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◆詩◆美しくひらく傷

今日は妙に饒舌だなと思ったら
喋っているのは口ではなく傷だった
真夜中に照らされる薔薇のようで
私はますますあなたが好きになる
鏡に映るわたしは平凡ないきものだったが
並んだあなたには霊性があって
思わず信仰してしまいそう
傷を介してわたしたちは通信した
五月につくった秘密たちはどれも美しく
六月に交わした言葉たちはどれも淫靡だった
指を絡めるよりも脱いだ服に触れる方が
背徳感を得られると知る
微かに残る体温や香りを
掬いあげては貪り喰った
実体よりも影を愛していた
そもそもほんとうなんて何処にもなかった
傷に指を入れると生あたたかく
そこだけになにか真理があると錯覚した
愚かであることを特権として持っていた
よその家から盗んだ百合が
ゆるやかに朽ちていく夜

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