ルーシーと魔女 #6
マヤとその母フロレンシアがルーシーの家にやって来ました。
「こんにちは」
大きな声とともにマヤが家の中に入って来ました。
「いらっしゃいマヤ。ママ、紹介するわ。マヤとマヤのお母さん」
ルーシーに紹介され、フロレンシアは微かに会釈をしました。
「こんにちはクロエさん。家に帰ってくると娘はいつもルーシーの話をする
んです。毎日ね。大好きなお友達の家に来れて嬉しいわ」
「こちらこそ、いつも遊んでいただいてありがとうございます。
我が家でもいつもマヤの話をしてるわ」
クロエはフロレンシアの顔を見ましたが、彼女が子供の頃、ずっと遊んでい
たフロレンシアなのか確信はもてませんでした。
面影がある気もするし、無い気もするのです。
それから4人は昼食を食べました。
クロエとルーシーで準備したご馳走です。
二人でどんな遊びをいつもしているのか、
大好きなお菓子や本のこと、二人は止まることなくしゃべり続け、母親二人
は、そんな娘たちの様子を見てケラケラと笑いが止まりませんでした。
「そろそろ。お庭で遊びたいんだけどいい?」
ルーシーの申し出にクロエは頷きました。
「ええ、いってらっしゃい。遠くにはいっちゃダメよ」
「わかったわ」
ルーシーとマヤは、走って外へと出て行きました。
家の中は、クロエとフロレンシアの二人きりになりました。
「紅茶を入れますね」
クロエがキッチンで紅茶を入れ戻ってくるとフロレンシアに勇気を出して
質問をしました。
「あなたはマヤくらいの年の頃、仲良く遊んでいた女の子のお友達は
いた?」
「ええ、いたわ」
「その子との思い出に辛い記憶はある?」
「ええ、少し。でも、」
そう言うと、フロレンシアは目を瞑り、何かを思い出すように話をし始め
ました。
「少し悲しい言葉を言われたの。勇気を出して自分の秘密を告白したのに
嘘つきって言われた。嘘じゃないのに私が嘘をついていると言われたの。
親友だったから信じてくれると思っていたのに悲しかったわ。
でもね、後悔していないの。どうしてかわかる?」
「わからないわ。信じていた友達に裏切られたら後悔するものよ。
どうしてこの子に言っちゃったんだろうって」
「そうね。正確には少し前までは後悔していたかもしれない。でもね、
娘に親友、そうルーシーの話を聞いて、その後悔は完全に無くなったの。
娘もね、自分の秘密をルーシーに告白したの。
そうしたらね。
『信じるに決まってる。友達の言うことは信じるわ。』
ルーシーがそう言ってくれたって、マヤはとても嬉しそうに私に話すのよ。
ルーシーはとても優しい女の子ね。
素晴らしい娘を育ててくれてありがとう、クロエ」
クロエはフロレンシアの目を見つめ、フロレンシアもまた
クロエの目をまっすぐ見つめていました。
「フロレンシア。私よ。あなたと小さい頃ずっと遊んでいた女の子。
そしてあなたのことを魔女だと信じてあげられなかった女の子、
クロエよ。」
「ええ、わかってたわ。娘からあなたの名前を聞いた時から。」
「ごめんなさい。フロレンシア」
クロエの涙が紅茶の上にポツリと落ちました。
「ううん。謝らないで。あなたはずっと最高の親友よ。私ね、あなたと会わ
なくなってからも魔法が使えなくなることはなかったの。今でも使える。
だからマヤも魔女になれた。
これって、お互いが親友じゃないとそうはならないの。
ずっとあなたが私のことを親友だと思ってくれていたから魔法は使えたの。
いきなり魔女だと言われたら、誰だって信じられないわ。子供だから
ひどい言葉も言ってしまうんだと思う。
でもね、想っていてくれたから私は救われたの。
魔法が使えているということは、あなたがずっと私のことを親友だと思って
くれているって」
クロエの涙が2粒、3粒と紅茶の中に入ります。
「その涙をミルクに変えてあげるわ!」
フロレンシアがそう言うと、カップの中の紅茶が一瞬にしてミルクティーに
変わりました。
それから二人は、陽が沈むまで仲良くおしゃべりをしていました。
「私たちもおしゃべりが止まらないわね」
子供の時と同じようにケラケラと笑いながら。
おわり
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