My favorite things〜私のお気に入り〜SHOWA (11)サーカス~ラスベガス~シルク・ドゥ・ソレイユ 自分史Part5

<サーカスとの出会い>

 私のお気に入り。それは、誰しも、幼少の頃に関心を持ったものからの影響が大きいと思う。私の場合、それを探すと、幼少時代を過ごした二子玉川で観たサーカスがある。今から半世紀前の昔、二子玉川には二子玉川園という遊園地(以下写真)があった。その遊園地の一角で、サーカスの巡業公演が行われていた。空中ブランコや曲芸に幼いながら目を見張ってみていた記憶がある。

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(写真・昭和36年の二子玉川遊園地/東急電鉄)

 それが、やがて私のお気に入り、に繋がっていく。まずは、少年探偵団シリーズから読書歴が始まった江戸川乱歩の小説世界。その作品の多くに、サーカスのイメージがつきまとう。小説で言えば、もうひとつ、中学生になって、愛読し始めたSF作家レイ・ブラッドベリにもサーカスの匂いがする。『何かが道をやってくる』『刺青の男』など、サーカスを題材にした作品もある。 さらに、すでに触れた、フェデリコ・フェリーニは、まさにサーカスを終生のテーマにし続けた映画監督だと思う。代表作のひとつである『81/2』では、最後にサーカス広場が登場し、主人公の映画監督が「人生は祭り(サーカス)だ」と語る。そして、そんな小説や映画の世界から、現実のサーカスを、小学生の時以来、再び目にするのは、かなり経って社会人になってからだ。

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<ラスベガス>

 1991年。バブルの絶頂期。私は、ビデオ宣伝、ビデオ業界誌のライター仕事をしていた。その夏、ラスベガスで開かれるVSDA(VIDEO SOFTWARE DEALERS ASSOCIATION)=ビデオ・セールス見本市=での、東映ビデオが主催する、ビデオ・レンタル店のオーナーの方々との視察ツァーがあり、それに同行させていただくことになった。                                渡米は二度目だが、ラスベガスは初めてだった。そして、宿泊先のホテル「ミラージュ」に着いて驚いた。ホテルの前には、実際に夜間になると噴火ショーと称して火を噴きだす火山模型があり、海をイメージした池が広がっている。さらに、館内に入ると更なる驚きの光景を目にすることになる。フロントの後ろには、なんと、水槽があり、熱帯魚が泳ぐミニ水族館となっている!

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 今でこそ、ラスベガスのホテルはそれぞれ趣向を凝らしたテーマパーク的な建物となっているが、このミラージュ・ホテルがその走りだったようだ。現在は、パリのエッフェル塔や自由の女神のレプリカ、ベニスの運河を模しゴンドラがホテル内で運行するホテル、さらにピラミッドそのものがホテル(このホテル「ルクソール」には2度宿泊したが、あまりの大きさで毎回、迷子になりそうになった)と、世界のミニチュア都市(まるで、東武ワールドスクェアを街全体に広げたような)となっている。映画『オーシャンズ11(2001)』で、登場した、ベラッジオ・ホテル前の湖面で展開される大噴水ショーも、今やラスベガスを代表する見世物となっている。

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 (写真上・ルクソール・ホテル/写真下・大噴水ショー/筆者撮影)

そんなラスベガス、といえばギャンブルの都と呼ばれるように、各ホテル付帯のカジノが、ここを名高くした。最も、私もそうであるが、あまりギャンブルに興味を持たない観光客やビジネスマン、家族連れもいる。              因みに私は今まで、都合5回も訪れているが、せいぜい、スロットマシンに手を出すくらいで(それも20ドルくらいまで)、一度、ビデオの買い付けをお手伝いした文芸春秋の映像担当部長のお付き合いで、ルーレットやブラック・ジャックをやったくらいだ。                               では、そんなにギャンブルに興味がない、しかも世界各地から集まる宿泊客に用意されているのが、さまざまなエンターテインメント・ショーだ。その最初はサーカスからだという。サーカスは、老若男女問わず楽しめ、また言葉の壁もなく世界中から来た客にも理解できる。最初にラスベガスを訪れた際に目にしたのも、ホテル(その名も「サーカス・サーカス」)の室内でのサーカス・ショーであった。本場の空中ブランコに目を見張る思いを記憶している。

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 そのサーカスから、独立してマジック・ショー、そして大規模な仕掛けを売り物にしたイリュージョン・ショーが誕生。さらに、サーカスそのものが変化・発展しシルク・ド・ソレイユとなって現在のラスベガスを席巻している。                                                                                                            その話に移る前に、ひとつ自慢話(と同時にラスベガスの裏話)を記しおきたい。1997年の夏にラスベガスで開催されたIT系の見本市に、とある実業家の方から、NTTのシステムエンジニアの方と一緒に視察(私はその報告書をまとめるため)に行って欲しいとの依頼が舞い込んだ。しかし、それは見本市が開催される2か月前ほどで、航空券はなんとか取れたが、サマーシーズンでホテルがどこも満杯で取れない。依頼主に相談すると「いいよ、俺が取っておくから」と言われ、ラスベガスで一番、有名で格式高いホテル「シーザース・パレス」に予約を入れてくれた。そして、ラスベガスに着き、ホテルにチェック・インして驚いた。案内されたのは、それぞれ個室利用でのスウィート・ルーム!                                           あとで判ったのだが、この実業家の方は、某反社会組織と繋がりが深く、そこの代表(組長?)と、ラスベガスによく遊びに行っているという。実は、ラスベガスのカジノ・ホテルでは、このような上得意の宿泊客(半端でない金を、毎宿泊時、ホテルのカジノで使う)に対して、一定数のスウィート・ルームを年中、空けているという。このことを知らずに、システムエンジニアの方と、リッチなホテル滞在・大名旅行をさせていただいた。その実業家の方とは、その後、まったく縁が切れたことは記しておきたい。

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   閑話休題。サーカスから、マジック・ショー、それから生まれたイリュージョン・ショーの話に戻すと、ミラージュホテルに宿泊した、その年(1990年)にホテル内にある劇場で公演の幕を開けたのが、伝説のショー「ジークフリート&ロイ」であった。ホワイト・タイガーという世にも珍しい白いライオン(タイガー)を数匹、舞台に登場させ、さまざまな仕掛け(空中浮遊、消失、空間移動など)で楽しませてくれるイリュージョン(奇術)ショーであった。これを記している(2020年5月)先日、ロイ氏の訃報(5月8日コロナ感染による死去)を知った。日本公演もされた、この偉大なショーをもう二度と観ることが出来ないのは残念だが、これを最初に、ラスベガスで観ることが出来たのを思い出としていきたい。

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(写真上・筆者撮影/下・ラスベガス大全より)

<シルク・ドゥ・ソレイユ>

 ジークフリート&ロイやデビッド・カッパーフィールドといった稀代のイリュージョニスト(奇術師)たちが席捲したラスベガスは、その後、シルク・ドゥ・ソレイユの天下となる。シルク・ドゥ・ソレイユは、その名(太陽のサーカス)の由来のようにサーカスから生まれている。ただ、従来の曲芸、猛獣使い、空中ブランコ、ピエロなどの定番のショーを見せるサーカスと違い、より仕掛けを大きくし、全体をドラマ仕立てにして、しかも専用の劇場まで作ってしまうという、今まで考えられないことをした。              もっとも、ラスベガスでの最初の公演『ミステール』は、さほど注目を浴びていなかった。やはり、なんと言っても1998年、先に紹介した大噴水ショーを売り物にしたベラッジオ・ホテルの中で、ホテル・オープンと共に開始した『O(オー)』(仏語で水の意味)が、世界にその名を轟かせた。なんと、劇場に巨大な水槽プールを作り、その上で、壮大なサーカス劇を見せるという趣向だ。                                この翌年1999年に松任谷由実が『シャングリラ』という30億円を投じたスペクタクル・ショーを開催し、この舞台のヒント(水中バレエと、水上で繰り広げるアクロバット・ショー)が、実はラスベガスの『O』からであるという。実際に『シャングリラ』を観て、そのスケールの大きさに感動を覚え、こうなればその元のショー『O』をぜひ、この目で見たいとの思いが生じた。                                                                                                          しかし、ラスベガスとの縁はその後なくなり、ようやく『O』の舞台を目にするのは2015年になってからだった。ソルトレイクへの出張があり、ラスベガス経由したついでに、3泊して、念願の『O』そして『LOVE(ビートルズの楽曲をモチーフにした)』を観劇することになった。まず『O』に関しては、はやり、その舞台を間近にして感嘆するしかなかった。よく、これだけのものをホテルの中に作ったという驚き、そしてショーの壮大さにも目を奪われた。その前に映画『シルク・ドゥ・ソレイユ(2012)』で、『O』の舞台の一部の映像も観ていたが、本物には、言うまでもなくその場にいないと味わえない臨場感があった。

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(写真上・筆者/下・ラスベガス大全より)

そして『THE BEATLES LOVE』を遂に、遂に観ることが出来た! すでにCD(舞台版音源)を入手し、スマホにも移して繰り返して聞いている『LOVE』を、念願叶って、この目で見ることになった。2015年10月22日の回。実は、この時、Facebookにアップしていなかったが、事故があった。開演直後、突然に音楽が消えて、これは演出かと一瞬思ったが、登場してきた役者たちがとまどうようにして、舞台袖に引き上げていった。そして、少し経ち場内アナウンスが。「機械のトラブルが起きました。故障が治らない場合、公演は中止とさせていただきます」と! 観客が、ガヤガヤと騒ぎ出す。そして「中止の場合は、チケットは、払い戻しか明日以降の公演のチケットに引き替えせていただきます」と。冷汗が走った! 明日は、ソルトレイクへ移動で航空券も手配済だ。ソルトレイクでの所要も動かせない。諦めるしかない…気の早い客は、席を立ち始めようとしていた。私は呆然自失として、席に座っていた。その時! 再びアナウンスが。「機械トラブルが治りました。大変、ご迷惑をおかけしました。ただいまより公演を再開させていただきます」観客からの歓声と拍手が起こった。良かった!と、まるで試験に受かった時のような喜びを感じた。                         そして「GET BACK」が流れて、舞台の中央に、ペッパー軍曹(サージャント・ペッパー)と思しき人物が登場し、パフォーマーたちが天井に向かい、また天井からワイヤーを使い舞い降りてくる。全身に鳥肌が立った。無事に公演を見れた喜びもあったが、大げさにいえば、人生で観た演劇(ショー)公演で、これほどの感動を覚えたことはない。               『LOVE』は、『O』や『KA(カー)』(後述)と比べると、舞台もそれほど大きくなく、四方から客席が囲む、いわば格闘技観戦式で、巨大な仕掛けもない。その分、プロジェクション・マッピングを駆使して、四方八方に映像(当然、ビートルズ4人の映像も)を映し、ビートルズの曲を聞かせながらのドラマが展開する。ビートルズ・ファン冥利に尽きる時間だった。

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(写真上・筆者/下・ラスベガス大全より)

 そして、最近3年前、2017年にラスベガスを訪れた際に『KA(カー)』を観ることが出来た。『O』が水の舞台なら、こちらは火がテーマ。しかも、舞台が客席に向かって垂直になっている! つまり、パフォーマーたちは、ワイヤーで釣られて、90度傾いた危険な舞台で役を演じる。実は、それで、不幸なことに、女性パフォーマーが転落死するという事故があった。その後、ワイヤー、吊り下げる滑車の強度を増して、万全な安全にしたという。それでも、観ていてハラハラし、同行した知人の奥様などは、小さな悲鳴を上げていた。『O』と『KA』そして『LOVE』は、シルク・ドゥ・ソレイユの3大ラスベガス・ショーであると思え、その三つを観れたことは、冥利に尽きる。

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 最後に、ラスベガスのエンターテイメントはショーばかりでない。音楽ライブやスポーツイベントも数多く開催されている。その中で、個人的に一番、嬉しかったのは、偶然にも、ムーディ・ブルース(伝説のプログレッシブ・ロック・バンド)のライブに行けたこと。一度、ムーディ・ブルースは日本公演をしていたが行きそこなって残念な思いをしていたが、まさかラスベガスでライブを聞けるとは思わなかった。代表曲「サテンの夜」も演奏され(ストリングス部分はシンセサイザーであったが)長年の渇望を癒すことができ、大好きなアルバム『童夢』(写真)のジャケット・イラストを入れたTシャツを購入して悦に入った。                      あと、音楽ライブで付記したいのは、各ホテルのカジノ場にある舞台には、無料でパフォーマンスを披露するセミプロの音楽演奏家や歌手がいる。これが驚くほどうまい。さすが、アメリカで、セミプロ(無名)のレベルでも半端ない。無料チャージ(ホテルから幾分かギャラがでているそうだが)も手伝い、どのカジノでも足を止め、聞き入ってしまう。                              ラスベガスは、ギャング(マフィア)が支配し、ギャンブルで欲望にまみれた街との風評が高い。しかし、至宝といえるアーティスト、アスリートたちが集う街として、また、世界に誇るエンタメが結集した街として愛したい。コロナ禍で、ラスベガスが閑散とし、シルク・ドゥ・ソレイユの劇団員たちが解約をされたというニュースを目にして、悲しい気分になった。ラスベガスに限らず、エンタメの火は消してはならないと思う。人は「パン(食べ物)とサーカス(娯楽)」で生きているのだから。

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