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夜中詩

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こぼれ落ちるのをすくってゼラチンで固めたやつ
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2021年11月の記事一覧

明けの愚者

明けの愚者

水のない花瓶に
きみを生ける
大振りな滅紫の薔薇に挟まれて
きみは俯いてみせる

愛してるというより
好きだった
たぶん恋だった

きみの少年時代から抽出した
苦い琥珀糖を
齧りつづけて口は汚れた

早く朽ちてくれと
祈りながら冷たい水をそそぐ
きみは溺れ
最期をぼくにくれる
水が溢れ出し
夜を編み込んだ敷布は濡れる

ねえ
きみはぼくのことどう思っていた?
ちゃんと恨んでくれていた?

最初にプ

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いつもの洞穴にて

いつもの洞穴へ行く
キャンドルに火が灯り
静かな音楽が流れている
私は用意された椅子に座る
猫たちは焚き火の横で目を細める
鹿たちが料理を運んできて
私はあたたかい白いスープに
少し泣きそうになる
ゆっくりでいいんですよと
愚者のカードが呟く
行くべき場所がある
座る椅子がある
食べ終わったらゆっくりお眠りと
水晶たちがチカチカとまたたく

ブロンで作る人工の夢、夢はそもそも人工じゃないか?博士の問いにバレエシューズの兎が答える。琥珀糖の歯触りがしたらそれは偽物です。偽物でも甘ければ貴方は満足なのでしょう? 月が大きすぎて今日もとべない。