30年前は故郷の市街地にも田んぼや竹藪があって
私が住んでいたアパートの前にも小さい田んぼがあった

当時は昭和の中頃に作られたアパートの5階に住んでいた
夏は涼を取るために網戸だけにしていたので
ベランダの奥に広がる夜の中からカエルが鳴く声が聞こえていた
その声を聞きながら父はブラウン管のテレビで野球中継を見ていて
私は退屈しながらとうもろこしの塩茹でを歯でこそげとるようにして食べていた

電球のオレンジ色に染まった部屋と
とうもろこしの黄色と
野球中継に映る芝生と枝豆の緑と
窓の外の濃紺と
外から聞こえるカエルの声が鮮やかだった

父と妹と風呂に入って
湯船に浸かって30秒数えた
ちゃんと数えられたら
お風呂上がりにアイスを食べていいといってくれた

風呂から上がってパジャマに着替えると
居間では夕飯で使っていた小さいちゃぶ台は片付けられて
母が布団を敷いてくれていた

布団の上で母がレディーボーデンのバニラアイスを
スプーンですくって私と妹に交互に食べさせてくれた
私と妹は横に並んで交互に口を開けながらがアイスをせがんだ
親鳥が雛に餌をあげるようだなと思っていた

もうおしまいと言われたら
妹と一緒になってあと一口とお願いするのが楽しかった

アパートの部屋は狭かったから
母と妹と私で川の字になり
3人の頭の上で父が寝るのが定位置だった

私はベランダ側で寝ていたから
電気を消して部屋が外の色と同じになると
カーテンの隙間から
遠くに見える国道沿いに光る建物の灯りや
鈍く光る雲が動くのを眺めながら

明日の朝お母さんが作ってくれる
日東紅茶のアイスティーの味を楽しみにして
眠りにつくのだった

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