです!
仕事で10年以上調査していた身としては、非常に面白い内容でした。

この論文では11種類のエグゼクティブ・コーチングの成果を特定し、さらに成果を生み出す5つの要因まで明らかにしています。

【論文】
A systematic review of executive coaching outcomes: Is it the journey or the destination that matters the most?
エグゼクティブ・コーチングの成果に関するシステマティック・レビュー。最も重要なのは旅なのか目的地なのか?


Andromachi Athanasopoulou, Sue Dopson
The Leadership Quarterly,Volume 29, Issue 1,2018,Pages 70-88

「旅なのか?目的地なのか?」という副題もおしゃれですね。筆者は、University of LondonとUniversity of Oxfordで組織行動を専門にしているおふたりで、2018年に発表されています。
目次は次の通りです。てっとり早く、成果の項目知りたい方は「エグゼクティブ・コーチングの成果」までジャンプしてください。

概要


査読を受けた(信頼性が高い)学術論文を横断してまとめた論文(システマティック・レビュー)です。37ジャーナルから110の論文を対象にしています。論文はエグゼクティブ・コーチングの成果について測定したもので、組織「外」のコーチが実施したものだけを対象としています。

【この研究のリサーチクエスチョン】
エグゼクティブ・コーチングの成果は何か?
その成果には何が影響しているのか?

どんなコーチングが研究対象なのか?


前提として「エグゼクティブ・コーチング」とは何なのか、この論文での定義を見ておきましょう。(この後の結果を見る上でも参考になります)

エグゼクティブ・コーチングは、エグゼクティブが自己啓発とリーダーシップ行動においてポジティブな変化を開発し、維持することを支援する目的を持った介入である(Grant, 2012a)。

そのため、コーチ、クライアント(エグゼクティブ)、クライアントのスポンサー組織という3つの主要なステークホルダーのパートナーシップを伴う「プロセス」である(Ennis et al.2008; Garman, Whiston & Zlatoper,2000; Kampa-Kokesch & Anderson,2001; Kilburg,1996; Michelman,2004; O'Neill,2007; Witherspoon & White,1996).

最も重要なことは、他の介入とは異なり、介入の個人目標は、戦略的な組織目標に「常にリンクし、従わなければならない」(Ennis et al.、2008、23ページ)。

パーソナルな1対1のコーチングではなく、エグゼクティブ・コーチングは、スポンサーも加えた3つのステークホルダーが出てくるところが、大きな特徴ですね。もちろん、成果についても個人的な成果と、組織の成果という概念が出てくることになります。
論文の筆者らは、エグゼクティブ・コーチングはリーダーシップ開発であり、組織の意向など社会的な文脈に大きく影響を受けることを強調しています。

次に、110の論文がコーチングの「コーチ」なのか「コーチングを受ける人」なのか等、どこを対象にした研究なのかの大まかに見てみます。

「コーチングを受ける人」単独を対象にした研究が約3分1で一番多い結果となりました。コーチングの前後でコーチを受けた人がどう変化したのかを成果として扱う研究が多いということでしょう。また、スポンサー組織も対象になっている研究が多くあります。

エグゼクティブ・コーチングの成果

いよいよ、どんな成果があったのかについてに入ります!

まず、ずばりコーチングの成果はあったのか?

【コーチングの効果有無】
・コーチング成果があった  75件
・中程度、部分的な成果があった、成果がなかった 16件
・記述的な結果  32件
(1論文内で複数の成果報告があるため合計が110にはなりません)

おおよそ6割くらいのエグゼクティブ・コーチング研究で「成果がある」と判定されました。(中程度、部分的成果をいれるともっと多い割合になります)
では、その成果は具体的にどのようなものでしょうか?

論文をさらに精査し84論文を対象とし、70以上のポジティブな成果が確認されました。成果は下表のような5カテゴリー11項目に分類されています。

11項目の詳細は上の表を見ていただくとして、5つのカテゴリーをそれぞれ見てみましょう。

  1. コーチングを受ける人(4項目):コーチングを受ける人、つまりエグゼクティブ個人の成果についてのカテゴリーです。たとえば、ストレスが減少したり、タイムマネジメント力があがるといった内容がこれにあたります。

  2. コーチングを受ける人と他者の関わり(2項目):リーダーシップやコミュニケーション能力の改善がこちらのカテゴリーです。エグゼクティブ・コーチングでは、スポンサー組織が管轄組織へのポジティブな影響を期待して導入するケースが多くあるため成果としてあがってくるのもうなずけます。

  3. コーチングを受ける人と仕事(2項目):成果や生産性など仕事に対してポジティブな影響を及ぼす項目(ウェルビーイング、自己認識など)がこのカテゴリーです。

  4. 組織(1項目):コーチングを受けた個人だけでなく、従業員満足度など組織の成果がこのカテゴリーに入ります。「組織レベルまでの調査結果は3件しかなく驚きだ」と論文中に書いてありましたが、まだ少ないようです。

  5. コーチ(2項目):これはコーチ側におとずれた成果に関してのカテゴリーです。個人的には言われてみればこれも成果かと盲点でした。たとえば、コーチのスキル向上などがここに含まれます。

成果に影響している要因は何か?


さらにありがたいことに、この論文ではエグゼクティブ・コーチングの成果に影響している要因を5つに整理しています。

たとえば、「a コーチングの介入方法」のひとつであるアセスメントについては、有効であるもののネガティブな場合もあるとのことです。また、「b 組織」や「e ステークホルダーの関係」のようなコーチを受ける本人だけなく、組織や周囲の人たちもエグゼクティブ・コーチングにおいては成果の大小を決める要因となります。具体的には上司や導入した人事部にどんな役割を担ってもらうかが成功を左右するといえるでしょう。

まとめ

この本文は「エグゼクティブ・コーチング」に焦点をあてて110の論文を調査したものでした。エグゼクティブ・コーチングの成果は5カテゴリー11項目あり、それは5つの要因が影響していることが分かりました。
特に、コーチを受けるのが組織リーダーであることから、スポンサー組織を考慮したコーチング設計が成果に影響を及ぼすことが注目すべき内容と思います。

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他にもコーチング全般のコーチング効果を調査した論文をこちらで紹介しています。

また、心理学に基づいたスタイルでのコーチングに関して、スタイル別の効果をまとめた論文はこちら。


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