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肖像画の裏側〜『黄金のアデーレ 名画の帰還』を観て

第二次世界大戦の戦渦中にナチスドイツによって違法に没収された芸術作品は、10万点以上にもわたり、その多くは持ち主の元に帰っていないのだという。
本作はナチスに収奪され、法的根拠が薄弱なまま戦後ベルヴェデーレに飾られた『黄金の女性』を取り戻すためにオーストリア政府相手に控訴を起こしたユダヤ人の女性とその弁護士の史実に基づいた物語。
ナチスを逃れアメリカに亡命したマリア(ヘレン・ミレン)と同じく、彼女の弁護士ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)も作曲家シェーンベルクの親戚関係にありユダヤの血を引いている。

当初は「黄金の女性」の資産的価値に目が眩んで弁護を引き受けたランディだが、マリアとの交流や自身のルーツであるオーストリア滞在によって、この問題が単なる所有権を巡る争いではなく、自分の祖先を含むユダヤ人たちに加えられた今もなお精算されていない不当な暴力との戦いとして受け止めるようになる。

マリアとランディの絆が徐々に深まっていく様子がとても丁寧に描かれていて、笑えるやりとりが繰り広げられる場面も多い。
マリアの育て親であるフェルディナント・ブロッホ=バウアーが芸術を非常に愛した人物として描写されているが、改めて当時の芸術や学問の分野におけるユダヤ人の存在感の大きさに驚嘆する。映画のなかではフロイトやシェーンベルクの名前も挙げられている。

戦後時がたち何事もなかったかのように、シェーンベルクを題目とした演奏会が開かれ、「黄金の女性」がベルヴェデーレ宮殿に架けられている。過去をきちんと直視することなく、文化的な上澄だけを享受することへの反抗がテーマとなっている。

テーマとしては面白いし、とても勉強になったのだけど、映画としてはどうだろう…マリア演ずるヘレン・ミレンは、ベテランだけあって演技に説得力もあるし、ライアン・ノイルズも微妙な心理の変化をうまく演じられていたと思うけど。
自分的には68点くらいか・・・


終わり

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