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ロシアで同人アンソロを発行されている方に色々聞いてみたお話(2021年10月時点情報)

■とりあえず書いただけの前置き

※記事中のインタビューは2021年10月に行われたものです。

 少し前にTwitterでこんなことを呟いたことがあります。

 まず、自分は日本の同人文化について、アマチュアの創作環境という視座では世界一だと思っていますが、それは全てが全て、世界一だと思っているという事では無いです。

 例えば成人向け同人誌の場合、日本では黒棒修正等が必要になる所、台湾では修正基準が日本より緩め(2021年現在)であったり、日本では特定ジャンルの同人グッズの制作がガイドラインの有無関係無く自主判断により製造不可の製造業者さんが多い中、欧米では数多く作られ通販やKickstarter(!)などで頒布されたりしています。
 また製造コストの問題で日本では発注し辛いタイプのグッズも中国では割安で製造できる場合があります。
 同人誌の製造コストについても、オンデマンド印刷の普及により、欧米においては手の届きやすい価格帯になっているようです。少し前、アメリカの作家さんのフルカラーイラスト同人誌のオンデマンド印刷についてお話を聞かせて頂いた事があったのですが、その時に見せて頂いた見積りは 19cm正方形/フルカラー/36P/無線綴じ/マットPP仕上で1冊あたり7.3USDと、自分が以前利用した同種の日本の印刷会社さんより少し高い程度の値段で印刷製本が行えるようでした。
 このように、各部を見ると日本と同等/それ以上の自由度を海外の創作環境に見いだせます。

 しかしそれでも尚、自分が何故日本が世界一だと感じるかというと、全ての要素が平均以上という「総合力」を日本の同人文化が宿していると考えるからです。
 つまり、出版や印刷に携わっていない我々素人であっても、気軽に同人誌・同人グッズを作れて販売できるというこの環境です。
 例えば印刷所を選ぶ事一つにおいても、我々はには多くの選択肢があります。少部数だからオンデマンド、沢山刷るからオフセット、○○印刷さんはカラー口絵差込ができる、△△印刷さんは表紙多色刷りが基本料金内、フルカラーなら□□印刷さんが安い、××印刷さんはサポートが滅茶苦茶丁寧などなど数多くの選択肢があり、しかも同人文化に対して深い理解があり、イベント当日には机の下まで同人誌・グッズを運んで下さったりもして、印刷・製本もキレイ!
 POO松本さんは創作に対する自由/制限という点を語られていましたが、それ以外にも「裁断が雑!」「版ズレが!」「落丁して後半部分が無い!」というような「そもそもキレイに印刷してくれる印刷所が無いんじゃあ…」という愚痴を自分の場合は海外の方から聞く事が多いです(汗笑)。
 また、イベント出展についても、欧米のコミコンスタイルの海外のイベントは一人当たりに割り当てられるスペースが日本の伝統的な同人誌即売会よりも広く、アーティスト達がイベントで自己表現できる自由度が高い一方、広さに見合う設営、陳列を工夫する必要が出てきます。ですので、日本の即売会のスペースに窮屈さを感じつつ、この狭さが設営の簡素化やサークル参加料金の安さに繋がり、気軽に即売会に参加できる素地を作っているのでは?と思いもします。
 加え、開催される即売会の多様さ(コミックマーケット/COMITIA/コミックシティ等々)や開催頻度、サークル/一般参加者の多さ等、綾城さんの本に感化された七瀬氏が思い立ったらすぐオンリーに参加できて乱丁無く印刷できてファンの人が遊びに来てちゃんと本が売れてハッピーという一連の流れがスムーズに実現できる障害の無さ、敷居の低さこそまさに、日本の同人文化の豊穣さ、「総合力」を示していると言えるでしょう。
(しかも、イベント以外にも同人専門書店による委託販売や、BOOTHなど自家通販支援サービスが充実している!)
 自分が海外の作家さんを自分のアンソロに勧誘させて頂く時、こういった「気軽さ」を武器にする(「一回作ってみようよ~そんなコストかかんないしさ~」的な悪魔のささやき)事が多いので、コロナ渦によって様々な日本の同人文化がシュリンクし、「総合力」が低下している今、以前のような巨大なコミュニティを持つ日本の同人文化が戻ってきて、力を取り戻して欲しい――と思っています。

―—と長々と書いたはいいものの、実際海外で同人活動してる人たちはどうやってファンジン(≒同人誌)作ってるんじゃいという実例が不足していたので、ロシアの代表的なSNSであるフコンタクテ経由で通販注文した、漫画「BEASTARS」の同人アンソロ「BEASTARS ZINE」を主宰された方に色々お伺いさせて頂き、以下許可を頂いたので掲載致します。ちなみにフコンタクテのメッセージ機能を使って英語でインタビュー依頼と質問→回答→再質問→すべての回答を元に文章化、という形で纏めさせて頂きました。
 また、「BEASTARS」を原作からではなく、Netflixで配信されているアニメ版「BEASTARS」から興味を持たれた都合上、文中ではアニメ「BEASTARS」と表現しています。
 しかしBEASTARS ZINE、単刀直入なタイトルですね(伏線)。

■インタビュー 「BEASTARS ZINE」の制作について

 皆様はじめまして! Kartohaと申します。ロシアで発行されたファンジン「BEASTARS ZINE」の主催チームの一人です。「BEASTARS ZINE」は私とFaverksが企画したもので、こういたファンジンのプロジェクトに取り組んだのは初めてだったのですが、この経験から多くのことを学ぶことができました。 

 ロシアにはアニメやゲーム、マンガなど、様々なテーマの大きなファンベースがあり、それぞれのファンダム(ファンが集う緩いコミュニティ)に沢山の人々が参加しています。 たとえ小学生など学生であったとしても、ファンダムを通じて同じ趣味を持つ友人を見つけることができます。ファンジンの需要もとても大きく、CIS諸国(独立国家共同体 ソ連を構成していた一部の国により結成された国家連合)では毎日のように新しいファンジンが作られています。
 ただし、BEASTARSの知名度はそれほど高くなく、加えてロシアのコミュニティではファーリー(≒ケモナー)よりもアニメファンがBEASTARSを好む傾向がありました。私たちはBEASTARSのファンジンを手に入れたいと思っていましたが、私たちの国ではこのアニメを題材にしたファンジンを企画するアーティストがいなかったので、制作を決心しました。

 まず、フコンタクテに広告を出し、参加アーティストを募集しました。フコンタクテはロシアで最も有名なSNSであり、広告機能は多くの人(私たちのような個人でも)に利用されています。また、フコンタクテではFacebookと同様、個人ページの他に共通の趣味を持つ人たちのグループを作ることができます。もちろんファンジンに関する公開グループもありますので、私たちのファンジンに関する情報を無料で掲載して頂きました。 その結果、「BEASTARS ZINE」への参加申し込みは200件を超えました。そして、ファンジンの印刷をアピールしているロシアの印刷所を見つけることができ、発行への準備を整えることが出来ました。

 制作は順調に進んでいたのですが、印刷工程で問題が発生しました。事前予約を行ったのですが、予約数の多さとコロナウイルスの影響で、印刷に遅れが生じてしまいました。その後も郵便局が封筒の大量発送を拒否したために、150通以上発送する必要があったにも関わらず、5通づつ小分けをして、毎日郵便局へと走らなければならなくなりました。
 コロナウィルスは他にも大きな影響を与えました。家族の一人がコロナウィルスに感染した結果、感染後1ヶ月間に渡って他の人たちの安全のために家から出ることができませんでした。

「BEASTARS ZINE」は現在、通販のみで頒布しています。しかし、現在住んでいる小さな町から、2年後にロシアの第二の都市であるサンクトペテルブルクに引っ越す予定ですので、今後は同人グッズ制作にも力を入れ、アートイベントやフェスティバルにも積極的に参加していきたいと思っています。 そして近いうちにもっと沢山のファンジンを発表することになるでしょう。
「BEASTARS ZINE」については10部程度在庫があり、他にも同時に制作した同人グッズがたくさん手元にあるので、もしどなたかご興味がある方が居られましたらご連絡頂けましたら幸いです(再販はしない予定です)。

 善行に秘訣は全くありません。ただ、自分を正しく高めることが重要で、そうすれば見返りがあるはずです。

■おまけ

 ということで「BEASTARS ZINE」の在庫を日本でも自分が代理で頒布してもいいんじゃないかなーと思ったりもしたのですが、「宣伝用に本の写真を送ってよ~」とお願いして送っていただいたのがこちら。

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 うーん気のせいにしたいけど思いっきりTVアニメ版のロゴが表紙にあるーッ。日本で何かするのはちょーっと厳しいかなー! ということで今回はインタビューの掲載だけに止めさせて頂き、あとは自己責任でお願いします……。自己責任とはナンゾヤという話ですが……何だろうな……。
 ちなみにロシア、他の同人アンソロも公式のロゴとか何かを何かしちゃう豪快(ポリコレ的に抑えた表現)さでやっている印象で、イギリスの猫ちゃんファンタジー小説シリーズ「ウォーリアーズ」のロシアで発行された同人アンソロ「CATWAR zine」とか通販サイトに掲載されてる表紙の上の部分なんか隠されてますからねYou know whyじゃあないんだよ
 ということでほんとまとめとかコメントし辛くなってきたので唐突に終わります。みんなも楽しい同人ライフをやっていこうな!(やけくそ)

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