奈良プロの聴牌外しをどう見るか リーチ麻雀世界選手権優勝
日本プロ麻雀連盟の奈良圭純プロが第3回リーチ麻雀世界選手権で優勝しました。さまざまなタイトル戦で活躍している勢いに乗って、見事に栄冠に輝きました。
優勝を決めた決勝の最終戦南4局1本場の最終盤。奈良プロの興味深い選択がありました。決意の聴牌外しです。
ノーテンが許されず、敗着にもなりかねないぎりぎりの選択でした。最後のツモ番で鳴いて再び聴牌して優勝を決めました。
紙一重の手に汗握る戦いとなったオーラスを振り返ります。
第3回リーチ麻雀世界選手権には33ヵ国から160人が参加しました。決勝に勝ち上がったのは日本プロ麻雀連盟の藤崎智プロと奈良圭純プロ、フランスのCOURTOIS Valentinさん、ウクライナのZUBENKO Annaさんの4選手です。
最終戦の並び順は藤崎プロ、奈良プロ、 Annaさん、Valentinさん。南4局1本場を迎え、総合ポイントは西家・奈良+29.3、南家・藤崎+28.2、東家・Valentin-26.9、北家・Anna-30.6です。
奈良プロと藤崎プロの差はわずか1100点で一騎打ちの様相となっていました。1本場なのであがればどちらも優勝です。
親のValentinさんがノーテンで終わった場合、奈良プロと藤崎プロがそろって聴牌、あるいはノーテンならば奈良プロの優勝です。藤崎プロが聴牌、奈良プロがノーテンだったら藤崎プロの逆転優勝になります。
藤崎プロの配牌です。2メンツあり、あがりが早そうな逆転の狙えるチャンス手です。
一方、奈良プロの配牌です。1メンツもないバラバラの厳しい手です。
配牌では藤崎プロが圧倒的に有利です。藤崎プロは1巡目に5筒、3巡目には中をトイツで重ね、早くもイーシャンテンです。
藤崎プロは中が鳴ければ聴牌です。ところが、逆転優勝にダブル役満の必要なAnnaさんが索子の一色手を進めていて、手牌に1枚ある中をなかなか切りませんでした。
藤崎プロがイーシャンテンで止まっている間、奈良プロは丁寧に字牌を一つずつ切って手を進めます。
奈良プロは6巡目までに3筒、6萬、2萬、6索、3萬を引き入れ、勝負できる手に育ってきました。
Valentinさんは鳴き仕掛けで必死に連荘を目指します。6巡目に8筒、8巡目に6筒をポンしてイーシャンテンです。
Valentinさんは9巡目にドラの7筒をツモ切りました。
これに反応したのが藤崎プロです。9巡目に8萬をツモり、合わせて7筒を切りました。
6筒と8筒がポンされているので、筒子のドラ絡みの「79」のカンチャンを外し、萬子でもう1メンツ作る方向に転換しました。藤崎プロらしい柔軟な打ち回しです。
奈良プロのツモはずっと効いていました。8巡目に7萬、10巡目には7索を引き入れました。
奈良プロの手は「678」の三色も狙えます。ひどい配牌からは想像できない好形のイーシャンテンです。「麻雀はツモ」という格言がまさに当てはまります。
藤崎プロは11巡目に7萬を「678」の形でチーして聴牌に取りました。
5筒・中のシャンポン待ちで中でしかあがれません。中はAnnaさんがずっと切らずに1枚持っていて、山に1枚残っていました。
奈良プロは11巡目に4萬をツモり、ドラの7筒を切りました。
6筒がポンされているので筒子ではなく、萬子でもう1メンツ作るこちらも丁寧な打ち回しです。
この7筒・8筒を外す判断がずばりでした。奈良プロは13巡目に1萬、14巡目には8萬をツモり、カンチャンの7萬待ちで聴牌です。
「678」のイーペーコーなので出あがりできます。奈良プロは黙聴に構えました。7萬は山に1枚残っていました。
Annaさんが16巡目に5索をツモった手牌です。中を切れば藤崎プロが優勝です。
Annaさんは初牌の中ではなく、場に出ていた發を切りました。
その後はオリに回りました。無理して手を進めず、奈良プロと藤崎プロの優勝争いに水を差さないのはさすがでした。
◎押し切って優勝決めてほしかった
親のValentinさんはイーシャンテンから聴牌にこぎ着けません。17巡目に重要な場面が訪れました。奈良プロがツモったのは8索です。
8索は藤崎プロには通っておらず、かなりの危険牌です。Valentinさんにも放銃する可能性がありました。
けれども、藤崎プロの聴牌は明白です。8索を残して聴牌を外してそのままノーテンで終わり、Valentinさんも聴牌していなければ藤崎プロの逆転優勝が決まります。
残りのツモ番は1回しかありません。奈良プロはその1回で8索を残してもう一度聴牌することに懸け、1萬を切りました。
どうしても8索は切れないというプロとしての決断だったようです。敗着にもなりかねないことを分かった上で勝負に出ました。
すると、直後の18巡目にValentinさんがツモ切ったのは8索でした。残した8索は通りました。
さらに、藤崎プロが18巡目にツモ切ったのが7萬です。奈良プロが8索を勝負していたらあがって優勝でした。
それでも奈良プロは18巡目にこの7萬をチーして再び聴牌することができました。ぎりぎりセーフです。
そのままValentinさんは聴牌できず、藤崎プロもあがれずに流局。奈良プロが優勝しました。
奈良プロには8索を押し切って世界王者になってほしかったです。
藤崎プロが18巡目に7萬ではなく、奈良プロの聴牌できない牌をツモ切りし、奈良プロは最後のツモ番で有効牌を引けず、ノーテンで優勝を逃していたらどう考えるのでしょうか。
私は8索を勝負して放銃となり、優勝を逃しても聴牌を維持するため仕方ないと納得できます。
しかし、8索を勝負せずに聴牌を崩してノーテンのまま終わったら悔やんでも悔やみきれません。優勝できたのに自らの手で逃してしまったことになるからです。
奈良プロにとって決意の聴牌外しだったと思います。それでも、決意の8索切りが見たかったです。
大舞台で勝つことは勝負の世界に生きるプロにとって貴重な経験になります。この大会を機に、奈良プロのさらなる活躍を期待しています。