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【脱東京をはばむ迷信】車ナシでは暮らせない

これもまた根強い迷信ですねぇ~。
確かにね、日本に「車ナシでは暮らせない」というヘンピな地域が複数あるのは紛れもない事実ですが、それは単に「移住先を選ぶ際にそこを避ければ済むだけの話」じゃないですか。
「車ナシでは暮らせない地域」があるのと同じように「車ナシでも暮らせる地域」だっていっくらでもあるのです。
私のように「運転をしたくないから上京した」という人間は決して少なくないと思いますので、もしも「車ナシだと東京外では暮らせない」のだとしたら、私と同タイプの人間は死ぬまで在京しなきゃならないじゃないですか。

最近ではローカル移住促進雑誌でもこんな巻頭特集を組み、迷信の打破に取り組んでいます。

田舎暮らし

「車ナシでも暮らせる地域」は2種類に大別できます。
ひとつは「公共交通網が発達している地域」
もうひとつは「徒歩圏内に必要な施設がひと通り揃ってる地域」です。

前者の筆頭である「東京」の場合、東京駅新宿駅渋谷駅池袋駅といったターミナル駅から郊外へ向けて複数の鉄道路線が延びていて、鉄道と鉄道の間は路線バスで結ばれています。
地価が高い都心部だと「駐車場代ひと月4万円」なんてところも少なくないので、東京在住者は「一定以上のお金持ち」「車に並々ならぬ執着のある人」でない限り、マイカーを持とうとは思いません。

車が必需品化しているローカル地域にもバス路線はありますが、しかし利用者は圧倒的に少ないですね。
私の住んでいるあたりでは「乗客が一組だけ」という銀河鉄道999みたいなバスをよく見かけますが、あれほど心寂しくなる光景はないですね。

東京だと「区市町村民税が非課税な70歳以上の都民」「都内のバスと都営交通が乗り放題のシルバーパス」年間1000円で購入できます(以前はなんと無料でした)。
だからどのバスも高齢者でいっぱいなんですよ。

ローカルエリアだって同じようにすれば999バスも無くなり、高齢者の免許返納率だって上がるわけなんですが、東京のように税収が多くないんで、なかなかそうはいきにくい。
「999バスを毎日ムダに走らせとくくらいなら、高齢者パスを発行したほうがよっぽどマシだろうに」と私なんかは思うんですが、どうやら政治の場の考え方は違うようです。
「タダみたいな値で乗せるくらいなら誰も乗せないほうがマシ」と考えてるんでしょうかね?

でも、その結果としてバス路線がどんどん減っていき、「免許を返納したくてもできない高齢者」が増えているわけです。
そのくせ国からせっつかれるままに「高齢になったら運転は止めましょう」とか言ってるわけですから「なんだかな~???」という話。
「年寄りはハンドル握るな」と言うんだったら「年寄りがハンドル握らなくても安心して暮らせる環境をまず作れ」って話ですよ。

中古車

もうひとつの「必要な施設が徒歩圏内にひと通り揃っている地域」ですが、じつはこちらも、私がまず思いつくのは「都内」なんですよ。
武蔵野市「吉祥寺駅」多摩地区「八王子駅」の付近は、駅の周りに必需品店から娯楽施設緑のオアシスまでが一通り揃っていて、「わざわざ外へ出なくても困らない環境」になっています。
「こんな便利なトコに住んだら街にこもっちゃうだろうな~」と私は行くたびに思っていました。

中でもコンパクトによくまとまっているのが「住みたい街(駅)ランキング」で常にトップの吉祥寺で、あの街に漫画家が多く住まっている理由は「品揃え豊富な書店や画材屋、打ち合わせ場所や作業場として使える喫茶店、気分転換に使える大公園と、クリエイターが欲するものが全て近所で間に合う」からだと前に聞いたことがありました。
「徒歩圏内だけで事足りる環境」というのは、他地区までガンガン出張っていくほどのアウトドア派ではない人たちにとっては「アウトドアとインドアの真ん中あたり」の心地良さを与えてくれるんだと思います。

「全米一住みたい都市」と言われている米オレゴン州のポートランド(一説では「毎週約500人が移住してくる」のだとか)は「車社会からの脱却」を目指して「街区の一辺を60m(通常の半分程度)にする」という「徒歩でも不自由なく移動できる都市設計」を実行したそうです。

車だと遠距離移動が苦労なくいくらでもできるので「市街地が際限なく広がってしまう」という弊害が起こります。
それがつまり「郊外への無秩序な都市化」を招いたわけですが、そうなることをポートランドでは政治判断によって防いだわけですね。

少子高齢化による人口減(税収減)時代をこれから迎える日本では「既存インフラの永続化が最大の課題」とも言われています。
その解決策のひとつとされているのが「コンパクトシティ化」で、それは「広範囲に散らばっていた住宅街・オフィスエリア・商業地を限られた範囲内に集約し、街を小さく作り直す」という手法。
街の面積がたとえば1/5になればインフラの維持費も1/5に減らせるため、財政難が年々進行中の自治体にとってこれほどアリガタイ話はありません。
だって「これまで50kmあった水道管を10kmに短縮できる」わけですから。

コンパクトシティ化にいち早く着手したポートランドでは、建物の1階部分レストランなどの商業施設を入れ、その上の階オフィス住居を置く「ミックスドユース」なる使い方がされていると聞きました。
「都市の二毛作」みたいなこの使い方は「土地の有効利用」「職住近接」につながるうえ「昼夜で異なる使われ方をされながら街が賑い続ける」というメリットも生まれます。
土地の有効活用がなされれば歩道にも十分なスペースが割けますから、街がコンパクト化されても歩行者の安全も守られるのです。

まぁ日本のローカル自治体が一足飛びにポートランドを目指す必要はないですし、目指したところで実現は不可能です。
でも政治に携わる方々には「目指すべき最終形態として念頭に置く」ぐらいのことはしてほしいですね。
でないと「高齢者の免許返納問題」「老朽化インフラの保守問題」も解決できませんので。

仲見世テーブル

話を「車ナシだと東京外では暮らせない、という話は本当か?」に戻しましょう。

冒頭でもチラッと言いましたように、それは「間違い」です。
私は車どころか自転車もないですが生活上の不自由は全く感じていません(そもそも「自動車免許を持っていない」ので、車があったところで利用できないんですが)。
その理由は「車がなくても暮らせる地域」の2つ目である「徒歩圏内に必要な施設がひと通り揃っている場所」を選んで移住したからです。

移住した時点での「一番近い生活必需品店」「徒歩4分のスーパー」だったんですけど、今年になって「徒歩30秒の大型ドラッグストア(生鮮食料品も多数あり)」が新たにオープンしたので、より「クルマ不要度」はアップしました。
他にも徒歩20分圏内スーパーやら野菜の無人販売所などがウジャウジャあり、用途に応じての使い分けができます。

無人販売

ただ、近場ばかり巡っていたのでは運動不足になって健康に悪いので、あえて遠くの店までトレーニングかたがた出かけるようにしています。
徒歩45分「ららぽーと」とか、徒歩60分市中心エリアとか。
なんで自転車で行かないの? と思われるでしょうが、いやいや「脳梗塞のリハビリを兼ねたトレーニング」ですから。
東京時代から「新宿駅~三鷹駅」くらいの距離はフツーに歩いてましたから、この程度の距離なんかどうってことないですよ。

東京で鍛えた健脚を活かして転居前、私は移住候補地(神奈川県小田原市~静岡県沼津市)内の全JR駅周辺をくまなく調査しました。
それによって「車ナシでも困らない土地/車がないと困る土地」を仕分けしたんです。
たとえば、JR駅周辺にコンビニの一軒すらなく、えんえんと「一番近いスーパー」を探して90分ほど歩いていたら伊豆半島へ向かう私鉄の駅前まで行ってしまったこともありました。
あそこはまさに「車ナシでは暮らせない土地」ですね。

また、「駅からの距離自体はさほどでもないけど、えんえんと山道を登らないと到達できない」という住宅地(定住者の多い別荘地)もありました。
「適度なウォーキング」だったら健康の薬にもなりますが、「食品買うのにイチイチ山道を上り下り」というのでは逆にですよ。
当然ながら、こちらも調査票には「無理」と付けました。

函南

「車ナシだと東京外では暮らせない」という迷信がはびこり続ける背景には、「ポツンと一軒家」みたいな「田舎礼賛番組」の影響も大きいかと個人的には思います。
ああいう生き方も勿論ステキだとは思いますが、一般的な東京在住者にはあまりにもハードルが高すぎます。

あの番組は私も大好きなんですが、人気が高まるにつれて「あそこまでできないと東京を出られないのか……」という誤解が視聴者間に広まってしまうのはチト困ります。
「ゴチャッと密集地」「ポツンと一軒家」の間にウチのような「ほどほどローカル住まい」があることも、マスコミは報じてくれないかなぁ~。

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