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パズルみたい

「前に付き合っていた人に、3000ピースのパズルを1から組み立ててプレゼントしたことがあるかな。」
彼はそう答えた。

サプライズって、したことあるの。
と、聞いた。

ホテルを予約して、部屋をさまざまな形のバルーン、カラス除けに使えそうなキラキラのテープ、高級ブランドのロゴが入ったたくさんの袋で飾り付けをする。
または、レストランを予約して豪華なコース料理、最後にはチョコレートで書かれた名前入りのパチパチケーキで締めを飾る。

キラキラ、パチパチ、光り輝く。人は夜景が好きなものだ。星が好きなものだ。光が好きなのだ。

大抵のサプライズはこんなものだろう。
彼、または彼女への気持ちと共にバルーンを膨らませる。
彼、または彼女と彩よく美味なものを共有する。
キラキラ輝かせるのだ。気持ちと共に。

パズル自体は挑戦したことがある。しかし、難易度が易しいものしかない。
3000ピースって少ないのだろうか、多いのだろうか。

細かくコツコツとしたことが嫌いな彼だ。
毎日2,3枚しか出ないパーキングの領収書に名前を書かない。そうして月末の経費精算でイライラする。
月末に提出しなければならない資料をなぜか締切日の2時間前に取り組み始める。
実に怠惰なのだ。
そんな彼が1から形のないものを繋いでいく。組み立てていく。

部屋が散らかっている。服が床に放り投げられている。
そんな彼が1つもピースを無くさずに作り上げる。
組み立てていく。

そうだ。そんな彼にとっては3000ピースなんて膨大なものに決まってる。
決まっているのに。作り上げるなんて。

私は彼へのピースが埋まらない。
恋人というものは一緒にいずとも不安になる、またはさせるものなのだろうか。
意を唱える者なぞ偽善者なのだろうか。

ピースは埋まらない。
1ピースが埋まらない。不安が埋まらない。

彼の腕の中で「好き」と伝えたとしても答えることない。
抱きしめる力が強くなる。
ふーっと息を吐いて強く。
もっと強く。
ピースは埋まる。
安堵について眠りにつく。
目覚めるとピースはどこかへ消えている。
離れるとどこかへ無くなってしまう。

彼だけが持っているピース。
私が手に入れたい。
手の中に入れてぎゅっと握っていたい。
でも私が触れてもふわっとして消えてしまう。

以前の女性(ヒト)にピースを埋めてパズルを渡した。
紛失することなく。

手繰り寄せたい。
手繰り寄せられたい。

交わらなければ触れることができない。
その瞬間だけが、その時間だけが。
唯一パズルが完成する。

私はキラキラ、パチパチが嫌い。
嫌い。大っ嫌い。目障り。
そんなものでは私のパズルが埋まらない
あなたの持つピースでしか埋まらない。
そんなもので表現できるものじゃあない。

言葉じゃなくて、可視化できるものじゃなくて
触れられないもので埋めて。交わって埋めて。

きっと、私のパズルは完成しても形のないもの。
何も絵は出来上がらない。
ぐちゃぐちゃでぐちょぐちょなちぐはくな汚いパズル。

愛おしいからこそ思い通りにならない。
私の心を酷くかき乱して退化させる。
心にしかうつらない。
誰にもうつさせない。
私だけのもの。
彼への気持ちは私だけのもの。

綺麗な色になんか絶対になってやんない。
だからあなたもぐちゃぐちゃぐちょぐちょの
醜いパズルを完成させて、見せて。

他のヒトには見せることのできない、
渡すことのできない、
モノ。

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