「あっ、分かった」ってどんな瞬間??|作品上演ユニット「階」を観る楽しみ【PR】
ある演劇ライターさんにお聞きしました。
ーー階作品の印象は??
分からない状況を何となく観ていても、
『あっ、分かった』と変化する瞬間がある。
いったいどんな作品なのでしょう……?
「階」は、関西を拠点に活動する作品上演ユニットです。劇作家で演出家の久野那美さんが代表を務めています。階の大きな特徴は、公演の内容にあわせて団体名(階)を更新していること。
2022年〜2023年現在は、「缶々の階」として 『だから君はここにいるのか』の上演を重ねており、5月31日からは、東京公演が開幕します。
第12回せんがわ劇場演劇コンクール グランプリ受賞公演
缶々の階「だから君はここにいるのか【舞台編】【客席編】」
冒頭で階作品の印象について教えてくださったのは、演劇ライターの吉永美和子さん。吉永さんは、船の階(1999)以来、頻繁に階作品を観劇しており、代表である久野さんへのインタビューも数多く重ねられています。
お芝居の内容が、頭で理解しようとして「分かる」のではなく、ゆるりと観劇をしているなかで突然「分かった」に変わるというのです。なぜ、変化するのか……。東京公演に出演する4名の俳優、そして階代表の久野さんも交え、階作品を観劇する楽しみについて深めてまいります。
【お話をお聞きした皆さん】
俳優にとっての階作品
ーー俳優の皆さんにも、階作品の印象についてお聞きしたいです。三田村さんと七井さんは、階の公演に多く出演されていますが、いかがですか。
三田村:僕の知る限り、階作品は少なくとも関西では希少というか……非常に特異な劇世界です。周りからは「複雑な多重構造」「詩的な台詞」などと言われることが多いので小難しいことをやっていると思われがちですが、俳優として参加していて、難解な作品をつくっているという感覚はありません。非常に自然に、チャーミングさを大事につくっています。
七井:久野さんの戯曲は、具体的だけれど具体的でないというか。登場人物は自分にとっての確かな"それ"を語っているのですが、言葉の選び方に厚みがあるので、人によって想起されるものが幅広くあると思います。
ーー関さんは初めての出演です。田宮さんも、久野さんの演出で出演するのは、今回が初めてですね。
関:はい。観客として階作品を観ていたときは、面白いけれどあまりよく分からなかった……という感覚がありました。しかし、考えたい!と思わせるポジティブな分からなさだったんです。とても気になっていたので、今作のオーディションを受けました。稽古を重ねていると、セリフが自分の生活の記憶と結びついてハッとする瞬間があります。それが面白いです。
田宮:僕も何となくシーンを観ていて「あ、分かった」と印象が変化することがあります。作品の展開はもちろん、その場に立つ俳優を見ているだけでも楽しいです。
批評の場に居なかったからこそ
ーー昨年、東京調布市で開催された「第12回せんがわ劇場演劇コンクール」において、階(缶々の階)はグランプリを受賞されています。
吉永:獲るべくして獲ったんだと感じつつ、拠点である関西で、もっと早く評価されても良かったのでは……とも思いました。関東と関西では、演劇を観る姿勢に、少し違いがあると感じています。
久野:点転の階(2021)のときは、大阪(関西)だけでなく埼玉(関東)でも上演しました。関東のお客さまは「この作品は一体何なのか」を丁寧に言葉にしてくださるご感想が多く、Twitterで5~7つの連続投稿を寄せられた方もいらっしゃいました。一方関西のお客さまは、ご自身の経験を踏まえて感想を書いてらっしゃいます。自分の中学時代の思い出とか。
吉永:分かります分かります。関西で観劇をされる方は、自分の経験や感情のフィルターを通して「自分はこう思った」「これってこういうことですよね」と感想を語る傾向が多い気がします。関東の方は、これはどういう物語で、どういう構造で……というように、できるだけ作品を客観視している印象があります。三田村さんも心当たりありませんか?
三田村:たしかに、関東のお客さまのほうが、批評的な見方をされている方が多いと感じます。
吉永:関東の演劇団体は、そういった批評的な感想をいただくことで、団体としての魅力を鍛えることができますが、今の演劇界でのレベルをハッキリと突きつけられるので、ペースを乱してしまう人もいるそうです。
もし久野さんが関東で活動していたら、「もっと作品に社会的な要素を入れろ」みたいな批評によって、すごくペースを乱されたんじゃないかと思います。関西で活動をしていたことで、周りのことを気にせずに、本当に好きなものをつくり続けることができた。だからこそ、昨年せんがわ劇場演劇コンクールで上演したとき、「こんなに新しい演劇があったのか」と、良いショックを与えられたのだと思います。
登場人物のために、戯曲をつくる
三田村:ちょっと興味深いエピソードがあって……。以前久野さんが「何のために戯曲を書くんですか?」と質問を受けたとき、即答で「登場人物のためです」と答えていたらしいんです。 僕にその発想は無くて、なるほどなと思いました。久野さんは、演劇を通して自分の主張や思想を社会に訴えたいというよりはまず、虚構を純粋に愛し、それに奉仕している人だと感じます。
ーー久野さんはどうして「登場人物のためです」と答えたのですか?
久野:登場人物(=つまり、虚構)は、作家が書かなければ存在しないからです。それ以外の答えは思いつかなくて。私は虚構を創りたいのだと思います。現実社会に生きているからこそ、その場所から虚構をつくりたいんです。
吉永:ただ、ファンタジーではないですね。
久野:そう、ファンタジーじゃないかもしれません。妖精とか出てこないですもんね。昔、ある人に「あなたはね、星ばっかり書くでしょう。もうちょっと地に足をつけないとね」と言われたんですよ。私は「地に足がついていないと、星は見えないですよ」って返しました。地に足をつけて、星を書きたいんです。現実社会と虚構との距離の取り方について、私はそういうふうに考えています。
吉永:そうそう、すごく地に足がついているんですよ。現実社会を書く人とは、見ている方向が異なるだけですね。
ーー戯曲の内容はどのように考えていますか?
久野:戯曲づくりより先に、次の公演予定が決まっていることが多いので、そのときの自分の環境にあわせて考えています。
たとえば、缶の階(2014)。
今回(缶々の階)と同じ作品の初演です。このときは久々の演劇公演だったので大がかりなセットを組むことが難しく、劇場の劇にすることでシンプルにしました。人数も少なくして2人芝居にしました。
また、点々の階(2021)のときも印象的で。
囲碁をもとにした作品なのですが、ちょうどその頃に囲碁ファンの方々と知り合ったことが、創作のきっかけです。囲碁を広めるために囲碁を題材にした劇をつくってほしいと言われました。
ーー 今置かれている環境にあわせた、自然な創作活動をされている。理想だけを求めない点は、「地に足をつけて星を書く」をまさに体現しているように感じます。昨年、せんがわ劇場演劇コンクールに出場した際は、なぜ缶の階と同じ戯曲を?
久野:この作品だけが、劇場でないと上演できない作品なんです。劇場が舞台になっているので。最近あまり「劇場」で公演をしていないのですが、このコンクールでは必ず劇場で上演することが分かっていたので、この機会に再演したいと思いました。
稽古中は"探偵"です
ーー演出をするときは、どんなことを考えていますか?
久野:何を考えているんでしょうね……。戯曲に書かれていることを、できるだけそのまま舞台にしたいと思っている気がします。
吉永:以前取材をしたときに印象的だった話があって。久野さんに演出について尋ねたとき、「演出の仕事ってなんだと思いますか」と逆に質問されたんです。私は「どんな洋服を着ていたらこの戯曲が一番素敵に見えるのかを考えることですかね」と答えたら、久野さんは「そうしたら私が考えるのは、この子はどういう服を着て生まれてきたんだろうってことだと思います」と言われました。
久野:言いました!どんな服を着ていたのかを考えるときは、"探偵"のような感覚です。稽古中は、俳優と一緒に謎を解いている感じですね。
関:稽古でシーンを立ち上げたとき、久野さんはその場で生じた結果について深く考察を始めます……探偵ですね(笑)。「いま、~~が起きていましたけどなぜですか」と問いを投げかけられます。そこから俳優たちが出した仮説をもとに組み立てていき、みんなで一緒になって作品が生まれています。
七井:そうですね。久野さんは俳優に「なぜそうなったのか」「そのときどう感じたのか」といった質問を繰り返します。その答えを積み重ねたうえで「ここはこうしてほしい」と、ディレクションをしていく。俳優の身体の自然な反応に寄り添っていくような演出家だと思います。
せんがわ劇場での公演へ向けて
虚構を描いているものの、戯曲をつくるときや演出をするときは、なにが自然なのかを考えている。フィクションの合間にノンフィクションが存在しているから、その現実が自身の感覚と結びついたときに「あっ、分かった」という変化が生まれるのでしょうか。
さいごに、せんがわ劇場での公演へ向けて、意気込みや期待をお聞きしました。今回の公演は階作品を東京で観劇できる貴重な機会です。階作品を観劇しているとき、劇場空間にふわふわと浮かぶセリフの数々が、なんとも心地よいのです。居心地の良さに深呼吸しながら「あっ、分かった」と変化する楽しみを、皆さんで一緒に、味わいたいです。
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田宮:稽古が始まって半年ほど経っていますが、未だに課題がどんどん出てきています……。日々ブラッシュアップを繰り返していて、目に見える形でどんどん良い作品になっています。ぜひ楽しんでもらいたいです。
関:生きていて出会わないような台詞が、紐解いていくと、どこか自身の記憶と結び付く瞬間に巡り合う。そこが階作品の素敵なところだと思います。たくさんの方に味わっていただきたい。今回は濃密な二本立てを、合わせて2時間ほどで上演します。ぜひ見に来てほしいです。
七井:久野さんの戯曲の台詞は、現実と虚構の合間の淡いところにありながらも、リアリティを語っている言葉だと思います。その言葉を丁寧に伝えられるように頑張っているので、ぜひ聞いていただけたら嬉しいです。
三田村:僕は階作品は「謎」だと思っているんです。決して分かりやすい演劇ではない。しかし今回は、「舞台と客席があって、俳優がいる」という演劇の基本的な構造がテーマで、間口がとても広い作品です。先入観なしに、ふらっと見に来ていただきたいです。お待ちしています。
吉永:登場人物のために戯曲を書くからこそ、久野さんの作品には、キャラクターそれぞれに深い物語が存在しています。それが絡み合うところが、階作品の面白さです。難解と言われてしまうのも、その絡み合いがなかなか複雑だからかもしれませんね。
今回の作品は、舞台編も客席編も登場人物が2人しかいないので、三田村さんも言うように構造が分かりやすいです。階作品を観たことがない人にも、久野ワールドを知るきっかけとして、ぜひ観ていただきたいです。
久野:吉永さんの言うように、登場人物の数だけ物語を重ねたいと思いながらつくっています。今回は劇場の話ですので、登場人物に加えて、「舞台」と「客席」それぞれの物語もあります。自由な視点で観ていただき、楽しんでもらえたら嬉しいです。
◎公演情報◎
第12回せんがわ劇場演劇コンクール グランプリ受賞公演
缶々の階「だから君はここにいるのか【舞台編】【客席編】」
期間:2023年5月31日(水) 〜 2023年6月4日(日)
会場:調布市せんがわ劇場
取材・構成・文:臼田菜南、田中莉紗、成島秀和
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