見出し画像

ポケモン ユナイトに見るゲーム空間の広がりと巧妙な“嘘”

いま、自分の中での流行りがPokemon Unite(ポケモン ユナイト)というゲームです。2021年の7月21日にSwitch版がリリースされたばかりで、まさに今ホットなゲームです。スマホ版も今年の9月に解禁される予定ですから、今後さらに盛り上がりを見せていくでしょう。

この1週間ほどは1日2時間ほどプレイしていて、ランクマッチのハイパーランク3と4の間を行ったり来たりしてます。

そして昨日のことですが、個人的には非常に感動した発見があったのでぜひみなさんに共有させていただきたく、このnoteを書いています。

それはこのゲーム内のフィールドの半分ほどを覆い尽くすほど大きく、しかしそれに悟られないように巧妙に包み隠された”嘘”についてのお話です。
ゲーム制作やメディア表現、プレイヤーとキャラクターの身体性、バーチャルリアリティなどに興味ある方にはぜひ読んで感想いただきたいです。

※これはゲームの攻略についての話ではないので、ゲームの攻略についての話は含まれません!

1.ポケモンユナイトとはどういったゲームなのか

まず、ゲーム自体について基礎情報をすこし書いておきます。

このゲームはすごく簡単に言えばプレイヤー10人が5対5、2チームに分かれて競う、妨害ありの陣地取り&玉入れゲームです。各プレイヤーはそれぞれ違った能力を持ったポケモンを操作し、制限時間10分の間により多くの得点を獲得したチームが勝利となります。

(細かく言えばMOBA (モバ)というジャンルに含まれるようです。Multiplayer Online Battle Arena(マルチプレイオンラインバトルアリーナ)という長い言葉の略称です。詳しく知りたい場合はWikipediaなどをご覧ください。)

画像2

その玉入れの「玉」に該当するアイテムが「モンスターボール」になっているのがポケモンらしさを出している…ような、出していないような。
そんな使い方していいの?

運動会などで一度は経験したことがある玉入れではボールは地面に落ちていますが、ユナイトではフィールド上に湧いた雑魚モンスターや相手プレイヤーの操作するポケモンを攻撃して倒すことで手に入れることが出来ます。それを相手陣地側にあるゴールに入れると得点が加算されます。

画像3

ゴールに入れないとダメなのがミソで、このボールを持っている時に敵プレイヤーに倒されると一定割合をフィールドに落としてしまうほか、多くのボールを抱えたまま倒されると再出撃できるまでの時間が増えてしまいます。

画像11

陣地取り&玉入れゲームと述べたように、陣取りの要素もあります。書き始めると長くなってしまうのでここでは省略します。

簡単なルールですが、シンプルだからこそさまざまな戦略、攻略法が生まれる余地があり、非常に面白いゲームとなっています。

では、次にもう少し具体的なゲームの進行を見てみましょう。ただし、ここでもゲーム自体の解説をしたいわけではないので、かなり省いていることにご留意ください。

2.大きく3ルートに分かれる

まず、戦うフィールドを見てみましょう。

フィールドは左右2つの陣地に分かれています。
自軍のスタート地点がひだり側に、
敵軍のスタート地点がみぎ側にあります。

2アセット 1

自軍側にある5つある紫色の円形のマスが敵チームが狙いに来るゴールです。ここを守りつつ相手の陣地側にあるオレンジ色のゴールを狙います。

フィールド全体を見渡せる画像がないので、試合終了後の得点表の画像を流用しています。各ゴールに書いてある数字はどこに何点入ったかを表しています。この試合はかなり接戦だったようですね。

画像6

ゲームがスタートすると、上中下の3つのルートに分かれて進軍します。その名も

「上ルート」「中央エリア」「下ルート」です。そのまんまです。

画像1

雑魚モンスターを倒してポケモンのレベルを上げながら進軍し、右側から進行してきた敵ポケモンと各ルートの中間らへんで戦闘になります。上手く相手ポケモンを倒すことができればアドバンテージになります。

どうなるんだ、ワクワク…と。

ここまで説明すればやっと本題に入れます。

3.敵はどこから来るのか

では本題に入ります。ここまで時間をかけてゲームのルールや構造を説明したのも、以下の疑問について考えるためなんです。


相手プレイヤーはどこをどう進んでいるのか?


…。

……!?コイツ何を言っているんだ?お前がさっき言ったんじゃないか、敵ポケモンは右から来るって!

このnoteを読んだ半数近くの方、だいたい5万人くらいから同様のツッコミが飛んできそうですが、残念ながら違います。

……?なんだコイツ!怖!…解散解散!!(5万人の声)

ああ!ページを閉じないで!!何を言っているのか詳しく説明させてください!!

ゲームのルール説明で僕は

「フィールドは左右2つの陣地に分かれています。
自軍のスタート地点がひだり側に、
敵軍のスタート地点がみぎ側にあります。」

2アセット 1

「雑魚モンスターを倒してポケモンのレベルを上げながら進軍し、右側から進行してきた敵ポケモンと各ルートの中間らへんで戦闘になります。上手く相手ポケモンを倒すことができればアドバンテージになります。」

と説明しました。

じゃあ、敵プレイヤー、敵チームって誰のことでしょう。「敵プレイヤーとしてゲームに参加する」なんて機能はこのゲームにはありません。敵プレイヤーがいないのに敵プレイヤーがいる。なぜ?

いやいや、5人チームが2つあって、それぞれが戦っているだけじゃん!何言ってるだコイツ??(7万人)

その通りです!つまり本当は「敵陣側」なんて無くて、お互いに「自陣側」から出発して「自陣」を守ろうとする2つのチームの戦いなんです。

さっきからそう言ってるじゃん、てかそんなの常識じゃんって思いますよね。オンラインのバトルなんだから。なにも不思議なことはない。

本当にそうですか?考えてみてください。

いま、お互いの自陣側から出発して敵陣側に向かう2つのチームがある。

いま、お互いに左側から出発して右側に向かう2つのチームがある。

どうですか?

4.嘘とは

つまりですね、私が発見して感動した嘘というのはここなんです。

お互いに左から右に進む2つのチーム。じゃあなんで敵ポケモンは右から来るんだ????

…答えは一つしかないんですよ。

このゲーム、お互いに自陣側から敵陣側に進んでいると思っているけど、相手の画面上で表示された自分のポケモンは中央の境界線を軸に位置情報が反転しているんです。

フィールド自体の反転、位置情報を線対称の位置へ反転、プレイヤーが入力した進行方向と攻撃の方向の反転…。

巨大な反転魔法にかけられているのに全く気づかずにフィールドを駆け回るプレイヤー。

3アセット 2

6アセット 5

このやり方を最初に考えた人はマジで天才だと思います。
その手があったか!と言わせるほど見事でしかし単純な手です。しかもその工夫を微塵も感じさせない。2021年で1番衝撃的でした。

10万人分くらいの驚きを期待して書いているんですが、どうですか?めちゃくちゃ面白くないですか?

画像9

※そんなことはない

ここからはなぜこんな仕組みにする必要があるのか、他のゲームではどうなのかを自分なりに検証し推察してみます。結論から言えばこれは「カメラの角度」が重要なポイントのようです。

5.なぜ嘘が必要なのか

まず、ユナイト以外のゲームの実例をみて比較してみます。私は特別MOBAというジャンルのゲームには詳しいわけではないのですが、このユナイトの反転魔法に気づいた時に脳裏に浮かんできた2つのゲームを取り上げます。

一つはフィンランドのSupercellというスマホゲーム会社が開発し運営している「ブロスタ」というゲーム。もう一つはMOBAゲー界の古参「League of Legends」(略称LoL)です。

ユナイト、LoL、ブロスタの3つを比較しました。

6アートボード 1@2x

↑ まずはユナイト。先ほど言ったように反転魔法を使っています。
フィールドは左右対称(鏡面対象,線対称)。

6アートボード 2@2x

↑ LoLは実はフィールド自体が完全な対称系になっていません。A,B地点にはそれぞれ異なるモンスター(倒すと戦いが有利になる)がスポーンしますが、そのうちどちらかに出現するバロンナッシャーという最強モンスターを倒すことで試合がかなり有利に進みます。

6アートボード 3@2x

↑ ブロスタはMOBAではありませんが、カメラ固定のオンライン対戦ゲームということで比較対象に採用。
一見複雑に見えるがフィールドの上半分と下半分は回転対称。

こうしてみるとスタート地点の位置が3つとも異なっていて違いが見やすいですね。一方で3つともに共通なのはカメラ位置が固定であるということ。操作しているキャラクターを真上から俯瞰するのではなく、立体感を持たせるために少しだけ傾いています。大体60〜45°の間くらいではないかと思います。

で、このカメラ位置が固定されていることがゲームの公平性を歪めてしまうのです。それが何かというと、「画面の下部に死角を増やしてしまう」のです。

図解するとこんな感じです。

6アートボード 5@2x

同じ距離にいる敵でも画面下側にいるものは見えづらく画面上側はよく見えます。つまり下側から相手を攻撃する方が有利になるのです。

6アートボード 6@2x

さらに言えば、WildRiftとブロスタに関してはスマホゲームなので、画面の下部には自分の指があるため、非常に見づらい。

例えばブロスタでは、先述の3対3のバトルの他に「サバイバル」と言って、10人スタートで最後の1人になるまで戦うゲームモードがあります。PUBGやフォートナイトの縮小版のようなイメージですが、ブロスタではカメラが固定であるためフィールドの上側にスポーンした場合、それだけで不利になってしまいます。

(いちプレイヤーとしてこれは改善してほしい点なのですが、いまだに改善されていません。)

画像17

また、WildRiftではバロンナッシャーと言う最強モンスターを倒すと試合がかなり有利になるのですが、それが先ほどの図に示したA,B地点のどちらかに出現します。

WildRiftのフィールドは一見は対称な形に見えますが、バロンがスポーンするのは1箇所なので、そこだけが非対称のため公平ではないという意見があるのです。

すごく省略して説明しているので誤謬を含んでいる可能性はあるのですが、図にしてみるとこんな感じでしょうか。

6アートボード 7@2x

ここでもカメラ位置が固定であることが悪影響を出しています。ユナイトではこういったカメラ固定とフィールドが対象でないことによる弊害をなくすために、左右対称、全員左から右へという公平な仕組みにしたのではないかと私は考えています。

(実は本家のLoLではフィールドはWildRiftのように斜め45°に傾いているのではなく、ユナイトと同じように横長という情報もありましたが、LoLはプレイできておらず検証できていません。また、「LoL」と「DotA」はWar craftから派生したMOBAであるということでほぼ同じマップだそうな。これも未確認。)

結論

結論として、ポケモンユナイトでは

「下から攻撃した方が有利」問題自体は解決しきっていないものの、これまでのカメラ固定のMOBAゲーやオンラインストラテジーゲームの弱点を巧妙に解決するために

フィールドに位置情報&攻撃方向を反転する魔法をかけている!」

ということでした。

かなり急足でやってきましたので、意味を取りづらかったり用語説明が不十分な箇所などあるとは思います。どうしても気になる箇所や明らかに間違っている部分などありましたらお気軽にコメントください!

ここまで読んでくださった方にはぜひ今回触れた各ゲームをプレイしてゲーム空間がどう作られているかなど観察しながら楽しんでいただけたらなと思います。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!


書いた人:@YoneharaRyuhei

ぼくのnoteを読んでいただきありがとうございます!写真、カメラ、美術などいろんな記事を書いていきますので、すこしでも面白いと思っていただけたならサポートをお願いします‼