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整形外科医による接骨院批判について考える

twitterの一部で長らくくすぶっているこの話題
一部では『接骨院vs整形外科問題』なんて呼ばれていて
僕としては何故対立構造に仕立て上げられているんだろうかという思いなのですが、一度きちんと書き残しておこうと思い今回の記事を書くことを決めました。
基本的には接骨院の立場から批判を全面的に受け入れるスタンスですが、前半は同業者に向けて警笛を。そして後半では少し反論というか、理解してくれたら嬉しいなという思いや、その上で僕の考える接骨院業界が取り組むべきことも書いていきます

まず前提事項として
僕は柔道整復師免許を取得してから6年間整形外科に勤務し、その後接骨院を開業。いまは自分の接骨院で日々の施術業務をしながら、週末に高校生の部活動をトレーナーとしてサポートしています
いまはただの田舎のしがない小さな接骨院の院長で、なんの影響力もない事はわかっていますが、整形外科と接骨院の両方に身を置いた経験から書ける事を書きます
読んだ人が少し納得してくれたら嬉しいです

今回の事の発端は(僕の知る限り)
一人の整形外科医がtwitter上で
『膝が痛いと言って接骨院に通って3ヶ月後、改善しないと整形を受診したら骨肉腫が見つかったという事例があった。もっと早く整形を受診してくれていれば…。どこか痛かったら接骨院にかからず整形を受診してくれ』という趣旨のツイートをされた事だと認識しています

多くの整形外科の先生方がこれに呼応して、接骨院に対する批判があちこちで湧き上がり、接骨院不要論やら保険適応の話やら医療費の問題やら、もう今回の事とあまり関係のない問題まで掘り起こされ
これに対して、一部の方が「接骨院だっておかしいと思えばちゃんと病院に紹介する」とか「整形外科だって湿布貼って終わりじゃないか」みたいな感じで接骨院擁護と整形外科批判のような反論が上がった事で、接骨院と整形外科どっちがいいのかみたいな話になってしまったという流れです

率直に言って、この問題については
本当に僕ら柔道整復師(接骨院の先生の国家資格名称)は反論も対立もできる立場にはなく
只々、今回のようなことを業界として2度と起こさないように改善する努力をしないといけないし、医師の立場から見て柔道整復師の資質の低さが問題視されていることを真摯に受け止めて業界として反省して、資質の向上に取り組まなければいけないと考えています
(保険の適応や医療費の問題、業務範囲の批判については不正は良くないとは思いますが、整形外科での無診察リハビリや湿布の大量処方の話だとか、処方用の病名だとかを持ち出したら水掛け論になりますし、僕らも厚生労働大臣から国家資格を与えられているのだからできることを自信を持ってできると言って何が悪いのかと思います。それはまた別の機会にお話しします)

実際には柔道整復師(接骨院業界全体)の資質低下についての問題は今に始まった事ではなく、もう何年も前から何度も議論に上がっています
街を見渡せば、もはや「接骨院」なのか「治療院」なのか「整体院」なのか、何なら大人のマッサージ屋さんではなかろうかというような怪しい施術所まで現れて、同じ業界の人間として恥ずかしいレベルのところもあります

今までは正直にいうと「他人の事は知ったこっちゃない、僕はちゃんとやってる」というスタンスでいましたし、twitterなんてほとんどの人が見ていないんだから言いたい人には言わせておけくらいの気持ちでした。

けれど、この業界に入ってもうすぐ15年
これからは自分の為だけでなく業界の資質向上の為にも何かしなければいけないのではないかと考えるようになってきています
業界全体の資質が向上しなければ、いくら一部の人が頑張っていたところで、そしていくらその一部の人が声をあげたところで世間には認めてもらえないし、それは結果として自分の仕事を自分自身とそして自分の子供達に誇れないと思ったからです

さて、柔道整復師のみなさん
世間に誇れる仕事をできていますか?
接骨院の看板の元に施術という行為を業として行なっている限り、その行為は接骨院業界全体を背負っているということです
もしも一人が恥ずかしい行為をすれば、それは業界全体で積み上げてきたものを全て一瞬でぶち壊す可能性だってあります
それくらいのつもりでいなければ信頼というのはなかなか積み上がりません
これは過去のノートでも同じようなことを書いています
(改めて僕自身が清廉潔白で全ての柔道整復師の見本になるとはとても言えませんが、それはさておき)

話題を逸らしますが
いまtwitterでは「ミス柔道整復師」というものが開催されていて、そのコンセプトは「業界を盛り上げよう」なのだそうです
一部の人たちは盛りがっています
まぁ批判するつもりはありませんし、可愛い女の子を眺めるのは楽しいので盛り上がってもらって構わないのですが
「業界が盛り上がる」の本質はその中の人たちが楽しく騒いで盛り上がるということではなくて、外から評価してもらうことです
中の人たちが馬鹿騒ぎをするだけの軽いノリのサークルのような活動では、むしろ冷ややかな目で見られて結果的に業界を盛り下げることになると、自覚はして欲しいです
ですが、このミス柔道整復師が注目を浴びれば業界が襟を正そうというきっかけになる可能性はあるのかなとも思っています


話を戻します

さて整形外科医の接骨院批判について、反論したい部分もあります
というか僕らの資格の専門性についてもう少しきちんと知ってもらいたいと思っています
それについて書かせてください

実際のところ
接骨院に受診する患者さんの来院理由の多くに「整形外科に通っているけどよくならないから」という声があります
接骨院を開院して6年、うちを受診した患者さんの例を少しあげると
・『投球動作で肘が痛くて長らくリハビリに通っているけど全然よくならない』
→離断性骨軟骨炎疑いで専門医に紹介→手術。
・『レントゲンで骨は大丈夫と言われたけどなんかおかしい』
→前十字靭帯断裂疑いで専門医紹介→手術。
・『肩が痛くて湿布を出されたけどどんどん酷くなる』
→帯状疱疹疑いで皮膚科紹介→投薬治療(なぜか皮膚科のドクターからなぜもっと早く受診させないのかと僕が怒られる)
・『整形の先生に背中が張ると言ったら肩こりだから接骨院で揉んでもらえと言われた』
→数日後に心臓の疾患が見つかって手術
など

念の為言いますが
ドクターの除外診断があったから、たまたま見つけられただけの話で
決して僕がすごいとか接骨院の方が素晴らしいとか、まして整形外科が悪いなどと言いたいのでは決してありません

ただ僕らも時にはこうやって整形外科から溢れた患者さんの受け皿になっている事を少しだけ知ってもらえると、ちょっとだけこの問題の出口が見えてくるような気がするんです

柔道整復師の専門性や強みの一つは、外傷を画像診断に頼らずに臨床所見から評価ができる点です
(他にも、上手にギプスを巻けますし、整復もできますし、保存療法に強いこだわりを持っています。)

接骨院か整形外科か、どっちが良いとか悪いとかではなくて
『罪を憎んで人を憎まず』
良くない柔道整復師の割合が多くなってきている事はもちろん正さないといけないですが、一部のまずい行いを取り上げて業界全体を非難するだけでなくて

とにかく患者さんが不幸な思いをしなくて良いようにという一点の為に、整形外科医の立場から(そして世間から)接骨院の業界に対して資質を向上しろとずっと尻を叩き続けてもらえないでしょうか
その上で僕らの技術が信頼に値すると思えば、僕らをうまく利用してはくれないでしょうか

そうなれば僕らの専門性は整形外科の先生たちの目の届かない範囲の患者さんにとって、せめてサポートくらいにはなるんじゃないかと思うんです
(栄養指導は管理栄養士に、リハビリは理学療法士に、装具づくりは義肢装具士に、アスリハはアスレチックトレーナーにという具合です


繰り返しになりますが
もちろん問題の根本は接骨院業界の資質の低さです
そこを改善しなければ、何の解決にもなりません

今接骨院業界がしなければいけないのは
とにかく患者さんの利益を考え、その為に頑張って業界全体の資質を向上すること、そして整形外科の先生に迷惑をかけないこと。

ここにきちんと向き合わないと

いつまでもコメディカルとして認めてもらえないどころか
胡散臭い代替療法の一部の域を出ず
接骨院vs整形外科問題は今後も何度もぶり返してくるでしょう

僕もこれからも気を引き締めて日々の施術に当たりたいと思います
整形外科の先生方、これからもどうかご指導ご鞭撻をおねがいします

そして少しだけ、接骨院てそんなに悪い奴らばかりじゃないのかもと知ってくれたら嬉しいです



それではまた。




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