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特集 : electrox 2017(1) -EDM IS DEAD[2016 ver.]-

 SUMMER SONICを主催していることでも知られる、クリエイティブマン。この会社が手がけるフェスティバルには大きく分けて2つの特徴があります。

 一つは、ポップ/ロックシーンのトレンドを素早くキャッチすること。2007年のサマソニで2ndアルバムをリリースしたばっかりのArctic Monkeysをヘッドライナーに大抜擢したり、2012年のSpringrooveでDavid GuettaやAfrojackを起用してどこよりも早くEDMの波を取り入れたりと、そのスピード感は他の追随を許しません。というか、他がどこも保守って感じは否めません。特にヘッドライナーには時代の傾向が強く表れるのです。二つ目は、サマソニのラインナップに顕著ですが、そのヘッドライナーを中心にラインナップが決まっていく事。例えば2014年のサマソニでは、Arctic Monkeys&Queenと新旧UKバンドがヘッドライナーだったこともあり、Robert PlantにKasabian、The 1975とUK出身のバンドが集まり、挙げ句の果てにはMARINE STAGEの両脇にはユニオン・フラッグが飾られたのです。

 というわけで、2014年からスタートしたElectronic Dance Music(あえて略さずに書きます)中心のフェスティバル、electroxもこの流れに乗り始めているのでは?ということで2017年のelectroxについて書いていきましょう。今回のラインナップ、かなり興味深いです。


 まずは過去のラインナップからのおさらいです。初年度となる2014年は"Party Rock Anthem"でお馴染みのRedfoo from LMFAOをヘッドライナーに迎えて開催されました。当時のフライヤーがこちら。

 完全にパーティ系のRedfoo、Steve Aokiに対してハードスタイルのHead Hunterzやプログレッシブ・ハウスのSteve Angelloが並んでいたり、Boom Boom SatellitesやModestepといったロックバンドが参加している事から、この年に関しては特にコンセプトは無かったんじゃないかと考えています。ULTRA JAPANの全貌が一切掴めていなかった時期だったので、「とにかく呼べるものを呼ぼう!パーティで盛り上がってこの波に乗ろう!」って感じだったのではないでしょうか。少なくともRedfooが当時のトップだったかといえばかなり疑問です。

 二年目となる2015年は日本におけるEDM人気のピークだった事も相まって、「下手すればULTRAより豪華じゃねぇか」というラインナップとなり、なんと動員数は単純に前年比2倍。そんな事ってあるのか。

 ヘッドライナーは、トランス界で絶大な人気を誇り、DJの世界ランキングことDJ Magazine Top 100 DJsでは過去5回も1位に選ばれているArmin Van Buurenを起用。それに引っ張られるように、Above & Beyond、New World Punx、Sander Van Doornとトランス界の大物が集結し、更に4つ打ちでブチ上げるバウンス/ビッグルーム界隈からもDvbbsとVinaiが登場。ついでにAlunageorgeやClean Bandit、更にはDiploといった独自路線を突き進むユニットも参加し、世界的な潮流もある程度は捉えた、当時のEDMシーンの見取り図とも言えるラインナップが実現したのです。

 一転して、2016年は「ULTRAに根こそぎ取られたのか?」と疑問を感じるような、やたらと偏ったラインナップとなり、動員も横ばい、あるいはちょっと落ち込んだようでした。

 EXILE TRIBE周辺とのコラボで人気のAfrojackと、プログレッシブ・ハウスを中心に活動してきたKaskadeをヘッドライナーに迎え、なんと上段10組の内、KaskadeとMat Zoを除く8組がバウンス/ビッグルーム(ハウス)系という完全パリピ仕様のラインナップ(とはいえ、今年のDJ Magazineでも"Highest Live Act"に選ばれたKshmrの初来日公演を実現させたのはお見事!)。それまでとの違いがピンと来ない方のために、プログレッシブ・ハウス系とバウンス系、そしてビッグルーム系を比較してみましょう。

プログレッシブ・ハウス系:Atmosphere / Kaskade (2013)

バウンス系:How We Party / R3hab & Vinai (2014)

ビッグルーム系:Go Hard / Quintino (2014)

 「同じじゃねぇか!!」って思う人がいたらすみません。正直僕も時々区別がつかなくなります。ポイントはノリ方で、ハウス系が「ドン・タン・ドン・タン」で刻んでいくのに対して、バウンス系は「ドン・ドン・ドン・ドン」で刻むのが特徴です。更に、プログレッシブ・ハウスとビッグルーム・ハウスの違いは、身も蓋もなく言えば、「更に低音やドロップを強調して、巨大な会場でも映えるようにしたプログレッシブ・ハウス=ビッグルーム・ハウス」です。つまり派手になったってことです。ちなみにある意味、Afrojack提供の三代目 J Soul Brothers "Summer Madness"はビッグルーム・ハウスです。

 ここで重要なのは、プログレッシブ(ハウス)系=ある程度踊り方が自由なのに対して、バウンス/ビッグルーム系=ガンガン踊らざるをえないという事です。逆に言うと、踊るのが簡単なんですね(踊るというか両手を上げるかジャンプするくらいしか普通の人は出来ないんですけど)。だからこそ、バウンス系/ビッグルーム系は、場の雰囲気や一体感を重視するパリピに人気があるのです。日本の大規模イベントではトラップやダブステップがあまり受けないのもこの辺りに理由があると思っています。

 以前のnoteでも触れましたが、現在、日本におけるEDMの人気を支える層は、ざっくり言ってしまえばいわゆるパリピとダンスミュージック好きです。勿論、元々パリピとして「話題になっているから/友人に誘われたから」といった理由でULTRAなどのフェスティバルに参加したのをきっかけにダンスミュージックに目覚めたという事例もあります。なので実際のところ、

1. 完全なるミーハー : 音楽というよりも、社交場としてのEDMイベント
2. パリピ兼ダンスミュージック好き : 音楽も重要で、社交場としても重要
3. 完全なるダンスミュージック好き : 音楽にしか興味ない。パリピ嫌い。

 といった感じでブレンドされているような感じです。ちなみに上から順にモテます。個人的には2が一番いいなぁと思います。

 さて、毎年のように死んだといわれるEDMですが、今年も例によって死亡が宣告されております。いわく、日本でのEDMの受容のされ方は海外のそれとは違うとのこと。ついでにEDMはもはや最先端ではないとのこと。

 色々言いたい事はありますが、「そもそもEDM=最先端じゃないだろうよ」とだけ書いておきますね。正直、またガラパゴスの話題かよと思いましたが、実際に1の層と2の層の半分くらいはあと1年くらいでいなくなるんじゃないかなぁと思っています。それは、実際に今年のelectroxやAviciiの現場に足を運んで、ドロップ(最も盛り上がる部分)以外でほとんど踊る事のない&踊り方が一貫している姿を見ていて痛感した事です。

 ダンスミュージックを聴く上で、「知らない曲だろうと踊れる」事は重要です。だからこそ、DJはノンストップで、同じBPMで楽曲を繋ぐのです。ただ、それはあくまで音楽に興味がある場合の話であって、興味がない場合は関係ありません。また、自由に好き勝手に踊る事も重要ですが、それもまた、興味がない場合は関係ありません。

 これは批判ではありません。多かれ少なかれ、ムーブメントというのはそういうものです。今年、SUMMER SONICに参加した時にRADIOFISHのステージを観に行ったのですが、ほとんどのお客さんは、"PERFECT HUMAN"が終了するのと同時に、ライブの途中にも関わらず帰っていきました。

 一方で、希望もあります。

 それは、この巨大なムーブメントによって、ダンスミュージックを好む人達ははっきりと増えている事。そして、数多くの世界的なDJが日本のクラブでプレイする機会が格段に増え、更にbanvoxやKSUKE、あるいはtofubeatsを筆頭に日本人プロデューサー/DJの活躍の機会も増えた事で、「コアなEDM/ダンスミュージック好きが着実に増えてきている」という事です。そして、来年開催されるelectrox 2017は、この状況に活路を見出したのではないでしょうか。

 2017年のヘッドライナーには、トラップの代表格であり、テンプレ的EDMを嫌うDiploが起用されています。そして、現時点でビッグルーム/バウンス系のプロデューサー/DJは一人も発表されていません。全ての出演者が独自路線を貫いています。

 では長くなったので、後編では具体的にelectrox 2017を紹介していきましょう。ただの思い違いかもしれないけどな!!結局Vinai出るかもしれないけどな!

P.S. 批判めいた書き方になりましたが、僕はバウンス系もビッグルーム系も好きです。

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