日本から「モデルナ」を生むための、バイオベンチャー入門 #はじめに

みなさま、はじめまして。

みなさんは、ベンチャーと聞いて何を思い浮かべますか。

多くの方が思い浮かべるのは、最近だとメルカリ、ひと昔前だとサイバーエージェント、DeNAといったIT系ベンチャーでしょうか。ですが、私が関わっているのはバイオベンチャーです。

ベンチャーの中でも、バイオベンチャーについて知る人は、どれくらいいるのでしょうか。そもそもバイオベンチャーが何なのか? 分からない人も多いでしょうから、そこから説明していきます。

モデルナはたった10年前にできたベンチャー

画期的な新しい薬を創り出すことを目指し、それを可能にする技術を開発しているのがバイオベンチャーです。

例えば、新型コロナウイルスワクチンを創ったモデルナ。ワクチンの呼び名として繰り返し聞くことになりましたが、その会社については全く知らなかったと思います。というのも、たった10年前にできたベンチャーなのです。それが、今や日本のほとんどの大手製薬会社よりも、大きな時価総額になっています。

こう聞くと、新しい分野やビジネスモデル、テクノロジーで急に大きくなったITベンチャーとも重なるのではないでしょうか。

確かに、モデルナがここまで一気に大きくなり有名になったのは、優れた技術はもちろん、外部環境や運もあります。バイオベンチャーが全てこのように成功できるわけではなく、特殊な事例ではあります。それでも日本には、モデルナに匹敵するような素晴らしい技術やアイデアを研究する方々がたくさんいます。バイオベンチャーが成功していくかどうか? これらの技術やアイデアをどのように形にするのか? やり方次第だと考えています。

それでは、どうしたらこのようにバイオベンチャーがはばたいていけるのか、私なりの意見を書いていきます。

子どものころから胃腸が弱く薬に興味

まずは、自己紹介をします。

先ほど話題に出た、薬を創ろうとしているバイオベンチャーに特化して投資を行う、ベンチャーキャピタル(VC)があります。そこで働き始めて、5年目になります。前職でも違う立場から同じようなことをやっていたので、かれこれ20年近く薬に関わる様々なことに携わってきました。

そもそも、父もそうだったので恐らく遺伝なのでしょうが、昔から胃腸が弱かったんです。それを最初に自覚したのは高校生の頃。好奇心だけは旺盛で、おなかの病気が起こる仕組みを調べているうちに、漠然と医者か薬の研究者になりたいと思うようになっていました。

結局、大学では本当に自分の胃腸に向き合い、胃腸の働きのメカニズムと薬の研究をしていました。

2009年に大学を卒業した際には、研究者になる道、製薬会社の研究職も考えましたが、外資系証券会社で製薬業界のM&Aに携わる道を選びました。学生時代にはベンチャーで製薬業界の分析をする仕事をしていて、ちょうどこの頃、製薬業界の構造が一変し大手製薬会社の多くが生き残るためにM&Aをしていました。ここに面白みを感じたからです。

製薬会社で研究者とバイオベンチャーとを橋渡し

2012年に製薬会社に移り、ここからはバイオベンチャーとの付き合いがより濃密になりました。魅力的なバイオベンチャーを探してきて投資をし、自社の研究者とバイオベンチャーとの共同研究開始のための橋渡しをしました。また、バイオベンチャーを支える仕組み(エコシステム)作りに奔走してきました。エコシステムについては、また別の記事でご紹介します。

現在は、日本国内のバイオベンチャーを中心に、投資とその後の支援を行っています。その中では、優れた技術を持つアカデミアの先生と一からバイオベンチャーを立ち上げるようなケースもあり、自身でも投資先のバイオベンチャーの社長を2年間経験しました。

設立準備から含めると3年近く携わり、事業戦略立案や資金調達はもとより、登記を行い、役所や税務署への書類提出、社内規則をまとめ、従業員の入社手続きに、勤怠管理と給与計算を行い、と全て自分で手を動かしてバイオベンチャーを前に進めていくことを経験しました。VCという、バイオベンチャーに投資を行う立場にいながらの経験をして、バイオベンチャーの社長の大変さを身に染みて痛感しましたし、バイオベンチャー側に立って物事を見ることができるようになったことが何よりもプラスになりました。そんな会社でしたが、私の何倍も薬を創ることに詳しく、情熱を持った社長さんに来ていただくことができ、無事私は役目をバトンタッチすることができました。

ITベンチャーに比べて難しいのか?

これから書いていくnoteは、2つのタイプの方たちに読んでいただけたらと考えています。

①バイオベンチャーやバイオベンチャー投資について知りたい方
②起業をされたい先生や研究者の方


バイオに特化をしていない投資家のみなさんや業界横断的にベンチャーをサポートしている方からは、ITに比べてバイオは難しいというコメントを頂くことが数多くあります。おそらく、体内で医薬品が作用する難解なメカニズム、基礎研究から臨床試験を経て上市するまでの複雑な承認プロセスとそれに連動するバイオベンチャーの資金調達が、理解を難しくしている要因になっているのだと思います。ですが、サイエンスの目利きを除けば(ここが我々バイオに投資をするVCの腕の見せ所の一つ)、さして理解が難しいものではありません。

大学で研究する先生や研究者の方にとって、今、日本のベンチャーエコシステムは急速に整備されつつあります。バイオベンチャーを設立することは、その研究成果を実用化するための近道であり、また成功するチャンスでもあると思っています。

一方で、大学の先生や研究者の方と話していると、素晴らしい研究成果や技術を持っているのだけれども起業に踏み切れない方が非常に多い印象を受けます。研究の世界とビジネスの世界は異なるからという不安を抱き、起業したいけれども一体何から始めたらよいのか、どのような知識が必要なのか、起業した後はどのような工程を辿るのか分からない。そんな声をよく耳にします。

こういった方たちに、私の経験がお役に立てるのではないか。そう考え、私が学んできたことや経験してきたことを活かし、バイオベンチャーに関わる一連の情報をnote上で整理していきます。お付き合いいただければ光栄です。

まずは、製薬業界やバイオベンチャーを取り巻く状況やバイオベンチャーを起業をしてから薬を開発するまでの仕組み、バイオベンチャーに投資を行うベンチャーキャピタルについてまとめていきます。

日米比較から分かる、国内バイオベンチャーの重要性

さらに、起業を目指す方には、私やバイオベンチャーの経営者が過去にぶち当たった壁や経験した間違いも参考になるかもしれません。加えて、米国のバイオベンチャー界隈は、日本よりも一周も二周も早く発展していますので、日米で比較をしながら日本のバイオベンチャーにも有益になる情報、活用できるようなポイントを整理していきます。

人間誰しも、多かれ少なかれ病に直面しますし、薬を必要とします。私ももともとは自分の胃腸の薬を創りたくて、薬の研究をしていました。一方で、まだまだ根治させることができる病は限られており、新薬を望む患者さんやご家族がたくさんいます。画期的な新薬を世に出す様々なピースの一つとして、バイオベンチャーの重要性は増してくるでしょう。


このnoteでの連載が1冊になりました! 『創薬の課題と未来を考える バイオベンチャーがこれから成長するために必要な8つの話』6/13〜発売中

近年、世界で創られる薬の半分以上が、製薬会社ではなくバイオベンチャーと呼ばれる新興企業から生まれています。その代表が、新型コロナウイルス感染症のワクチンで有名になったモデルナ社です。

では、日本の薬を創る現場はどうなっているのでしょうか?

そうした疑問に答えるべく、バイオベンチャーの今とこれからについて解説したのが本書。研究機関、金融、製薬会社、バイオベンチャー、ベンチャーキャピタル、その全てに籍を置き、様々な角度からステークホルダーたちと関わりを持ってきた筆者だからこその視点で、創薬のプロセスからバイオベンチャー起業の仕組み、投資手法、ベンチャーキャピタリストの業務に至るまで、バイオベンチャーで成功する方法を丁寧に教えます。

バイオベンチャーに投資したい人、バイオベンチャーの起業を考えている人へ。創薬の最前線を網羅した、バイオベンチャーの教科書!


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