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⑤星に願いを、そして手をー忘れる夢

『星に願いを、そして手を』青羽悠 3/5

会話に溢れるユーモア。会話では人との打ち解け方、空気の和ませ方、機転の利いた返しに頭の回転の速さとコミュ力の高さを実感したけれど、彼の書く文章もまさにそんな感じ。


理奈、祐人、直哉の3人の語り手が次々に入れ替わる構成にはぐいぐいと惹き込む力がある。一方で、肝心の館長の過去や謎解き部分の書き込みが物足りない。日常を面白おかしく、飽きさせずに書くのは上手いけれど心情の揺れや懊悩をもっと詳しく読みたかった。


主要人物6人のキャラが立っていて、語り手以外も存在感がある。16歳で、こんなに長い物語を初めから着地まで導けるなんて。


「夢は諦めなければ絶対に叶う」ってスタンスじゃなくて、色んな人がいるっていう現実をそのまま書いてくれているのが良かった。そもそも夢を持つっていうスタート地点に立ってない人や途中で夢を追うことを諦めた人、夢に破れた人、まさに夢が叶っている途中なのにそれが望むものか分からんくなってしまった人。

「夢を諦めた訳じゃないけど、持っていることを忘れてしまった人」が刺さった。確かに、夢に破れるとか諦めるっていうのは能動的な感じがするけれど、夢を忘れるっていうのは受動的で、日常に追われているうちにすっと消えて行ってしまいそうでリアル。『花束みたいな恋をした』の麦もそういう人だったと思い出す。でも、そんな人も、上に書いたような人も、全部肯定してくれる小説。解説で京大の教授が書いてた、夢を見るのは1回限りじゃなくて、何回だっていいっていう言葉が良かった。


紙の本の良い点は、今読んでいる所が物語のどの辺りなのかを意識しながら読めること。序盤なら人物のキャラ付け、中盤に来ると大きな展開や変化、終盤は伏線回収や物語の着地点を頭の片隅に留めながら読み進められる。

と、いうようなことを読んでいてふと思った。




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