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◆詩◆ふゆのひ

はじめに。ちいさい海があって、パラソルがあって、きみがいて、ソーダ水があった。
もう冬なのできみはマフラーに埋もれるように巻かれていて。
小屋で火を焚こうと提案すると、はじめての名案だというように目を輝かせるきみ。
サイコロ状にカットした野菜がごろごろと入ったスープをよそう。パンをちぎってひたして食べる。
置きっぱなしのパラソルに冷たい雨があたるおと。
思えば今年も夏は短かったし、冬は永遠のように長く感じる。長く感じるだけでいつかまた春がきて夏になる。
きみはもうおとなになってしまった。私もだいぶおとなになった。
火のまえで靴下を編む。眠ってばかりの犬が起きてきておやつをねだる。
きみは夏でもないのにソーダ水を飲む。目を閉じて何かを考えている。思い出している。

もし冬眠してしまったら。
冬眠するの。
もしもだけど。冬眠してしまったら起こしに来てね。部屋を春の香りでいっぱいにして起こしてね。
わかった。

こういうはじまらなくておわらない約束をたくさん重ねて編み込んだ私ときみの関係。
夜になったらミルクを飲もう。冬眠するみたいに丸くなってねむろう。

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