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【案ずるより出るが易し】変わっちまった東京に……

好きだったモノが徐々に、あるいは唐突に嫌いになる。
こういう心境の変化って、誰にでもフツーに起こりうるものですよね?
私の場合は「東京への感情」にそれが起きました。
もちろん最初はものすごく好きだったから上京したわけなんですけど、そこで36年過ごしているうちに「愛」はどんどん醒めていったんです。

猫像

私が高校を出て上京した頃の「昭和の東京」は、まだ「でっかい田舎」という表現がピッタリなノンキな都市でした。
いわゆる下町とかでなくても(昭和期の私が住んでたのは杉並区の荻窪と渋谷区の恵比寿でした)「人情」もちゃんとあり、1000円程度の価値しかない質草で1万円貸してくれた質屋さんとか、東京~静岡の新幹線チケットが売切れてた時「差額はいいからコレ持ってきな!」と東京~浜松のチケットを出してくれた金券屋さんなんかもいました。

アパート暮らしでも住人同士の付き合いがあり、隣近所の人たちの顔もちゃんと見えていた。
住人共有のピンク電話が鳴れば、気がついた者が出て「▲▲さーん、電話ですよー」と取り次ぎます。
目に余るマナー違犯には「それはダメよ」とご近所から注意が入るし、注意された側も「すいません」素直に謝って行動を改めました。

道路の花

渋谷にも新宿にも池袋にも「その街だけの特色」「地域に根ざした文化」がちゃんとあって、だから私は高校時代から頻繁に通っていたのです(学校さぼって)。
いたるところに「個性派オーナーのクセの強い小商い店」が存在し、「東京(ここ)でないと他に入らないアイテム」「東京へ来ないと観られないイベント」もたくさんあった。
高校生だった私は夢中になって都内を巡り、様々なものを吸収したんです。

やがて高校を出て念願の上京を果たして、そんなキラキラした街イチイチ通わなくても良い身分になった幸せに、私はすっかり酔いしれました。
面白そうなスポットをガイドブックでピックアップしては西へ東へと歩きまわる日々が続いたのです。
東宝怪獣映画のオールナイト上映に初めて行った日の高揚感、「俺も大人になったなぁ~」という感慨は今でも忘れられません。

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そんな「私を魅了した東京」も、後に「バブル」と呼ばれる狂乱景気によっておかしくなっていきました。
「手持ちの金や土地を右から左へ動かすだけで大儲け」という異常な状況に、商売人たちはどんどん平常心を失っていったのです。
私の行きつけ店のような「大儲けなんかできなくてもいいから、自分がやりたいと思える商売を楽しくやっていきたい」という趣味性の強いビジネススタイルはすっかり時代遅れになってしまいました。

でも、そんな「どう考えてもマトモでない好景気」が長続きするはずもなく、限界までパンパンに膨らみきった風船のようにやがて破裂したのでした。
上がれるところまで上がったものは、後はただひたすら落ちるのみ。
尋常ではない角度で急上昇した景気は、常軌を逸した勢いで急降下していきました。
昨日までアブク銭まみれで「この世の春」を謳歌したような人物が、一夜明けたらスッカラカンで放心状態…みたいな地獄絵図を私はあちこちで目撃しました。
「お金というのは有りすぎても無さすぎても人の心をすさませ狂わせる」ということを、私は東京の景気乱高下を通じて学びましたね。

キチガイパンダ

バブル最盛期には「地上げ屋の立ち退かせ工作」によって小商い店がどんどん消えていきましたが(恵比寿の街も半ばゴーストタウンになりました)、今度は「未曽有の大不況」という理由での「ショップ淘汰」が始まりました。
狂乱景気の誘惑にも地上げ屋の暴力にも打ち勝った個性派小商い店主たちも、こちらには勝てなかった。
久々に行ってみたら店が消えていた……なんてことはザラだったんですた。

「個性派オーナーの面白小商い店」の消えた跡を埋めていったのは「大手資本のステレオタイプなメガストア」でした。
そうしたものに私は一切興味がないので、必然的に「お気に入り店をめぐる散策ルート」は減っていきました。

桜溝

「全国区のメジャーショップ」だったらわざわざ東京まで行くまでもなく、生まれ故郷にいくらでもあったのです。
高校生の私が東京に足しげく通ったのは「都会でしか成立しえないマイナービジネス」が元気だったから。
「人口のせいぜい1%にしかニーズのないマニア向けアイテム」でも商売が成り立つのは、東京のような大都市圏のみで、言ってみれば「マニアックな店がやっていける」のは「大都会の特権」なのでした。

「でした」と過去形なのは、いまの東京は「もう違う」から。
私が愛したような店は、全滅こそしていないものの、いまや風前の灯火です。
「人口のせいぜい1%にしかニーズのないマニア向けアイテム」に関心を持つようなクセの強い客(私みたいな)は激減し、雑誌やテレビ、ネットで紹介される「みんなが持ってる(食べてる)流行りモノ」を欲するお客が大半を占めるようになりました。
そういうのを扱うのは「大手資本のステレオタイプなメガストア」ですからね。
「家賃の発生しない自宅店舗」ででもない限り、やっていける小商いは数えるほどしかありません。

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