eスポーツ業界未経験。コネ無し、予算無しの一般男性が参加者熱狂の「Overwatchコミュニティフェス」を開くまで
2023年10月8日、日曜日。長く続いた暑さがようやく秋を感じる気温に変わり、小雨が降っていた。
「この盛況で初めての開催ですか!?」
FPSゲームに熱中するコスプレイヤーを前に、esportsイベントの企画経験がある男性は驚いた様子だった。
会場の中心には5台のゲーミングPCが横一列に並び、そこに座るのは5人のコスプレイヤーたち。彼らは人気FPSの「Overwatch2」の登場キャラクター(ヒーロー)の衣装を着て、夢中でゲームをプレイしていた。
またその対面に座るのは、この日初めてオフラインで会ったばかりのOverwatch好きのゲーマー5人で構成されたチームだった。
その他にも会場にはチケットを手に入れた50人のOverwatchファンが集まり、観戦したりゲームをしたりと、eスポーツカフェを熱気で満たしていた。
面白いを"形"にする
遡ること2か月前、夏の暑い日にある企画が立ち上がった。(Tweetは最初のアイデアが出た時で年の初め頃だった様子)
「東京ゲーマーズHub」というゲーム好きの集まりで知り合ったコスプレイヤーの女の子がOW (Overwatchシリーズ)のコスプレをしながらゲームがしたいという面白いアイデアをポストしていた。
彼女は知り合いの中で遊ぶ予定だったが、せっかくならイベントとしてゲーマーとコスプレイヤーコミュニティの人に集まって楽しんでもらえるようにするのはどうかと聞くと、周りのコスプレイヤーと相談して企画してみることに前向きになってくれた。
最初に決めたこと
まずイベントとして開催するにあたって最初に決めたことは「開催日」だった。理由としては2つ
・コスプレには準備が必要で、集まるには日取りをかなり前もって決める必要があること
・開催日までの期間によって、開催内容のボリュームや小さな準備のそれぞれの期限が決められること
今回はおよそ2か月先の日曜日に開催を決めた。
ちっぽけな自分にできること
まずはどんなイベントができるかの方向性を決めるため、イベントの最小サイズと最大サイズを考えた。
最小サイズは
・PCを10台用意して
・コスプレをしたメンバー10名で5v5をする
・それを観戦したりする仲間内(東京ゲーマーズHubのコミュニティメンバー)が居る
みたいな内容を想像した。
最大サイズは、最小サイズの要素に加えて
・スポンサー付きでプレゼント用に豪華な景品
・100名規模の施設と一般参加者
・一人一台のゲーミングPCの配備
・司会、実況、解説とオンライン配信
という感じだった。
一番の希望である「コスプレイヤーがゲームを楽しむ」ことを最小の範囲とし、自分たちでも管理と想像ができる参加者を募った内容を最大サイズとして考えて、あとはこの範囲の中で実現できることを目指した。
予算を想像する
大まかに予算も検討した。元手は無いので参加費用からすべてをカバーする必要があった。
参加者に負担をかけ過ぎない参加費を仮に3000円とし、50名の参加が見込める場合は15万円の予算で開催しようと思った。この時点ではまだ具体的なイメージはなかった。
スポンサーを頼りにしようと思ったが宛もなく、探す期間や仮に見つかったとしても参加者もスポンサーも両方の幸せを作れるイメージが難しかった。そこで反対にスポンサーの支援に頼らず運営することに決め、これを"ゲームタイトルのファンが100人集まると自転できるコミュニティイベント"にすることが運営個人としてのテーマになった。
イベント施設を見つける
予算を仮組みしたのでその範囲で開催できる場所を探した。PCを数十台並べるイメージがあったので設営コストがかからないようにゲーミング PCを個人利用できるお店、いわゆるEsportsカフェを中心に探すことにした。
立地は都内から隣接県の主要駅までを探した。
探すときには必ず前もって連絡をし、比較的人の出入りが落ち着いている時間帯に見学をさせてもらって施設の人に話を伺った。施設の人とコミュニケーションするのは非常に重要で、人がどの時間帯に多いとか客層とか外からは分からない情報を教えてくれた。
自宅から会場までの道のり、駅から会場に歩くまで、お店の空気感、店員さんの雰囲気。すべてが見学の対象だった。
また意外に大切だと思ったのが連絡の迅速さだった。
最終的に開催を決めた施設の人とはDiscord(コミュニケーションツール)のチャットで些細なことも話せ、返信も早かったことが"何か問題が起きたときに素早く対応してもらえる"と思えた。
会場は川崎にあるeスポーツカフェになった。
都内では無いが足を伸ばせる範囲で価格面との兼ね合いなど見たが、施設の人の人柄が大きな決め手だった。(ちなみに開催場所は参加者のみに公開した。心配し過ぎかも知れないが当日参加不可なのに間違って足を運んでしまったりを防止したり、コスプレイヤーや参加者のセキュリティー面を気にした)
半日借りて残りの時間は営業してもらえるように配慮し、開店から夕方まで借りることを仮約束した。この会場だと50名規模のイベントになるためビビッてすぐに確約はできなかった。
パブリッシャーの支援
パブリッシャーとは、つまりOverwatchを提供しているゲーム会社さんのことだ。ブリザード・エンターテイメント社がパブリッシャーにあたる企業だ。
ぼくたちは「コスプレしながらOverwatchをプレイし、イベント化する」ことに対して慎重だった。そのため同社から公開されているイベント開催のレギュレーションは確認しつつも、パブリッシャーにも内容に問題が無いことや、さらに開催の許諾が得られたら安心だなと思っていた。
「ブリザードさんに連絡しよう」
思えばこれが多くの人を巻き込んだイベントに進化するキッカケだった。
以前にSNSで見かけた募集に声をかけOverwatchについて取材して記事を執筆したことがあった。その時に関わってくれた人を通し、ブリザードの日本法人でイベント開催のフロントに立っている人の連絡先を教えてもらった。
記事を書いた時期は何かesportsに関わりたいといろんなことをしていた期間のことで、まさかここにつながるとは思っていなかったし、狙っているわけでは無かった。ただ、色んなことをすることで漠然とタネをまいているという事は意識していたので、それが芽吹いたとは思った。
そこからイベントの企画を説明すると興味を持ってもらえたようで、とても誠実に対応していただいた。
初めはレギュレーションの確認だった。
ゲームをすることはOK、参加費やコスプレはOK、もちろん規約上実現できないこともあったが概ね希望が通った。
それ以外でぼくから特にお願いしたことは
"Overwatchのグッズを参加者プレゼントのために提供してほしい"ということや"会場を装飾できる備品のレンタルのお願い"だった。
とてもおこがましい内容だとは思ったが少しばかりでもOverwatchの振興に寄与できることや、自分のためではなく参加者が喜ぶ要素を増やすためにできることをしたかった。
大きな転機
レギュレーションと照らし合わせてイベント内容がほとんど明確になる中でパブリッシャーさんからイベントの許諾を得ることができた。
さらに予想外だったのが許諾に加えて"イベントの公認"という箔を付けてもらえることになった。これによってチケットの販売が少しでも円滑に進み、イベントの開催が無事に行えるようにというとても粋なはからいだった。
そんなことをしてもらえるとは夢にも思っていなかったがイベント企画の内容やここまでのコミュニケーションによる信頼、ぼくら企画側の情熱が伝わったのではないかと思って嬉しくなった。
それと同時にある程度の規模感で開催を決断するトリガーにもなった。大いなる後ろ盾をもらって会場へ開催確定の連絡をした。もう引き返せないところまで来たと思うと少し震えた。
売れるか不安の中でチケット販売をする
イベント開催の枠組みが決まったので、チケット販売の準備を始めた。
価格はeスポーツカフェ利用料を参考にぼくらがイベントとして提供できる価値を考え3,000円とした。
施設の利用料を還元できる枚数を販売することが第1目標で、運営協力のスタッフとコスプレイヤーの当日の交通費をまかなえるようにすることが第2目標となった
チケットの販売はイベントの内容や期待により大きく左右すると思われた。イベントを盛り上げるためにいくつか案を出してトライしてみた。断られたり、返信が来ないこともあったが自分からはあきらめないようにした。
eスポーツチームの支え
ぼくが参加するゲーム好きのコミュニティ「東京ゲーマーズHub」はeスポーツ好きも多いため、eスポーツの振興もイベント要素に含めたいと思っていた。
そこでオーバーウォッチの競技シーンに参戦する企業や団体に連絡し、オーバーウォッチを盛り上げるための取り組みを模索した。ここは本当につながりが無かったのでググって担当者を探したり、イベントで見かけたことがあるチームの人にメールやDMを送った。
最終的に1つのeスポーツチームのブースがオーバーウォッチファンとの交流を目的にイベントに華を添えてくれることになった。ぼくたちからeスポーツチームに対しては正直、還元できている部分は少なかったと思うがチームの運営の方の情熱で協力を決めてくれた様子だった。
参加者に嬉しいこと
参加した人に分かりやすく嬉しいこととして全員に何かプレゼントできたら良いと思っていた。オフラインのサンプリング配布ができる環境を活かしてゲームにまつわる飲み物などの提供ができないか探した。
そしてイベント会場ですでに取り扱いがあったドリンクメーカーさんの連絡先を教えてもらいイベントについて説明したところ、とても前向きに検討していただき参加者や運営者のみんなに配布できるようなドリンクの提供をしていただけた。
ここまで「仲間を集めて旅に出た」というよりは「旅を続けていたら仲間が増えた」という感じで色々な人の協力を得ることができた。それはパブリッシャーさんの後ろ盾のおかげかも知れないし、運営メンバーの努力かも知れないがとにかく止まらずにやれることを続けてきたらだんだんと形になってきた。
不安でしかないチケット販売
チケット販売は大きな心配事の一つだった。
そのため告知やイベントの施策を準備してきた。
1. 開催告知
2. チケット販売告知
3. eスポーツチームブース告知
4. 参戦コスプレイヤー告知
何度も開催に対して盛り上がりの波を作れるように準備した。
告知開始
開催告知は入念に準備した。クリエイティブ(告知画像)はレギュレーションを確認しつつ、見た人が参加したくなるような内容を盛り込んだ。
またSNSで拡散できるように運営、パブリッシャー、eスポーツチームや知り合いの協力も仰いだ。いざ告知をするとみるみるうちに拡散されて、SNS1投稿のみの拡散力としては充分だった。15万人ほどの目に留まったようだった。
この時にイベントの連絡経路にもなるDiscordへの参加(チケット不要)を促した。これは興味を持ったユーザーがどのくらいいるか測るため、のちの告知を確実に届けるためなどの狙いがあった。最初の告知から100名以上の参加があり、3人に1人でも来てくれればと期待が膨らみ少し安心した。
また質問できるチャンネルを設けて気軽にコミュニケーションが取れるようにした。Discordは予約投稿ができないため、リアルタイムに告知などをする必要があったのでそのあたりは苦労した。
チケット発売直後の驚き
開催の4週間ほど前の19時にチケットを販売を開始した。SNS告知とDiscordでの周知をし、待機していた運営メンバーに連絡を入れた。
販売開始してものの数分、すこし気が早いかと思いつつ販売管理のwebサイトを開いて驚愕した。
「売れた」
売れた。それも1枚や2枚ではない10枚、11枚と次々と売れていった。
時計の針は19時15分を指していた。
チケット販売はその後も順調で売れ行きの心配は無くなり、完売を見越して会場と相談して一人でも多くの人に楽しんでもらえるように増枠も決めた。
増枠には慎重だった。
チケット完売後の反響を見て、イベントの前半か後半のどちらかに参加できるチケットを新しく用意した。これは会場のキャパシティも考えた施策だった。
また先に発売したチケットには付帯していた"イベント景品の抽選券は無し"で、価格はフルタイム参加で換算した時に多少割高になるようにすることで先にチケットを購入した人の条件が良くなるように配慮した。
販売告知の後にも話題づくりのための第二、第三の矢を用意していたものの、すぐにチケットが売れてしまったため発表は控え目だった。そのためSNS運用が控え目になり後半はあんまり拡散力が無いような見た目になったので心配する声もあったが販売できるチケットも無いので複雑な心境だった。
開催
開催に向けて往復2時間をかけて川崎の会場に何度か通った。計画しては実現できるか、席の配置は大丈夫か?会場内でこの配線や配信はできるか、映像の遅延は無いか。いろんなことを現場で考えた。
そうした中で施設の人との信頼も築くことができたと思う。
開催の前日は会場に泊まり込みで準備し、少し眠ってから当日の朝も早く起きたが余裕は無かった。
オフラインイベントとして会場や参加者の空気感も含めて感じてほしかったので、オンラインの配信はしなかったが会場の雰囲気を高めるためにイベントのマッチを取り上げて店内の大画面モニタに放映し、実況も付けた。
と、ここからがイベント本番だが、当日の様子を話している時間がない。今回は準備にフォーカスした話としてここで終わる。また機会があったらたくさん聞いてほしい。
ちなみにイベント当日の様子や反響はSNSのポストで見ることができる。
またnoteのサムネイルには会場で撮ったとっておきの1枚を選んだ。ホントに好きな瞬間を切り取れたと思う。改めて眺めて欲しい。
チケットが順調に販売できたことは
・ブリザード社から"公認"を受けられたこと
・Overwatchをテーマにしたオフラインイベントの数が限られていたこと
・各社の支援があったこと
と後付けで考えており、決してぼくや運営メンバーのチカラだけではここまでにならなかったと思う。
次の企画者は君だ。誰にでもできる。
ここまで読んでくれてありがとう。今日この話を聞いてほしかったのは「ゲームイベントは誰でも開ける」ということを知って欲しかったからだ。
何かゲームイベントがしたいけど、お金も無いし知り合いもいないし何から始めたらいいか分からないという方もいるかなと思う。
ぼくも同じだった。
だからひたすら考え、毎日シャワーを浴びる時には頭の中で何度も繰り返しイベントを開催し、イメージを具体化することを試みた。仕事の合間にゲーム関係のクライアントにメール返信をした。
そうしてやればなんとか形になった。そして良い経験になった。
ぼくがコミュニティマスターを務める「東京ゲーマーズHub」ではゲーム好きが集まり交流をしている。その中でもesports・ゲームイベントに興味があるメンバーで今回のようなイベントを企画している。
ゲームイベントの運営に興味がある人や配信技術に興味がある人、デザインやイラストが得意な人、コスプレイヤーさんはいますか?ぜひ一度はぼくたちと関わってほしいと思う。
どんな関わり方ができるか簡単なアンケートで用意した。1分で回答できるので、ぜひ答えてみてほしい!
回答してくれた人に始動する企画に合わせてお誘したいと思う。
またこのアンケートをキッカケに数名のチーム体制でイベントの開催などができたらより豊かな発想が生まれるとおもう。未来の仲間を見つけるために記事を周りの人に広めてもらえると嬉しい。
自分はゲーム業界に携わったことが無い人間だがゲームやeスポーツが心底好きだとこの1年で強く感じた。だから自分ができる範囲のことから始めてみた。
ただ同じことを5年以上も前にできたと後悔している。それをしなかったのはやり方がわからずに一歩踏み出せなかったからだ。自分がゲームを好きだという気持ちを大人になってから抑えていたからだ。
そんなのもったいない。
好きは止められなかった。ガキの頃に封印した夢は大人になって顔を出してきた。君はゲームが好きで同じくゲームが好きな男が書いた6,000字の文章をここまで読んだ。次は君の番だ。
最後にぼくが子供のころから好きな歌を引用してメッセージとする。
・イベント当日は順調に進行できない部分もあり、ご不便をおかけしました
・イベント参加者の熱狂を感じた反面、運営としてイベントが大成功だったとは思っておらず反省と改善の日々です
・本投稿に掲載されている商品またはサービスなどの名称は、各社の商標または登録商標です
・「Overwatch」 及び 「オーバーウォッチ」 はブリザードエンターテイメント社の商標または登録商標です
・本投稿はイベント運営スタッフによる開催レポートです。イベントに協力していただいた企業等は執筆には関わっておりません。そのため本投稿に関するお問い合わせもお控えください
・この記事の内容が一人歩きしないか心配です。事例として紹介する際には執筆者までご連絡ください。
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