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BUMP OF CHICKEN

「好きなアーティストは?」と聞かれれば、答えは決まっている。
学生時代いつもポケットに入れて持ち歩き、幾度となく口ずさんだ曲が、未だに僕を支えている。

僕がBUMP OF CHICKENに出会ったのは、中学2年の時だ。
当時はサブスクも無ければスマホも無かったから、音楽を持ち歩くにはWALKMANやiPodといった携帯音楽プレイヤーが必要だった。
TSUTAYAで借りたCDをパソコンに取り込んだり、SONYやAppleのダウンロード専用サイトから1曲単位・アルバム単位で購入したりして、音楽を入手していた時代。
流行りの曲をいち早く入手してみんなのWALKMANに入れてくれる人がクラスの人気者だった。

「おすすめの曲入れてあげる!」
親にねだって買ってもらった新品のWALKMAN。
中学生のなけなしの小遣いで入手した、流行の最先端とは言えないラインナップの曲を持ち歩いていた僕に、同じクラスのEさんが声をかけてきた。

翌日、BUMP OF CHICKENの全アルバムが入ったWALKMANを受け取って、失礼ながらこう思った。
「誰これ…?」
音楽に詳しいクラスメイトが口ずさんでいた『天体観測』はかろうじて知っていたものの、全くTVに出演していないバンドのことなど知る由もなく、何十曲も入れられた知らない曲たちを見て、容量もったいないな…とすら思っていた(記憶容量が4GBや8GBだったので、曲数は死活問題だった)。

「マジでありがとう!いい曲多いな!」
毎日のようにおすすめ曲をプレゼンしてくれるEさんと適当に話を合わせながらも、僕は結局、TVでよく聞くヒット曲ばかりを聞いていた。
そして、魅力もわからない曲にWALKMANの容量を圧迫されたまま、僕たちは中学卒業を迎えた。


奇しくも中学を卒業したその日を境に、BUMP OF CHICKENは僕の人生の一部になっていく。

2011年3月11日、卒業式を終えて帰宅した14時46分。
急にTVが「緊急地震速報」の文字を表示した次の瞬間、世界が変わった。
大きな音を立てて倒れる家具、妹を抱きしめ悲鳴を上げる母。
一生にも思えるような、長い長い1分間だった。

かつてない災害が、楽しみだったはずの春休みを一変させた。
TVでは連日ショッキングな映像とともに惨状が伝えられ、CMは消えた。
未知の放射線の脅威に、父からは外出を禁じられた。
携帯会社のメールサーバーがパンクし、友達に送った安否確認のメールの返信は、待てど暮らせど帰ってこない。

そんな孤独と不安を埋めてくれたのは、まだ聞いていなかったたくさんの曲たちだった。
力強く背中を押すでもなく、現状を嘆くでもなく、ただそこにBUMP OF CHICKENの存在がある。
そんな音楽が寄り添ってくれることが救いだった。

無事に高校に入学して日常を取り戻した後も、BUMP OF CHICKENはいつもそばにいてくれた。
うまく言葉にできない片思いに揺れるときも。
高校の先生・友人の期待を背負って難関大学に挑むときも。
地元を離れ孤独に押しつぶされそうになった大学入学直後の夜も。
無名の企業に就職することが急に不安になったときも。
そして、その会社と距離を置いて人生の岐路に立つ今も。


BUMP OF CHICKENの音楽がなければ、僕の人生はどれほど違っただろう。
それだけ大きな出会いをくれたEさんとは、別々の高校に進学し、中学卒業以来会っていない。
友達間の連絡手段が電子メールからLINEに変わった頃に、連絡先もわからなくなってしまった。

今なら、あんなに嬉しそうに笑って曲の魅力を語ってくれたEさんに、適当な言葉ではなく、心からの「ありがとう」を伝えられる気がするけれど。

もしも僕を思い出すことがあるのならば、
どうかあなたと同じ笑顔できっと思い出してね。

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