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サイバーパンク2077の悲惨なローンチの裏側

タイトルの件について、ブルームバーグの記事が日本でも話題を呼んでいる。いくつものメディアで既に紹介されているが、実際にPS4版をプレイして地獄を見た俺としても、備忘録として当該記事の全文を理解しておきたいと思ったため、ここに翻訳を残しておく。若干の意味の補足はしているが意訳は極力避け、直訳気味の平易な翻訳であることを先に断っておく。

開発者によると、会社は本作がリリースできる状態ではなかったことを知っていた

CD Projekt SAのCEO、マルチン・イヴィンスキは今週、12月に発売されたゲーム『サイバーパンク2077』の悲惨なローンチについて、公式に過ちを認めた。彼は自分個人に責任があるとし、開発チームを責めないようファンに求めた。

悲しげな5分間の動画の声明とそれに続くブログの投稿で、イヴィンスキは本作が『自分たちの求める品質水準を満たしていなかった』ことを認め、『自分とリーダーシップチームはこの件について深く反省している』と述べた。

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一ヶ月の間で二度目となったイヴィンスキの謝罪は、このポーランド企業に対するファン―そして投資家―からの名誉を挽回する試みだった。ファンはこのゲームの発売を8年待ったが、やっと発売となった時に分かったのは、本作がバグとパフォーマンスの問題でボロボロになっているということだけだった。デビュー失敗を巡る騒動により、CD Projektの株価は12月10日から1月中旬にかけて30%の下落を引き起こした。

20名を超えるCD Projektの現/旧スタッフ(ほとんどはキャリアへのリスク回避のため匿名希望)へのインタビューにより、抑制の利かない展望や粗末なプランニング、そして技術上の欠点により台無しになった開発プロセスが浮き彫りとなった。初めてゲームの制作について話し合ったスタッフたちは、会社が開発を犠牲にしてマーケティングに集中していたことや、開発最終段階のずっと前から一部スタッフが長期的に残業しなければいけなくなるようなプレッシャーをかけていた、非現実的な締切について述べた。CD Projektは開発プロセスについてのコメントやこの件についてのインタビューを拒否している。

このポーランド企業は、サイバーパンク2077の拡張DLCの計画や人気フランチャイズであるウィッチャーの続編開発の代わりに、サイバーパンク2077の修正作業に向こう数か月を費やすことになるだろう。新しいアップデートの第一弾は1月末にかけて、第二段は『その数週間後』にリリースされるとイヴィンスキは述べている。

開発チームが思い描いていた2021年の始まりはこんなものではなかった。今となっては、彼らはリリースの成功を祝う代わりに、サイバーパンク2077を贖罪の物語へと転換しようとしている。これは困難な闘いになるだろう。EAやUBIソフトのような競合他社とは異なり、CD Projektは数年に一度しか大作ゲームをリリースしないので、サイバーパンク2077の大ヒットに賭けていたのだ。

SFディストピアを舞台にしたロールプレイングゲームであるサイバーパンク2077には有利な点が多くあった。ワルシャワに拠点を置くCD Projektは以前発売した大作タイトルであるウィッチャー3で既に有名となっており、大規模な広告キャンペーンと主演のキアヌ・リーヴスが、サイバーパンクにとってうまく働いていた。発売前の広告宣伝のおかげで、一本60ドルの本作はリリースから10日で1300万本を売り上げた。CD Projektは、一時的ではあったが、ポーランドで最も時価総額の高い会社となった。

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発売前レビューは概ね高評価だったが、ひとたびプレイヤーが本作を手に取ると、PC版には問題があり、コンソール版ではほとんどプレイ不可能であることが判明した。パフォーマンスがあまりにも劣悪だったため、ソニーはプレイステーションストアから本作を削除し返金を受け付けるという異例の対応を取り、一方のマイクロソフトは『ゲームがアップデートされるまではパフォーマンスに関する問題が起こる恐れがあります』と消費者に警告するラベルを貼り付けていた。CD Projektは投資家を欺いたとして、民事訴訟に直面している。

メッセージの中で、イヴィンスキは会社が『タスクを過小評価していた』ことを認めている。彼の言う事によれば、ゲーム内の都市は『非常に詰め込まれており、旧世代コンソールのディスク帯域は据え置きであったので、それが常に課題となっていた』とのことである。ゲームのリリース前にはCD Projektで広範囲に渡るテストが行われたが、プレイヤーが体験した問題の多くは見られなかったとイヴィンスキは述べた。しかし本作の開発に携わった開発者は、よく知られているような問題は多く見つかっていたという別の主張をしている。スタッフには修正の時間がなかっただけなのだ。

サイバーパンク2077はどう考えても野心的なプロジェクトだった。CD Projektの以前のヒット作であるウィッチャーは、剣と魔法の中世ファンタジー世界を舞台にしていた。しかしサイバーパンクでは、全てがその枠組みから外れていた。サイバーパンクはファンタジーというよりSFである。画面上に自キャラが表示される三人称視点カメラの代わりに、サイバーパンクは一人称視点を採用した。サイバーパンクの開発にあたって、CD Projektはこれまで未開拓だった新しいテクノロジーやスタッフ、技術に投資する必要があったのだろう。

CD Projektが事態をずっとややこしくした別の理由として挙げられているのは、サイバーパンク2077の内部で動くほぼ完全新規のゲームエンジンを、ゲームそのものと同時に作ろうとしたことであり、これが制作を遅らせていた。開発チームの一人はこのプロセスを、目の前に線路を敷きながら電車を走らせる試みと比較していた。線路の敷設が数か月先から始まっていたら、もっとスムーズに事が運んでいたことだろう。

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CD Projektでかつてオーディオプログラマーとして働いていたアドリアン・ジャクビアックによると、彼の同僚がミーティングで、技術的により困難なプロジェクトをウィッチャーと同じ時間でやり遂げられるのかについて会社の考えを聞いたところ、『やってるうちに分かるさ』と誰かが答えたという。

何年もの間、CD Projektはこの精神性でもって繁盛してきた。だが今回はうまくいかなったのだ。『うまくいかないことは私には分かっていました』とジャクビアックは言った。『どんなに酷くなるかについては分かりませんでしたが』。

ファンからの失望の割合は、彼らがゲームの発売を待っていた時間に比例している。サイバーパンクは2012年に発表されたが、当時のCD Projektは主に直近の作品に注力したままであり、全面的な開発は2016年後半まで始まらなかったと従業員は述べている。このプロジェクトに詳しい者によると、CD Projektが実質的にリセットボタンを押したような出来事が起こっていたのだった。

スタジオのヘッドであるアダム・バドフスキが後任のディレクターに就任し、サイバーパンクのゲームプレイとストーリーの全面的な改修を要求した。その翌年には、ゲームプレイ時の視点のような根本的な要素を含む、全てが変更されていた。ウィッチャー3に携わった最も優秀なスタッフはサイバーパンクがどのように作られるべきかについて強い意見を持っていたためにバドフスキと衝突し、これが最優秀の開発者数名の退社という結果を招いた。

サイバーパンク2077に関わった数名の人々によると、CD Projektが注意を払っていたことのほとんどは外部に向けたイメージ戦略だった。ゲームプレイの一部が披露されたのは2018年、業界の主な交流イベントであるE3でのことであった。そこで見せられたのは、メインキャラクターがミッションに出かけるというものであり、怪しげで犯罪に満ちたナイトシティの周遊旅行をプレイヤーに体験させてくれた。

サイバーパンク2077の展望とスケールに、ファンや記者は驚嘆した。しかし彼らが知らなかったのは、このデモがほとんど全てフェイクだったことだ。CD Projektは本作を完成させておらず、基礎となるゲームプレイシステムのプログラミングもまだだった。車での待ち伏せといった多くの要素が製品版で見当たらなかったのはこのためである。本来はゲームの開発に使われるべきだった数か月間がこのデモのせいで無駄になったように思うと、複数の開発者は語る。

サイバーパンク2077の開発に当たって残業は義務ではないとイヴィンスキがスタッフに伝えていたにもかかわらず、彼らは長時間働いていた。10人以上の社員が、時間外労働するようにマネージャーや同僚からプレッシャーをかけられていると、何かにつけて感じていたと述べている。

『一日に13時間もの過重労働をする時があり―私の記録ではもう少し多かったかもしれませんが―1週間に5日はそんな感じで働いていたのです』と、かつてのオーディオプログラマーであるジャクビアックは述べ、結婚した後に会社を辞めたと付け加えた。『こうしたふざけた行いのせいで家族と別れることになった友人が何名かいます』

この時間外労働がゲームの開発を幾分早めることもなかった。2019年6月のE3で、CD Projektは本作の発売が2020年4月16日だとアナウンスした。ファンは意気軒昂になったが、開発チーム内部では、一部のメンバーはそれまでにどうやって完成させられるのかと頭を抱えるしかなかった。あるスタッフによると、彼らはこの日付がジョークだと思ったという。チームの進捗に基づき、ゲームの完成は2022年内を予想していたのだ。開発者たちはゲームの発売延期をネタにし、それがいつ現実になるか賭けをしていた。

いくつかの要素を無くしたり、サイバーパンクの大都市のサイズをスケールダウンしたりといったことは開発の手助けになったが、チームの拡大が一部の部署にとっては妨げになったと、複数の開発者は述べている。

ウィッチャー3がおおよそ240人の社内スタッフによって制作されたのに対し、会社によると、サイバーパンクのクレジットには500人を優に超える内部のスタッフが名を連ねている。しかしCD Projektはこの規模の開発に慣れておらず、開発に携わった人によると、彼らのチームはヨコの連携も統率も取れていなかったように思えたそうだ。

それと同時に、CD Projektは人員不足のままだった。会社の求める品質水準として例に挙げられていたGTA5やRDR2のようなゲームは数十の会社と何千人もの人々によって作られているものだ。

また、アメリカと東欧でそれぞれエキスパートを雇ったことにより引き起こされた、文化的な障壁もあった。非ポーランド語話者とのミーティングでは全員が英語を話すようにスタジオは義務付けていたが、誰もそのルールには従わなかった。

締切がますます非現実に見えてくるのにも関わらず、経営層は延期を考慮しなかった。彼らの目標は、2020年秋に発売が予想されていたマイクロソフトとソニーの新型コンソールが発表される前に、サイバーパンク2077をリリースすることだった。従来のPS4、Xbox One、そしてPC向けに発売し、そのあとに次世代機向けバージョンをリリースすれば『二重に稼げる』ということだ。今では、旧世代機版を購入した人は次世代機を手に入れたときの無料アップグレードが利用可能になっている。にぎやかな群衆とそびえたつビルでいっぱいのサイバーパンクは、発売から7年経過しているコンソールで動かすには複雑すぎるゲームであると、一部のエンジニアは気づいていた。しかし、彼らが言うには、経営層はこの懸念を無視し、ウィッチャー3の開発を遂行したという成功体験を拠りどころにしていた。

だが、2019年の末には、経営層も発売延期が必要だとついに認めた。昨年の1月には、CD Projektはゲームのリリースを9月へとずらした。3月にはパンデミックが世界を蹂躙し、人々は家にこもらざるを得なかったため、CD Projektのスタッフは自宅からゲームを完成させなければならなかった。ほとんどの開発者は、オフィスにあるコンソール用開発キットにアクセスできず、自宅のコンピューターで開発中ビルドを遊んでいただろう。そのため、サイバーパンクがPS4とXbox Oneで動くかどうかは誰にも分からなかった。しかし、外部で行ったテストでも、明らかなパフォーマンスの問題は分かっていた。

また、イヴィンスキが述べるところによると、新型コロナウイルスの封じ込め中にチームが在宅勤務したことから発生したコミュニケーションの問題で、『いつも当たり前のことだと思われている原動力の多く』がビデオチャットやメールにより失われてしまったという。ゲームの発売日は11月へと再度延期となった。

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本作の開発に詳しい者によると、発売日が近づくにつれて、ゲームが粗削りでまだ時間が必要であると、スタジオの誰もが知るようになった。会話の大部分はなくなってしまっていたし、アクションの一部は正しく動かなかった。10月に経営層が、本作が『ゴールドに到達した』―すなわち、ディスクにデータを入れる準備ができた―と発表したとき、大規模なバグは未だに見つかっていた。本作はさらに3週間の延期を行い、疲れ果てたプログラマーたちが可能な限りのバグ修正に駆り出された。

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12月10日にサイバーパンク2077がやっとローンチされたとき、このしっぺ返しは即座に、そして激しく巻き起こった。画面を埋め尽くす灌木や、下着を履かずにはしゃぎ回るキャラクターといった動画がプレイヤーによりシェアされ、実装すると約束されていたのに完成品で削除された要素がリストにまとめられた。

グリッチやグラフィック上の問題の多くは修正可能だが、プレイステーションストアに復帰するまでどれだけかかるかは分からないと開発者は言う。ファンを取り戻すのは困難かもしれないが、ゲーム業界には前例もある。スペースシミュレーターのNo Man's SkyやMMORPGのFF14、マルチプレイFPSのDestinyは不安定なローンチから復活し、リリース後に着実に改善することで、批評的にも名声を得ている。また、市場は楽観的なようだ。CD Projektの株価はイヴィンスキのメッセージの公開後6週間の間に、最大で6%上昇している。

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