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[ショートショート「再会」]

昨晩、不思議な夢を見た。
 
霧に包まれた一本道をフワフワと歩いて行く。
石でできた古城のような建物。
仄かな灯りに包まれた部屋に入ると…
「ああ、自分はもう肉体がないんだ」
しかし…悲しみも何も感じない。
それよりも、これからどうなるのか…
それだけが気になる。
不安よりも好奇心の方が強いような…。
 
すると部屋の奥から何かが現れた。
モスグリーンのローブを着た人影。
フードを被っているので顔は
よく見えない。
そう…グレゴリアンのような雰囲気。
 
フードを取ると…それは十代の少年…
丸顔でちょっと浅黒い肌。
意志の強そうな目と口元。
その少年は笑顔でこう言った。
「お久しぶりです」
(ん?誰だろう…覚えがないが)
「ええ…と、どこで会いましたっけ?」
「そうか…わかりませんよね。では
目を閉じてください」
(何だろう。しかし危険な感じはない)
私は目を閉じた。
 
コンクリートの廊下…ああ、自分の
アパートの廊下だ。
自転車置き場…そう、入り口の左横の…
その一番奥に一本の緑色の草、
ああ、あの雑草。え?あの雑草が?」
「はい、わかっていただけましたか?
あの草は私でした」
「え?でも、なぜ…」
 
暑い日々が続いた昨年の夏、私は
外の植木に毎日水をやり続けた。
その時、自転車置き場の奥で
ふと目にした、しおれている雑草が気になり、
そこにも毎日、水をやり続けた。
コンクリートの割れ目に生えた
その草の…必死で生きている姿に
心を打たれたから。
「こんなひどい所に生えて…でも
生きることを諦めていない」
 
「あの雑草が…君?でもなぜ」
私は不思議だった。なぜこのような
少年が雑草として生きていたのか、
それが知りたかった。
 
「わかりますよ。あなたの疑問が。
なぜ、あんな所に生えたのか。
私は志願したんです。ひと夏だけ
全く経験したことのない生き方を
選べる機会を与えられたので、
『コンクリートの隙間の雑草』
という過酷な経験を選んだんです。
そうしたら、あなたが毎日水を
与えてくれて、ひと夏過ごすことが
できました。そして、私は人間の
愛を再確認することができたんです」
その言葉を聞いた時、私の心は
温かい波動に包まれた。
 
そして…目覚めた。
まだ夜明け前の静けさの中で
時計の音だけが響いていた。
Based on a true story

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