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トンボを追いかけていた男の子

5歳くらいの男の子が虫取り網を振り回していた。

まだまだ暑さが残る9月の午後、少し秋らしい風が吹き始めた時間帯。
男の子は全身汗だくでトンボを追いかけ懸命に走り、そして虫取り網をぶんぶんと振り回していた。

トンボは涼しい顔?で、スィーっと飛んでいる。
わざとかと思うくらい、男の子のそばをクルクルと回りながら。

彼の網は何度も空を切り、トンボはスイスイと逃げていく。
子どもにとって、トンボを捕まえるのはなかなか難しいもの。

すると、じっと男の子を見ていた怪しげな大人(私)に、男の子が近寄ってきた。

「取って!」と男の子が虫網を差し出した。

実は私、トンボ取りにはちょっと自信がある。
久しぶりに腕を試してみようかなと、軽い気持ちで網を受け取る。

思わぬ虫取りの依頼にちょっと嬉しくなりながら、飛んでいるトンボを目で追いかけ、タイミングを見計らって…網を一振り。
なんと一発で!とはいかなかったが、三振りで見事にトンボを捕まえることができた。
自分でもちょっとびっくりして、心の中でガッツポーズ。

まだまだ腕は鈍っていないと、少し得意げに男の子の方を見る。
捕まえたトンボをそっと男の子が持っていた虫かごに入れてあげた。

ところが、男の子はなぜか後ずさり。

「どうしたの?トンボ捕まえたよ?」

私が聞くと、男の子はそっぽを向いて、

「虫嫌いだから、早くはなして…」

え!?虫嫌い?
虫は嫌いでも、虫取りは楽しいんだね…

「じゃあ、トンボをお空に返してあげようか?」

そう言うと、男の子はほっとしたようにうなずく。私が虫かごのフタを開けると、

「こっちに向けないで!」

と、男の子。
自由を得たトンボは、あっという間にどこか遠くへ飛んでいきました。

男の子がトンボを捕まえていたら、一体どうするつもりだったんだろう?

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