焦燥、うねり

夕方になり、家を出た。
どこへ何しに行くというわけでない。崖から、今日の海を見た。
沈む行く夕陽を見て、ぼんやりとした気持ちになる。これは、夢想である。
私は夢想の中でしか生きられなかった。夕陽や、照らされた海面が美しい。
心が美に触れると、瞬間、世界が変わり、視点が変わる。夕陽を見て美しいと感じているのは、さっきまでの私ではない。美しいものが存在する、それだけでよいのであって、私なぞどうでもいい。すこしどきどきして瞬きをすれば、今度は焦燥、浮遊、諦念などといった感がある。
少し散歩をする。灯りがないので、陽が沈む前には戻らねばならない。
海岸に続く道を下っていく。15分程歩くと、涙がこぼれる。
今日は僕が世界を歩いている。僕とは、私の夢想を生きている人物である。
海岸に着き、砂浜を少し歩いた。それから岩に腰掛け、休む。今日は家に戻らず、ここで寝ることにしよう。
18時を過ぎれば真っ暗である。ライトを持たずに野宿をするときは、日の入りや日の出に合わせて活動せねばならない。穏やかに聴こえた波の音が、目を瞑ると恐ろしく聴こえた。気づくときっと僕は波にさらわれていて、海の中でそのまま眠り、独り夢を見るのだ。
どうにでもなればいいと、眠りにつく。僕に日常は無い。

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