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おじさんは異世界でも経理職のようです

政府があり、経済があれば当然税金もある。
例え異世界だろうとそれは変わらない。
そして、出来るだけ払いたくない気持ちもまた同じだ。
「このポーションはまぁ消耗品費として経費扱いでもいいでしょう」
ただし、冒険者はポーションを常備するのが常である以上、貯蔵品として計上するように騎士団から指摘されるだろうが。
その旨を冒険者の黒魔術師に出来るだけ丁重に説明する。そして依頼者は渋々といった様子で頷いてくれた。
「まぁ毎度のことですしそれはなんとかしますよ。ところで本題なのですが……」
そう言って机の上に広げられたスクロールの、今一番見たくない項目を指した。
『奴隷(生贄用)』
前世ではまずお目にかからない品目だ。まさに異世界ならではといったところ。
「今期の冒険者収入は結構良かったので、出来るだけ経費を増やしたいわけです」
顔半分を覆うローブ越しに、呪文を囀るような声で彼は言った。その表情は伺えない。
「コレは……生きているんですよね?その……使うまでは」
「勿論です。独自に開発した呪詛返しをベースにし、対人対魔両方に対応する攻撃呪文のリソースです。術の性質上それまでは健康体でいてもらわないと」
真っ当な倫理観を持っていれば聞くに堪えないだろうが、これはあくまでもスクロール上の品目に関する説明だ。
必要なのは、冷静さと判断力。資産として償却するか、消耗品費として扱うか。
というか、奴隷って中古品扱いなのだろうか?それによって耐用年数とかも変わる。
「事情は分かりました。取り敢えず状態を見て、その術にしか使えなさそうなら消耗品扱い、そうで無さそうなら資産扱いという事でどうでしょうか?」
落としどころとしてはこんなものだろう。
俺ことワタリは異世界でも経理をする羽目になっている。
前世でも糞みたいな仕事だと思っていたが、異世界ともなると輪をかけて糞みたいな仕事だ。
それでも、やるしかないのだ。

【続く】

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