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【シナリオ】非常口のハルくん

シナリオセンター通信基礎科課題10「非常口」

東高の七不思議のひとつ「過去に通じる旧校舎の非常口」。旧校舎に閉じ込められた悦子。諦め気味に非常口を出てみたら、そこには不思議な男の子がいました。

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<人物>
野田悦子(17) 吉祥寺東高校2年生
野田悦子(37) デパート化粧品売り場店員
小松ハル(17)(14) 吉祥寺東高校2年生/中学2年生
野田清(47) 悦子の父
金本明美(32) 清の愛人
大城智子(30) 吉祥寺東高校教師
野田良枝(40) 悦子の母

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〇吉祥寺東高校・教室
黒板端の日付は『平成9年10月15日』。
野田悦子(17)、誰もいない教室を掃除している。
窓から見える木造の旧校舎。

〇同・廊下
生徒たちに囲まれ、
得意げに話している大城智子(30)。

大城「東高の七不思議その3!」
生徒「はいはいはいはい! 非常口‼」
大城「正解! 午後3時、旧校舎1階の非常口を
   開けると…そこは過去の世界。
   でも気を付けて」

大きなゴミ袋を持って歩いてくる悦子。

大城「もしも過去に戻ってしまったら、
   その日の夜の7時ちょうどに
   絶対に扉を開けること。
   そうしないと…」

悦子、迷惑そうにその脇を通り過ぎる。

〇野田家
ボロアパートの一室。
帰ってくる悦子。
酒を飲む野田清(47)と
鏡台で白粉をふる金本明美(32)。

悦子「……」

〇(フラッシュ)野田家
鏡台で化粧をする野田良枝(40)。

〇元の野田家
悦子、明美の白粉をはたき落とす。
間髪入れず悦子を殴る清。睨む悦子。

〇吉祥寺東高校・旧校舎・入口
女子生徒達に、中へ突き飛ばされる悦子。
扉が閉まる。

悦子「ちょっと…」

押しても開かない。
外から笑い声。
薄暗い廊下の奥を見る悦子。

〇同・同・1F非常口
非常口の赤い看板。
扉を見つめる悦子。

悦子「……」

ノブを掴み、ゆっくりと回す。

〇同・同・裏庭
生い茂った草木。
慎重に一歩出る悦子。

ハルの声「人キターーーーーーーーー‼」
悦子「!」

悦子に抱きつく小松ハル(17)。
個性的なメイクと髪。派手なアレンジの制服。

ハル「大城先生に聞いた通りにやったのに、
   普通に裏庭だし、ドア開かないし、圏外だし!
   僕はもうここでおじいちゃんに
   なる覚悟を決めて自撮りをしていましたっ」

キリッとスマホを見せるハル。
怪訝な顔でスマホを見る悦子。

悦子「へぇ…じゃあ…」

ドアを開けて出ていこうとする悦子。

ハル「待って待って! 捨てないで‼」

〇同・同・入口
ハル、構えて、ドアを蹴り飛ばす。

ハル「押忍! 行こぉ~!」
悦子「……」

〇吉祥寺駅前ロータリー
悦子とハル。ハル、駅を見上げ、

ハル「ねぇ、なんか違くなぁ~い?」

と辺りを見回す。
ルーズソックス、アムラー、腰パン、
PHS、ポケベル。

ハル「……」

ハル、悦子の手を掴み、走り出す。

悦子「え⁈ ちょっと!」

〇空地
住宅街の中の空地。『売地』の看板。
呆然と立ち尽くすハル。
呆れ顔の悦子。

ハル「家なーーーーーーーーい‼」

〇野田家アパート・前
外階段のある古いアパート。
悦子にとぼとぼついてくるハル。

悦子「じゃあ、もうここウチだから」
ハル「しゅん…」

清と明美が階段を降りてくる。

清「男か? 母親に似てきたな」
悦子「……」

明美が悦子の脇を通り過ぎる。

悦子「…ほんと化粧臭い」
ハル「?」
清「あ?」

悦子に殴りかかる清。
ハル、さっと間に入って清の腕を掴み、
投げ飛ばす。

ハル「DVはんたぁーーーーーーい‼」

悦子、慌ててハルを掴んで走る。

〇井の頭公園・ベンチ(夕方)
桃の天然水飲みながら座っている二人。

ハル「悦ちゃん、あの女の人嫌いなの?」
悦子「…あの人お化粧の匂いしたでしょ?
   あの匂い、お母さんからもしてたの。
   あの匂い嗅ぐとね、考えちゃうんだ。
   なんで私置いてかれちゃったのかなって」
ハル「……」
悦子「現世はもういいや。生まれ変わって、
   来世で幸せになれればそれでいいや」

パッと立ち上がるハル。

悦子「?」

〇東急百貨店・化粧品売り場(夕方)
売り場を見渡すハル。
不服そうな悦子。

悦子「私の話、聞いてた?」
ハル「僕ね、中学の時いじめられてたの」
悦子「……」
ハル「メイクするとね、勇気が出るんだよ。
   自分だけど自分じゃなくなるみたいな」

テスターのリップを手に取り、

ハル「それをね、中学生の僕に教えてあげたくって
   非常口出てみたの。
   でもちょっと戻りすぎちゃった」
悦子「……」
ハル「だから代わりに悦ちゃんに伝授する!」
悦子「…え⁈」

× × ×
鏡に映る悦子の顔。令和っぽいメイク。

悦子「うわぁ…」
ハル「悦ちゃん、今は超悲劇のヒロインだけど、
   悲劇のヒロインはね、
   絶対に最後はプリンセスになるんだよ!」

と悦子の肩を掴み、自分の方に向ける。

ハル「だから、現世も楽しくいこ! ね?」
悦子「……プリン…セス…? 何それ…」

吹き出す悦子。爆笑。
ふくれるハル。

悦子「じゃあハルくんは魔法使いだね。
   私を助けに来てくれた魔法使い」
ハル「……んーーー‼」

と喜び悶えて、悦子に抱きつくハル。

悦子「え、ちょっと! なんで⁈ こら!」

離れないハル。悦子、観念して、

悦子「ありがと、ハルくん」

ハル、バッと離れ、にこっと笑い、

ハル「うん! ところで…今何時?」

〇吉祥寺東高校・旧校舎・1F非常口(夜)
息を切らし、しゃがみこむ二人。
腕時計を見る悦子。7時少し前。

ハル「僕過去の人になっちゃうとこだった…」
悦子「時間が決まってるなら先言ってよ!」

黙り込む二人。

悦子「ねぇ、ハルくんお化粧誰に習ったの?」
ハル「化粧品売り場のお姉さんだよ。
   あの人はねぇ、ここだけの話…
   ガチの魔法使い」
悦子「…そっか」
ハル「よし! じゃあ、僕行くね!」

立ち上がるハル。ノブを掴む。

悦子「ハルくん」
ハル「ん?」
悦子「またね」
ハル「うん! まったね~~~~‼」

ハル、ゆっくりと扉を開ける。

〇デパート・化粧品売り場
ハル(14)、並ぶ化粧品に憧れの眼差し。

悦子の声「メイク、やってみませんか?」

振り向くハル。
優しく微笑む野田悦子(37)。
ネームプレートに『野田悦子』の文字。

<終わり>

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先生からは「七不思議の情報をもう少し詳しく」とのことだったので、大城先生に頑張って少しだけ詳しめに話してもらいましたが、そういうことじゃないんだろうな笑。こちらも指定ページ数気にせず修正しております。

「非常口」と言われて、瞬間的に「旧校舎の非常口」が浮かび、もう「七不思議」から離れられなくなってしまいました。最初はハルくんの時代に幽霊の悦子さんが出てくるようにしようと思ったのですが、考えているうちに幽霊になる前に悦子さんを救ってあげようと思いまして、このストーリーになった次第です。

七不思議、小学生の頃、ご多分に漏れず大騒ぎしていました。誰しもが一度はやったことある(と思っている)トイレで花子さんを呼ぶ儀式とか。タイミングよく換気扇回るんですよね、風で。『地獄先生ぬ~べ~』の影響もあったな。世代ばれちゃう笑。あの頃は全国各地で毎日のように「遊びましょ」って誘われてただろうから、花子さん退屈しなかっただろうな笑。

というわけで、シナリオセンター通信基礎科課題10「非常口」でした。ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

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