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(20)訣別

シドニーに帰ってから数日が経った。そして猫もおばさんのところから帰ってきた。オードリーは部屋に入るとすぐに部屋中を歩き周り、嫁のことを探していた。その姿を見て、申し訳なくなって部屋で1人涙を流した。

未だオードリーに話しかけるときの一人称は「旦那」のままである。今更変えようにも違和感がある。

私は玄関前の靴箱の上に置いてきぼりになった2つの指輪を見つけた。それは嫁にあげたプロミスリングとセンチメンタルリングだった。このときは本当の本当に最後だと実感し、膝から崩れ落ちた。

その後、嫁が置いて行ったのか忘れていったのかわからない荷物を片付けた。この荷物は今度日本に行く予定の飲み会主催者に託すことにした。

そして荷物も無くなり、嫁との接点も跡形もなく消え去った。

謝りたいと思っても遅い、気付いた頃にはもう何もかも遅かった。

そして私は突然嫁のことを責めたくなる、本心ではないのに。そして私自身も責め続けている。

きっと私が見ていたのは、一年半弱という長めの夢としては長めの幻だったのだろう。

あれから夢によく嫁が出てくる。どこを歩いても記憶の片隅にいる。何度も何度も吹っ切れようとしたが吹っ切れない。

これが夢ならば覚めて欲しい。嫁と呼んでたあの人は本当に存在していたのだろうか。

もし現実ならばここに記した記憶を、いつか覗いてくれるだろうか。

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