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【映画随筆#4 ジョン・ウィック】

今回は、チャド・スタエルスキ、デヴィッド・リーチ監督の ”John Wick”を鑑賞し、感じたことを記事にしていきます。(注)本稿はネタバレを含みます。

作品名:ジョン・ウィック
公開日:2014年10月24日(日本では2015年10月16日)
出演:キアヌ・リーヴス、ミカエル・ニクヴィスト等

久しぶりにアクション系の映画を見て、自分がいまだに爆弾やら最強やらに憧れていることを再確認できた作品でした。根強い人気があるのも納得です。個人的には善悪の構図がすごい分かりやすく、ジョンを応援すればよいのだという明確なつくりであったからこそ、そのシンプルな強さと能力の高さに胸を躍らせて鑑賞することができたのだと思います。

さて、今回私がジョン・ウィックを見て感じたこととしては、人間は毎日いろんな選択をしていて、その選択がストレスでもあり、生きがいなんだろうなという詠嘆です。
アンミカさんも似たようなことを発言しています。彼女は”毎日3千から6万回人は選択をしていて、それは自分がより幸せになるための選択をしているのであると。つまり人は3千から6万回ほど、自分の人生を好転するチャンスがある”というような旨の発言をしていました。これは自分を肯定的に捉え、前を向いて日々を生きていくための考え方として非常に素敵で多くの人の心をつかむ思考法とは思いますが、一つ大きな見落としがあると思うのです。それは、選択をすることにかかる労力というものを見落としている気がするのです。確かにアンミカさん的に言えば”チャンス”という言葉に”労力”のニュアンスが含まれているのかもしれませんが、それではやや詐欺のようなもので、むしろ最近話題のジョージぐらいはっきりと実態を述べた方が酷ではないとも思われます。つまり言いたいのは、”幸せ”になるための選択というのは自分の選択に自信を持って初めて成り立つものであり、その幸せの捉え方次第では、苦しい選択をすることがかえって幸福をもたらすこともあるということです。そしてその逆も然りであり、何も選択的な行動をせず甘い自由の誘惑につられることで、かえって幸福ではなくなる可能性も多々あるということでもあると思うのです。
なぜこのような考えにジョン・ウィックを見て至ったかというと、ジョン・ウィックの激情の手法が、うつ病の人が自殺を決意する瞬間に比較的類似しているのかと思ったからです。(もちろん、ジョン・ウィックの場合は比べ物にならない悲しみが襲ってはいるのですが)、トリガーとなったのは愛犬の死ということで、いろんな人間を殺してきたジョン・ウィックからしてみたらたかが、犬の命と思えた節があるかもしれません。例えばジョン・ウィックの奥さんが存命であったとしたら、犬と車を奪われたとしても、映画のように執拗に殺意で行動するとは思えなかったです。少なくとも、ジョン・ウィックが裏社会から引退するという決断の裏側の覚悟は、自分が気に入っている者を奪われたという事実だけで人を襲いたいという感情が容易に芽生えてしまうような、脆いものであったとは私は思えませんでした。しかしもうすでに最愛の奥さんも他界していて、何もないに等しい状態のジョン・ウィックに対する仕打ちとして、犬が殺されてしまいました。それは自分の生きがいとなっていた存在を失った悲しみから、唯一気を紛らわす選択をさせてくれる存在を失うことです。そんなわずかな希望といえるような存在を失ったのに、人間はまた一歩幸福になるために選択をし続けなくてはいけないのです。それは生きるため、自分の幸せのための選択であるから、いやでも自分という存在の根本について考えさせれます。ジョン・ウィックはそのような精神状態の中で日常における些細ながらにストレスフルな選択を凌駕する目的として、犬を殺した人への復讐を選択したのである。まるで自殺することを決めてからの方が人生に前向きになれた自殺志願者のように、欲に対する選択を迷わなくなったといってもよいのかもしれません。ストレスに向き合うための選択であったはずなのに、それが生きがいに転ずる場合があると、考えさせられました。しかし自分の選択の範囲内でした決断の果てを体験した後にやってくるのは、やたら大義を感じられない選択肢の嵐。換言すれば、結局は自分がとった幸せになるための選択の一つであったに過ぎないのに、大きな選択と見間違ってしまい、逆にそれ以外で日常的に登場する幾多の選択肢が自分の貢献に大きく関与しているように感じられず、その一歩が踏めない人がいるとも思いました。それがゆえにうつ病になる人もいるのかもしれないとも考えさせられました。”選択のストレスから逃げる”、これが現代の病理の実態かもしれません。しかし大きな選択と自分の中で思える選択をすることで、人生の基軸が定まったような気がするものです。そういう意味でアンミカさんはチャンスだらけといった可能性は大いにあります。人を殺す選択も、自殺を決意することも、歯磨きをすることも。普通という枠組みを持ち込まなければ同じくらいハードルが高いものになることだってあると思うのです。まずは自分なりの選択的一歩が大きく人生を変えうるかもしれません。

何にせよ非常に面白く愛される作品であると思いました。ミステリーも観ながら自分のエンタメ精通力を高めていきたいです。では皆さん、次の記事で。

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