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いじめ関連書籍の読書記録(1)

クマです。ウソです。梧桐です。

このマガジンでは学校のいじめに関連する書籍を取り上げ、その内容と感想を紹介します。自分や家族のいじめで苦しんでいる人に役立つ情報を提供していきたいと思います。

第1回「いじめ防止の3R--すべての子供へのいじめの予防と対処」

書影
いじめ防止の3R--すべての子供へのいじめの予防と対処

今回紹介するのは行動分析を専門とするロリ・アーンスパーカー博士の著書の翻訳です。
3RというのはRecognize、Respond、Reportのことで、いじめに気付こう、対策しよう、報告しよう、という意味合いのようですね。
アメリカの事例をベースにした、いじめを防ぐ方法の説明が多いです。

正直アメリカと日本じゃ結構事情が違うので、ことあるごとに麻薬がどうの人種差別がどうのと出てくるんですが、いやそりゃ日本でもあるだろうけど、もうちょいケースが多そうなのを頼むよ、とは思ってしまいました。
しょうがないんですけどね。

たださすが貧富の犯罪と極端の国アメリカ、エグいいじめの事例もさることながら、対策のほうもぎょっとするようなのがあって、極端な処罰は機能しないですよ、という例で出てくるのがピストル型のシャボン玉で遊んでた5歳児が停学とか、ちょっと著者が全く意図していないところで吹き出してしまうようなケースがあったりします。

いじめの事例とかでもカフェで被害者に向かって「うすのろホモ」と罵ったあげく牛乳取り上げてトレーにぶっかけるとか、なんというかいちいち例え話がダイナミックです。
こんな学校通いたくねえなあ。

いや、基本的にはまじめな本なんですけどね。

で、書籍をさっと読んでみて目立ったのは、いじめをハラスメントと密接に関連させたプログラムを示していることと、障害者差別がいじめに深い関係があるとして説明していることでした。

日本だとどうも「いじめはいじめ、それ以外はそれ以外」と受け止めることが多いように思うんですけど、実際のところ差別感情やハラスメントの文脈がいじめと密接に関係しているのは間違いないのでしょう。

この点を意識して日本の事例も見てみると、ちょっと違う気づきがあるかもしれません。

日本のいじめって、現象に注目しませんか。
クツを隠されたとか火傷させられたとか、Lineで死ねとか言われたとか。
でもいじめの背景として重要な部分って、その被害者がどんな人間かだったりするわけです。

一般論として、人間は自分と特性が異なる人間を「キモい」「ウザい」と言いたくなるわけで、特にアスペルガー症候群などの発達障害者がいじめのターゲットになりやすいことはよく知られています。

身体障害者や知的障害者の場合だと現象が顕著なので「いじめはやめましょう」というのが比較的通じやすいのですが、発達障害の場合は一見して問題が顕著になりにくいので、そこでターゲットになりやすい。

現象を非難していじめを根絶せよ、というのはちょっと一面的で、被害者の特性を理解してそれを保護者だけでなくクラスや学校、社会で重層的に保護していくことが重要であると、この本で強調されているのはそういうことなんだろうなと。
私はそういう感じで読み解きました。

最近は日本の本も発達障害といじめを関連付けている書籍が出てきましたが、アメリカの知見はどうも日本より豊富でいじめ防止のプログラムもかなり多いようで、その紹介もされています。そのうちこのプログラム自体を購入してみようと思います。英語苦手ですが。

それといじめられている子どもへの教育方法として提示されている方法がいくつかあるのですが、これがかなりわかりやすいですね。
日本のいじめ対策本を見ると本人に対しては「逃げてもいい」「心のケアを」の二つしかなくて、学校に対しては「いじめは許されない」で止まってるようなものもあって、なんというか単純なんですね。

被害者が加害者に対してどう対応するかについて、「落ち着け」「自己肯定せよ」「目を見ろ」「本気で相手に言え」という順序はなかなか整理されていると思います。
もっと深い説明も参照先にあるようで、これも読んでみたいですね。

ところで、この本、ソーシャルエモーショナルラーニングなる用語が頻繁に出てくるのですが、これが何がなんだか全くわかりません。
エビデンスべースドないじめ防止プログラムの中核的な要素とか系統だったこのプログラムは学校風土を改善し問題行動を減少させる、とあるのですが、具体的に何をやるのか読み解ず、一瞬意識高い系の自己啓発書でも読んでいる気分になりました。
字がデカくなかったのでなんとか踏みとどまれましたが。

しょうがないのでこの本を離れてググったところ、対人関係能力育成のために作られた、気の利いた道徳教育みたいなものらしいですね。
注釈をいれてほしい……

総括ですが、この本を一般、特に保護者の方に薦められるかとなると、内容は比較的専門的で、教職や研究者以外にはそれほどお勧めできる内容ではないと思います。
興味がある人にのみお勧めする、という感じです。

ただ、アメリカのいじめ防止を知り、日本の教育全般に見られない新しい視点を持つことができるようになるので、その意味では価値があるなとは思いました。

私は現在、対人トラブルとセキュリティというテーマで調査・研究をしています。
これらの本の内容は、今後私のほうで整理して別の形でも紹介したいと思います。
どうぞよろしく。

ではでは、梧桐でした。

今回扱った書籍
Lori Ernsperger(2021).『いじめ防止の3R--すべての子供へのいじめの予防と対処』. 奥田健次監訳. 学苑社.


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