見出し画像

何かが動き出すための、出会いの場 –ネットワークKENPOKU 円卓会議2023レポート–

2023年2月4日(土)、日立市役所 多目的ホールにて、「ネットワークKENPOKU 円卓2023 -地域おこし協力隊と地域が、もっと、つながるために-」を開催しました。茨城県の県北地域で活動する、さまざまスキルをもつ地域おこし協力隊。他地域から移住してきた隊員は、それぞれが着任した市町で地域のことをリサーチし、人と出会い、いま地域に必要なものは何かを考えながら、それぞれのミッション達成に向けて活動に取り組んでいます。

今回の円卓会議では、より広い方に協力隊の活動を知ってもらい、相互交流を図り、それぞれの活動の発展に繋げることを目的とし、半日かけてトーク、パネルディスカッション、ワークショップを実施しました。
このレポートでは、当日の様子を写真とともにお伝えしていきます。

*イベントの詳細はこちら

ゲストトーク テーマ「地域資源と官民連携」

まずは、三橋さゆり氏(一般財団法人 日本建設情報総合センター 審議役)のトークからスタート。三橋さんは前国土交通省国土保全局水管理・水資源部長で、在籍時に「ダムカード」を考案、近年のダム観光ブームの仕掛け人です。全国各地のダムの魅力を再発見し、地元企業などとタッグを組んでさまざまな観光施策を行ってきた三橋さんに、地域資源の魅力の見つけ方や伝え方、他機関との連携についてお話しいただきました。

三橋さんが考案した「ダムカード」とは、ダム管理者が発行するカード型パンフレットで、平成19年からはじまった取り組みです。カードを発行するのは各管理者ですが、フォーマットや配布方法には最小限のルールがあり、記載事項をはじめ、「1人1枚」「ダム(の管理事務所)に行かないともらえない」などが決まっています。取り組みを始めてから、ダムファンの間でじわじわと人気が広まり、メディアでの紹介や、発行数の大幅な増加につながっています。

三橋さんは、こういったPR施策を実施する時に大事なポイントとして、「ニーズのないところには育たない」「マニアではなく『未満』を狙え」「言いたいことを押しつけない、メッセージはせいぜい3つ」「相手にメリットがある提案」などを挙げました。ダムカードの例で言うと、考案のきっかけは、あるダムファンからの「ダムに行かないともらえないカードがあったらいいな」とという声を三橋さんが聞いたことだそうです。また、これまではほとんど交流のなかった、ダムファンと管理事務所職員との交流が生まれたことで、職員のモチベーションにつながったという波及効果も。

ダムカード(国土交通省ウェブサイトより)

その他の事例として、三橋さん自らが自転車で地域を回りながら観光スポットを発掘したという渡良瀬遊水地のブランディングや、茨城県の観光会社職員からの声がけがきっかけで始まり10年近く続いている、県内のダム観光を軸とした産学連携のプロジェクトなども紹介されました。

トークを聞いていた参加者からは「企画を考える際、地域のどんなポイントに目をつけているか?」という質問が。三橋さんは、「自分自身が面白いと思ったもの、ヤバい!と思ったものを大事にしている。“ヘンなもの”を見つけると、人は食いつく」と答えました。

インフラ関係のみならず、地形学や気象学、現代アートにまで造詣が深いという三橋さん。そのフットワークの軽さと好奇心旺盛な姿勢に、参加者の皆さんも大きな刺激を受けたようです。

パネルディスカッション テーマ「県北地域で活動する協力隊のいま」

続いて、6人の地域おこし協力隊も加わったパネルディスカッションのコーナー。まず、写真家で茨城県北地域おこし協力隊マネージャーをつとめる松本美枝子から、県内の地域おこし協力隊の現状や、今回の円卓会議もその一環である「茨城県北地域おこし協力隊マネジメント事業」についての説明を行いました。その後、橋本大輝隊員(常陸太田市)、箕浦妃紗隊員(北茨城市)、星野由季菜隊員(常陸大宮市)、赤羽悠斗隊員、増田周平隊員(KENPOKU PROJECT E/茨城県北起業型地域おこし協力隊)、和田まりあ隊員(同OB)がそれぞれの活動紹介を行いました。

実は事前に、いくつかの隊員の現場を視察していた三橋さん。今回の発表と視察を経て、「みなさんすごく多彩で、ちょっと“ヘン”なのが魅力的。そして、活動を通じて周りを幸せにしようとしているのがいいですね」と話しました。

紹介の後は、三橋さんと松本、協力隊の皆さんとで、ディスカッションを行いました。松本から「それぞれ、ネットワークという点でうまくいっているところは?」と質問。空き家活用や、民謡を通じた市民交流等に取り組む橋本さんは「着任当初は、ミッションに対して何をしたらいいか分からなかったが、模索しながら活動を続けるなかで、地域の方から声をかけられるようになり、あるイベントがきっかけで次のイベントが決まり…と、続けていくことができた。定住する自信が正直なかったが、誰か一人でも見てくれていれば、活動は広がっていくんだと感じた」と話しました。また、キャリア教育等に取り組む星野さんは「キャリア教育の授業で、声優の方を呼びたかったが、伝手がなく困っていた。そうしたら、他の協力隊の方がご自身のつながりを通じて声優の方を紹介してくれた。声を上げると助けてくれる人がいる」というエピソードを紹介しました。

一方で、活動をしながら課題として感じていることについても議論は展開。地域資源を活かしたコンテンツ作りに取り組む増田さんは、限られた地域のなかだけでビジネスを回していくことの難しさを踏まえ、「地域から仕事を請けるというかたちではなく、地域の人たちと一緒に仕事をつくっていくという視点も必要なのではないか」と話しました。また、アボカドづくりを通じて社会課題へのアプローチを行う赤羽さんからは、「農業という規模も考えると、自分達だけで事業を行うのは限界がある。コミュニティをつくっていくことが大切では」という視点が示されました。
赤羽さんの課題に対しては、星野さんや和田さんからも「自分がもう一人欲しい」、「活動を継続するためにどんどん動いていきたいが、そのためにはチームや組織が必要」という声も上がりました。

ネットワークがあること、つくれたことによって上手くいっていることがある。一方、より活動を発展させたり、継続性を持たせるためには、もう少し違うネットワークの形が必要なのではないか。そのような気づきが生まれたディスカッションでした。

ワークショップ テーマ「協力隊と地域がつながるために」 

円卓会議の後半は、ワークショップ。登壇した6人の隊員からテーマが提示され、参加者はそれぞれ興味のあるグループを選んで、テーマに合わせたディスカッションを自由に行いました。

▼テーマ一覧
・箕浦 妃紗さん
働き盛り世代、子育て世代に芸術を届けるためにはどんな芸術に触れられたら楽しい、面白いか
・赤羽 悠斗さん
より多くの人に知ってもらう、関わってもらうためには?
アボカド収穫までの期間でできそうな面白いこと
・増田 周平さん
社会科見学したら面白い場所/面白くなる仕掛け
・星野 由季菜さん
茨城県北の教育・人財育成
・橋本 大輝さん
自分のスキルを有効に活かす活動をするには
興味を持ってもらうイベントのつくりかた
・和田 まりあさん
ドミニカコーヒーをブランド化するためのアイデア
どんな場所にコーヒーがあると嬉しい?

ディスカッションはどのチームも活発に展開されました。テーマに沿って1時間たっぷり話した後、全体で内容をシェア。例えば、増田さんは「“県北の先輩”に、具体的な面白いスポットが聞けた」と話し、濃密な情報共有が行われたようです。また、赤羽さんのグループでは、アボカドづくりを発展させていくために「学校教育とのコラボ/お菓子などへの加工で付加価値を高める/作業体験」などのアイディアが出たり、橋本さんのグループでは橋本さんの民謡という専門性を生かすための「同窓会で活用してもらう」などのアイディアが生まれていました。星野さんのグループでは、教育という視点を掘り下げて「どういったことが個人の幸せなのか」という議論にも発展したそうです。

議論や発表の仕方もユニークで、和田さんは実際にその場でコーヒーをドリップ、参加者とともに味わいながら議論したり、芸術によるまちづくりに取り組む箕浦さんは、演劇風に発表を行ったりなど、隊員の個性が光る時間となりました。

今回の円卓会議は、行政職員、農業関係者、アート関係者、県北以外のエリアで活動する地域おこし協力隊など、さまざまな方が50人近く集まりました。すでに何かしらの活動に関わられているプレーヤーも多く、議論が具体的で盛り上がっていたようです。

何かが生まれる、何かが動き出す、そしてそれが活動として周りに広がっていく。そういった活動が生まれるきっかけは、初めから大きな動きが起きているわけではなく、三橋さんの、ダムカードが生まれたきっかけのように、ある個人と個人との出会いから生まれるのではないでしょうか。今回の円卓会議は、そんな「きっかけ」の種がたくさん生まれた時間となったようです。

ネットワークKENPOKUは、これからも地域おこし協力隊の活動紹介や、ネットワークづくりに取り組んでいきます。ぜひ、今後とも協力隊の皆さんの活動にご注目ください。


今後も、noteで情報を発信していきます!

(執筆:岡野恵未子)