夜の獣のうた
夜のオルガンが鳴っている
蕎麦をすする青年Sと
薄桃色の薔薇を握り潰す青年H
猥雑な喫茶のバックヤード、深夜
ふたりはよく似ていたが
似かよった部分がとても深かったので
誰も共通項を当てられなかった
青年Sは鬼の話をする
青年Hは大袈裟にわらう
おそらくこんな夜はもう来ないだろうと
予感するS
たぶんまたこうやってわらうだろうと
予言するH
プレイリストが明るい調子の暗い歌を流す
甘ったるい紅茶の香り
外を走る猫の足音
気まぐれにキスしてみる
気まぐれに噛んでみる
ずっと夜だったら殺すことだってできるのにね
ずっと夜だったら溶けあって一人になれるかもね
夜は短くて寒い
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