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【シナリオ】ケーキ屋さんのエルフ

シナリオセンター通信基礎科課題11「一年間」

クリスマス。不本意なエルフのコスプレでケーキを売る楓に「サンタさんに返してください」と飴玉を差し出す男の子。やる気のないエルフ・楓と優しい少年・陸のクリスマスのお話です。

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<人物>
佐々木楓(19) 洋菓子店エルフのアルバイト
倉田陸(6) 無園児
倉田望(26) 陸の継母
善(65) ホームレス
佐々木里美(46) 楓の母。洋菓子店エルフの経営者。

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〇倉田家・和室(朝)
1DKのアパート。
布団で眠る倉田陸(6)。
ふすまの向こうに、こたつで寝ている
倉田望(26)の背中が見える。
つけっぱなしのテレビ。

アナウンサーの声「おはようございます。
         12月25日7時になりました」

陸、起き上がり、枕元を見渡す。
部屋の隅に落ちている飴玉。

陸「……」

〇洋菓子店エルフ・前
クリスマスのウィンドウディスプレイ。
臨時のケーキ売り場に、エルフの衣装に
マフラーをぐるぐる巻いた佐々木楓(19)、
ぶすっと突っ立っている。
陸、決心したように楓に近づく。薄着。

陸「お姉さん、エルフですか?」
楓「え? あぁ…」

自分の服を見る楓。飴玉を差し出す陸。

陸「これ、サンタさんに返してください」
楓「え?」
陸「これ僕頼んだものじゃないから」

楓、飴玉を受け取り、じっくり見る。

楓「あぁ、これ、返品お断りのやつだわ」

と、陸の手に戻す。飴玉を見つめる陸。

陸「どうしたら頼んだものもらえますか?」
楓「…手紙でも書けば?」
陸「……」

とぼとぼ帰る陸。寒そうな小さな背中。

楓「……あーもう…ちょっと待って」
陸「?」

自分のマフラーを陸にぐるぐる巻く楓。

楓「サンタさんが間違えたお詫び」

マフラーに埋もれている陸。

楓「君、運いいよ。私エルフの中でも
  とりわけ優しい種族だから」
陸「……」

店から佐々木里美(46)が出てくる。

里美「楓。善さんにケーキ持ってってあげて」
楓「私がこんなかっこで立たされてんのに、
  ホームレスが公園でパーティーとはね…」

ケーキの箱を手に歩き出す楓。
楓の後ろ姿を見つめる陸。

〇双葉小学校・正門(朝)
『入学式』の看板。終わりかけの桜。

〇洋菓子店エルフ(朝)
ガラスケースに並ぶケーキ。
レジに座っている楓、あくび。
ドアベルの音。
通学帽とランドセルの陸が入ってくる。

楓「新学期早々さぼり?」

調理場から出てきた里美、陸見て、

里美「あら? 今日入学式だから
   1年生以外お休みじゃない?」
楓「君、もしかして1年生?」

小さくうなづく陸。

里美「おうちの人は?」
陸「……」

顔を見合わせる楓と里美。

〇双葉小学校・体育館
保護者席に不服そうに座っている楓。
入場してくる子供達。
フォーマルな装いの子供達の中で
一人普段着の陸。

楓「……」

〇道
並んで歩く楓と陸。
手をつないだ親子が前を歩いている。
楓の手を掴む陸。陸を見る楓。

楓「…ねぇ、君んち連れてって」

〇倉田家・前~玄関~DK
小さなアパートの一室。
ドアを開ける陸。
棚の上に写真。
陸、望、陸の父親がこたつで寄り添って笑っている。

楓「……」

こたつで寝ている望が見える。

楓「あれ、お母さん?」
陸「……」

のそっと起き上がる望。

望「あんた誰?」
楓「……」

あくびをしながら玄関に出てくる。

望「誰でもいいや。
  私はその子の死んだ父親の奥さん。
  お母さんじゃありません」

陸を見る楓。俯く陸。

楓「あの…今日、入学式で…」

望、叫ぶように遮る。

望「だから!」

びくっとする陸。望をじっと見る楓。
抑えるように深く息を吸う望。

望「母親じゃないって、言ってるでしょ」
楓「……」

じっと目を合わせる望と楓。

望「はぁ~まだ昼じゃない。帰って」

閉まるドアの間から、俯いている陸が見える。

楓「……」

〇大羽池公園・ベンチ
大きな池のある公園。
終わりかけの桜をぼーっと見ている楓。
隣に座る善(65)。

善「ケーキの食いすぎか?」
楓「あー善さん。意に反して
  私史上最大の社会問題に直面してんの」
善「は?」

× × ×
楓「いくら手紙書いてもサンタ来ないよ」
善「サンタはいい子のところには来るもんだ」
楓「……」

〇洋菓子店エルフ・前
店内で梅雨のディスプレイを夏仕様に
切り替えている楓が見える。

〇倉田家・和室
入ってくる陸。
畳の上で望が寝ている。
手には三人がこたつで寄り添う写真。

陸「……」

望にブランケットをかける陸。

× × ×
起きる望。陸がくっついて寝ている。

望「……」

望、起き上がり、ブランケットを陸にかけ、
畳の上の写真を手に取る。

〇洋菓子店エルフ・前
仮装した子供達に事務的にお菓子を配る楓。
里美が出てくる。

里美「明日ここクリスマスに変えてね」

ハロウィンのディスプレイを見る楓。

楓「もうクリスマスか…」
陸「エルフのお姉さん」

楓、振り返ると陸が立っている。

楓「お、君にもこれ…」
陸「これ、サンタさんに渡してください」

と手紙を渡し、走って行ってしまう。

楓「……まいったな」

空き缶を積んだ自転車をひいて来る善。

善「あの子なのか」

手紙をゆっくり開き、読む楓。

楓「……只今をもってエルフ引退します」

楓、手紙を善に渡す。読む善。

陸の声「サンタさんへ。僕は何もいりません。
    僕の代わりに、望ちゃんにお父さんを
    届けてください。お願いします」
楓「望ってあの人だよね?
  なんであんな人のために…」
善「前はよく三人で公園で遊んでたんだよ。
  今じゃいつも一人だけどな」
楓「善さん、あの子知ってるの?」
善「『望ちゃん望ちゃん』ておっきな声で
  何回も呼んでたな。
  俺には親子みたいに見えたけどなぁ」
楓「……」

〇洋菓子店エルフ・前(朝)
クリスマスのディスプレイ。
ランドセルの陸が通る。
ドアから顔を出す楓。

楓「サンタさんが、今夜に向けて、
  君に最終確認したいことがあるんだって」
陸「?」

〇大羽池公園・ダンボールハウス群(早朝)
ダンボールハウスから出てくる善。
空を見上げる。うっすらと白んだ空。

〇倉田家のアパート・前(早朝)
歩いてくる望。楓を見て足を止める。

望「……」

楓、望に陸の手紙を渡す。

楓「今、読んでください」

手紙に目を通す望。

楓「私にはそのプレゼント用意できません」
望「……」
楓「自分は何もいらないそうです。その代わり…」
望「……」
楓「あなたとお父さんとこたつで
  ぬくぬくしたいそうです。前みたいに」
望「……」

少しの間手紙を見つめ、アパートに入っていく望。
ふうっと息を吐く楓。

楓「……さむっ」

〇倉田家・DK(早朝)
望、棚の上の写真を手に取る。

望「……」

目をこすりながら来る陸。
ハッとしてキョロキョロと部屋を見回す。

望「お父さんは用意できなかったって」
陸「……」
望「あ~寒っ」

こたつに入る望。泣き出しそうな陸。

望「……おいで」

とこたつ布団をめくり、膝を叩く。

陸「……」

ゆっくりと望の膝の上に座る陸。
ぎゅっと陸を抱きしめる望。

陸「……」
望「…ごめんね」
陸「……あったかい…」

〇洋菓子店エルフ・前
エルフ姿の楓。大声で叫ぶ。

楓「エルフのケーキ、いかがですか~」

〇倉田家・DK
こたつでケーキを囲む陸と望。
あふれんばかりの満点の笑顔。

<終わり>

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季節感ゼロ過ぎる投稿笑。

ここから20枚シナリオの始まりです。先生からのコメントは「望をもっと怒らせた方がよい」とのことでした。もっとひどいこと言わせた方がよかったかな。こちらも指定ページ数気にせず修正しております。

エルフって国によって見た目とか役割とかが違うようなのですが、一般的にはサンタのお手伝いをするのが仕事のようだったので、楓にはエルフになってもらうことにしました。陸のプレゼントを用意するお手伝いをする役目だったので。

エルフと言えば、映画『ラスト・クリスマス』。クリスマスショップで働く主人公ケイトは、かわいいエルフの衣装を着ています。

というわけで、シナリオセンター通信基礎科課題11「一年間」でした。ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

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