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いのちの触れ合いを切り取って――東京都美術館「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」

11月16日(木)より東京都美術館にて開幕した、上野アーティストプロジェクト 2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

おちらしさんでは、美術版10月号にて素敵なチラシをお届けしました!

同時開催のコレクション展「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」とともに、いきもののいのちと、それを見つめ続けてきた人々との温かな交わりに触れることができる企画となっています。


上野アーティストプロジェクト 2023
「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

私たち人間の身の周りに生きる、様々ないきものたち。その中でも一つを追い続け、作品のテーマとして取り組んできた6名の作り手を特集しているのが、今回の「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」展です。

きのこ ―小林路子

左から、小林路子《ケショウハツ》、小林路子《シイタケ》

まず最初のフロアで並ぶのは、きのこを描き続けてきた画家・小林路子さんの作品。小林さんは絵本の挿絵として描いたことをきっかけに、野生きのこに“一目惚れ”したそう。身近な公園や野山できのこを探しては描き続け、これまでに850点以上の作品を制作されています。

左から、小林路子《ヤナギマツタケ》、小林路子《ヒイロチャワンタケ》

食卓にも並ぶ身近な存在ながらも、謎に包まれた菌類の存在はたしかにどこか魅惑的です。本展のために各作品に添えられた、小林さんご本人の解説にもご注目ください……! きのこのキャッチーな親しみやすさと、計り知れない奥深さに惹き込まれます。

左から《ヤナギマツタケ》、《ヒイロチャワンタケ》の解説文

植物 ―辻永

続く壁一面やガラスケースに飾られているのは、辻永(つじ・ひさし)さんの作品。明治末期から昭和にかけて活躍した洋画家です。

左から、辻永《未詳》、辻永《未詳》

山羊をモチーフにした油絵で知られていますが、本展でのメインは少年時代から2万点以上を描き続けていたと言われる植物スケッチ。ずらっと年代順に並べられた圧巻の作品97点は、小林さんの生涯にわたるライフワークそのものです。一つ一つの草花からは、慈しみと愛情を込めて大切に記録されてきたことが伝わります。

辻永《ひるがお》

鳥 ―内山春雄

ここまでのフロアでは、実は端々に鳥が佇んでいました。内山春雄さんによる鳥の彫刻・バードカービングです。ふわりと幾重にも羽が折り重なることで生まれる、鳥類の柔らかな丸みと厚み。じんわりと温かな体温さえ想起させられます。

内山春雄《イワヒバリ》

本物そっくりのバードカービングは、群れで生活する鳥をおびき寄せ、保全する目的での囮「デコイ」としても実際に使われているそうです。鳥たちにも仲間だと認識されているとは……今にも動きだしそう!!

内山春雄《クロツラヘラサギ》

階下では、目の見えない方からのリクエストで生まれた、触れることで鳥の姿形を知ることができる「タッチカービング」のコーナーも。展示内ではペン型の機械を使用し、鳥の鳴き声も合わせて聴くことができます。

内山春雄《ヤンバルクイナ(タッチカービング)》

馬 ―今井壽惠

エスカレーターで下のフロアに降りると出迎えてくれるのは、写真家・今井壽惠(いまい・ひさえ)さんの作品です。デビュー後に交通事故に遭い、1年半ほど視力を失った今井さん。回復してから初めて観た映画『アラビアのロレンス』をきっかけに、馬の美しさに魅了されます。

今井壽惠《アグネスタキオン 皐月賞》

競走馬をはじめ、世界各地の馬を撮影した写真の数々は、生命の力強さと今井さんの視線とが対峙しているよう。ほとばしる熱量が感じられます。

今井壽惠《シンボリルドルフ 天皇賞のあと》

牛 ―冨田美穂

手前から、冨田美穂《701全身図》、冨田美穂《891全身図》

続いてのコーナーで目に入るのは、実寸大の大きな牛の絵。冨田美穂さんの木版画です。東京都出身の冨田さんは、学生時代に北海道の酪農牧場でのアルバイトを体験したことで初めて間近で牛と出会い、その愛らしさを描き始めました。

冨田美穂《701全身図》

それから20年が経った現在は、北海道に移住。酪農家と木版画家、二足のわらじを履いて活動されています。きゅるんとした眼と包み込んでくれるような大きな体格、温かな佇まい。いのちに触れ続けているからこそ描ける、ありのままの優しさを写した作品です。

冨田美穂《1554》

ゴリラ ―阿部知暁

展示の最後を飾るのは、“ゴリラ画家”・阿部知暁(あべ・ちさと)さん。2メートル弱の大きなカンヴァスに、ずっしりとした風格で構えるゴリラたちが描かれています。

阿部知暁《ハオコ・コモモ・モモカ》

子どものころに動物園の小さなゴリラに笑われた出来事が、頭から離れなかったという阿部さん。大人になり絵を描くことに挫折しそうになったときに、大先輩の「好きなものを描くといいよ」というアドバイスから、ゴリラの絵に取り組み始めました。40年にわたり、動物園やアフリカの森で生きる彼らの逞しくも穏やかな姿を描き続けています。

阿部知暁《スノーフレーク》


コレクション展「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」

同時開催のコレクション展「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」もご紹介しましょう! こちらは主に東京都立の美術館・博物館に所蔵されているコレクションを活用し、構成された展示です。動物園を通して考える、いきものと人間の向き合い方やその歴史に焦点を当てています。

酒航太《ZOO ANIMALS》

皆さんは東京都美術館のお隣に位置する上野動物園が、日本最古の動物園であるとご存じでしたか? 上野に動物園が誕生するまでの歴史的資料や、カラー印刷が始まった昭和初期の入場チケット、戦時下でのポスターなど、展示品からは人間の営みが動物園という施設にも大きな影響を与えてきたことが伺えます。

上段、歌川国輝(2代)《浅草観音境内ニ於テ興行仕候 仏蘭西曲馬》
下段左から、《浅草公園花やしき大象》、浦野銀次郎《浅草公園花屋敷及十二回之真景》
《動物園入場券》
左から、《軍馬並軍用動物感謝の夕ポスター》、《軍馬並軍用動物感謝週間ポスター》

また、展示内のスライドでは、動物園に来た人々の姿も。2016年に亡くなり、日本で飼育されたゾウの中で最も長生きだったという、井の頭自然文化園のはな子との記念写真が映し出されるコーナーでは、世代を超えて愛されるいきものと動物園がその場所にあり続ける意義を強く感じました。

左から《上野動物公園》、《上野動物園》

作家によって丁寧に親しみ深く象られたいきものの姿と、歴史を積み重ねてきた動物園の姿。2つの展示を通して、いきものと人間との温かないのちの触れ合いを見つめ直してみてはいかがでしょうか。

ヘッダー写真/内山春雄《ヤイロチョウ》
文/清水美里(おちらしさんスタッフ)

上野アーティストプロジェクト 2023
「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」


会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館

[同時開催]
コレクション展「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」

会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝)
会場:東京都美術館 ギャラリーB
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館

※2023年12月21日(木)~2024年1月3日(水)は、整備休館・年末年始休館ですのでご注意ください。

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