「サイトウ・タクミ」を追いかける女性たちから漂う悲哀…おっかける!それって迷惑かもしれないよね…?
夕張国際ファンタスティック映画祭を見に行ったら、相部屋の宿が映画ファンの私以外全部「サイトウ・タクミ」の追っかけだった思い出の記憶である。
同じ部屋になった、「サイトウ・タクミ」のおっかけ女性たちは、全国各地から集まっており、年齢層も幅広い女性たちばかりであった。
私は「サイトウ・タクミ」がどれほど魅力的なのか、あまりわからないままに日々を過ごした。相部屋なので彼女たちの会話に入らないという選択肢はなく、車座になってサイトウ・タクミへの思いなどを聞くこともしばしばであった。
サイトウ・タクミは審査員として会場に来ており、さらに彼が監督した作品も上映されるという。
私は彼が部類の映画好きであることや、実家が喫茶店であること、WOWOWの映画の番組に出ていることなどに詳しくなった。イベントでは、遠巻きで彼をガラケーで撮影したものの、ぼやけていた。引き続き顔も魅力も、よく分からないままに、どんどん「サイトウ・タクミ」に詳しくなっていった。顔はハテナマークのままである。髪は長髪。帽子は山高帽。
私は、彼女たちの話を聞きながらこんなことを思った。
「サイトウ・タクミ」は部類の映画ファンであるらしい。歴史のある映画祭の審査員として、審査をする立場として会場に来ているのだ。東京の映画祭ではまずあり得ないことなのだと思うが、夕張国際ファンタスティック映画祭では、映画を見ているその近くに座ることができるゆるい運営方式であった。集団の追っかけが近くに座ったりすることを、本人はどう思っているんだろう?
追っかけの人たちの間には暗黙のルールがあるようで、近づくことはするが、話しかけたりすることは、しないようであった。しかし彼女たちが追っかけであることは、集団での接近や眼差しにより、気配でわかることだろう。普通に考えたら、結構、迷惑ではないのだろうか。
サイトウ・タクミはやたらに頭をバリバリかいていると追っかけの1人が心配していた。
迷惑なのでは…と私は思ったが、その状況について古参の追っかけっぽい女性はこう言い放った。
帽子のせいよ!
帽子のせいで頭が…蒸れるのよ!
確かにあの山高帽は蒸れそうだったが、本当にそれだけだろうか。映画が大好きで夕張までくるチャンスに恵まれた「サイトウ・タクミ」にたいして、集団で、迷惑なことをしている、とは思わないのだろうか。迷惑かもしれない、と思うことは絶対にあり得ないと言いきかせているような気配が彼女たちの話しぶりからただよっていた。
迷惑なのでは…?
それは非タクミファンの私も、初日から彼女たちに対して思ったことであったが、それだけは、絶対に言い出せなかった。もしそんなことを言ったら、北海道の、一度財政破綻した夕張市の極寒の雪の中で、「このひとは映画ファン」とかかれたプレートみたいなものをつけられて、腕を後手に縛られて放り出されてしまうかもしれない。粛清されてしまうかもしれない。
一人一人は皆優しくて良い感じの方々だったが、何か、本当に思っていることを言ったらいけないという不思議な息苦しさがあり、私は引き続き「サイトウ・タクミ」を知らないとも言えなかったし、彼女たち追っかけの存在が「サイトウ・タクミ」本人にとっては迷惑かもしれないなどと言ったら、取り返しのつかないことになりそうな、そんな独特の怖さがあったのだった。