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目黒川のあたりで愛犬のにおいがする【4/30】

夜。会社を出て、アイスを買いにコンビニまでの道を歩いているときにふと、脇にある目黒川のあたりからチャッピィのにおいを感じた。チャッピィとは、実家にいたころ飼っていた柴犬の血が混ざった雑種の小型犬だ。

チャッピィはいつも外にいた。当時は今ほど酷暑じゃなかったためか、外で犬を飼う人がまだ結構たくさんいたのだ。ホームセンターでは、三角屋根の犬小屋がそこそこ幅をきかせていたように思う。隣の家の犬も、隣の隣の家の犬も、斜め前の犬も、みんなみんな外で飼われている犬だった。

家のまわりに散歩の犬がとおると、四方八方の犬たちがわんわんわんわん声をあげる。そんなことが1日に何度も繰り返されていた。混声大合唱。どの犬もまったく出し惜しみしない。そういえば、当時は室内犬は「座敷犬」と呼ばれることもあって、母はよく「血統書つきの座敷犬を飼っている人は裕福なのだ」と言っていた。私はそれを聞くのがあまり好きではなかった。

チャッピィは、気難しいところがあるけれど、近しい家族にはめっぽう甘ったれで、近寄るとぶうぶう鼻を鳴らしながら機敏にジャンプを繰り返し、しきりに顔をなめたがるお団子のような犬だった。

夏になれば物置の下に深い穴を掘って、一日中埋まりつづける。雷と花火大会が大きらい。台風がくると不安そうにするので、そのときだけは家の玄関にかくまった。普段は外にいるはずのチャッピィが玄関にいて、息をはあはあ言わせている。そういう日はわくわくした。こんな暮らしが毎日だったら、どんな感じなんだろう。犬との距離が近い生活。

ところでチャッピィはシャンプーを愛せない犬でもあった。だからいつもチャッピィからしていたのは、雨のにおい、土のにおい、草のにおい、太陽のにおい。いろんなにおいがまざりあった、むわっとした生温かい、いわゆる犬の、とても犬らしい香りだった。

もし今日の気づきが間違いじゃないのなら、今後も細々と目黒川付近で擬似チャッピィを味わえるなら、初夏の目黒川を今年こそ好きになってしまうかもしれない。

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