#4 ATELIER/早水香織
デザイン、タイポグラフィ、美術、写真集といったアートブックが揃う古書店〈ATELIER〉。NEW COLORSが考えるコンセプトブックショップNEW COVERのATELIER回では、「印刷」をテーマに選りすぐりの貴重な古書が並んだ。手に取った人々は緊張気味に、でも愛おしそうにページを捲っていた。ATELIERをひらくに至った道のりと、外からは見えない古書業界の仕組みを、店主の早水さんに聞いた。
やりきった先でひらかれたATELIER
加藤:ATELIERを始めたのはいつですか?
早水:2018年の9月です。オンラインショップからスタートして、今年で6年目です。
加藤:そんなに昔じゃないんですね。美術大学に行かれていたんですか?
早水:はい。京都造形芸術大学(現在は京都芸術大学)を卒業しました。グラフィックデザイナーを目指していたので、情報デザイン学科を専攻していました。卒業後に大きな仕事をやりたくて上京して、興味があった化粧品のパッケージデザインができる博報堂の子会社にデザイナーとして入社したんです。でも、私ひとり新卒で、適応できず精神的に厳しくなって辞めました。
加藤:そこからどうされたんですか?
早水:資料探しでよく通っていた六本木の蔦屋書店にバイトで入りました。時間があったので週5日くらい出勤していました。一番興味のあるジャンル、デザインとアートの棚を任されて、そこが本屋の入口かもしれないです。
加藤:六本木の蔦屋書店は当時勢いがありましたよね。
早水:お客さんがとても面白かったです。当時は2階に DVDとCDが置いてあって、芸能関係者やプロデューサーが結構いらっしゃっていて。話をすると面白かったです。書店コーナーのアルバイトスタッフは写真家を目指しているとか、 Zineをつくっているとか、そういう人が多かったので息が合いました。
加藤:仕事はどういうことをしてたんですか?
早水:新刊が出たタイミングで関連する本を選書してフェアを組んでいました。知識がないと単純にその本の著者や作家でくくるだけのコーナーになってしまうので、いいフェアが組めないんです。繰り返しながら、自分は全然知識がないなとか、面白いコーナーをつくれてないなと思っていました。
加藤:バイトなのに任されていたんですか?
早水:はい。社員が少ないということもあって、割と任せてもらえたし、バイトの意見をちゃんと通してもらえていましたね。入荷する本の情報を聞きつけたら、すぐフェア展開できるみたいな。自由に好きなようにやらせてもらっていました。
加藤:すごいですね。普通はそんなに任せてもらえないし、大型書店は特に実験的なことがなかなかできないじゃないですか。勢いがあって最新のクリエイターも来る店で働いていたということですよね。
早水:ただ、大きな書店にいるとシステマチックになってしまって、お客さんと密の関係性というよりは、接客をしていてもすぐにインカムでレジに呼び戻されるみたいな、ただひたすらレジを打つだけの人になっていて。やりきったと感じて3年くらいで辞めました。
加藤:その後、古書の道に?
早水:はい。友人に連れて行ってもらった吉祥寺の古書店で、古本の面白さを知って世界が広がった感じがして、その古書店がたまたま社員を募集していたタイミングだったので入社しました。
加藤:それは何歳の時ですか?
早水:24歳だったと思います。店主が同じく新刊書店を経ているので、システマチックに働くことへの違和感を面接の時に共感してもらえて採用されたのかもしれないです。
加藤:経歴が面白いですね。
早水:いろんなことが、いまにつながっていると思います。六本木蔦屋書店で出会った人たちが、ATELIER立ち上げのときに本を買ってくれたんですよね。同時期にオープンした代官山蔦屋書店と、その数年後にできた銀座蔦屋書店は、どちらも古書を扱っているので。もともと一緒に働いていた知り合いにどんな本がほしいかリサーチして、それを市場で見つけたら蔦屋書店用に入札して、卸してました。本当にお金がなかったので助かりました。
加藤:古書店ではどういう仕事をしていたんですか?
早水:レジもやりますし、お客さんが持ってくる本に値段をつけたり、イベントの企画から、展示をする作家さんとのやり取りまでしていました。もちろん棚をつくることもありました。
加藤:値付けはどのようにしていたんですか?
早水:大体の相場がありますし、お店の価格があるんです。Amazonとかにも古本は出品されてますけど、専門店が値段をつけているわけではないので、釣られて値段をつけたらわかるお客さんにはわかってしまう。そこの感覚が肝かなと思います。
加藤:その感覚は自分で磨いていくしかない。
早水:そうですね、知らないジャンルだと真剣にやっていてもどうしても値付けが雑になるので、結構直されました。
加藤:忙しかったですか?
早水:ちょうど30歳手前まで働いていたのですが、ずっと、忙しかったです。常に何かに追われていて、気張ってないと立っていられないぐらいでした。
加藤:30歳手前は、全部吸収してどうなるか、どういう30代が過ごせるか、みたいな時ですよね。その古書店で一番大変だったこと、学んだことはありますか?
早水:大変だったことは、値付けの感覚を身につけることです。新刊書店ではもちろんもともと値段がついているので、定価でそのまま出してどう売るか、どうフェアを組むかが重要だと思うのですが、古書の場合はお客さんが持ってきたものを買い取るので、いろんなことを吸収して、知っていかないといけない。とりあえず本を触ることがすごく大事だと思います。
完全にインディペンデントとして存在し、オルタナティブな出版の形を模索し続けます。