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5年前と変わらぬ風景をどう変えるか?

コンタクトセンター・コンサルタントの出水です。2023年に起こった生成AIブームは欧米では半導体やエッジコンピューティングなどを巻き込み、あらゆる事業に大きなインパクトを与えています。しかし日本のコンタクトセンターはこの波になかなか乗れていません。昨年の大きな期待とは裏腹に、真の活用については足踏み状態がつづいているというのが偽らざる現実ではないでしょうか?「生産性向上とCXの実現」といったコンタクトセンターの課題も5年以上語りつくされてきましたが改革のスピードが速まったとは言えません。新たなツール(AIを含む)を導入してもなかなか心地よい改革が進まない原因を3つの視点で考えてみました。

変わらぬ風景

システムは変わったが手上げは続く

設備投資が可能な企業は「顧客接点改革」の名のもとにクラウドのCRMを導入しチャットなどマルチチャネル対応や顧客情報を集中して閲覧できる環境を整えてきました。しかし、そうしたツールが充実しているにもかかわらず複数センターの運用一元管理は思うようにできていません。AIによるオペレーターへのナレッジ支援も期待ほど機能しておらず、相変わらずSVの手上げ対応が続いています。こんな「変わらぬ風景」が日本の多くのセンターの実態です。一体トランスフォーメーション(変革)はどこに行ったのでしょう?

真の課題その1.道具(ツール)への過信

平均的に見てコンタクトセンターで使うツールの仕様は私たちがふだん目にするPCのソフトやスマホのアプリとは異なり、直感的に使える類のものではなく一定の研修を必要とします。そうしたシステムの中でも欧米で開発された最新のCRMなどの道具は複数のタスクを簡単に行えるように設計されています。実際のオペレーションは顧客の特定、要望に沿った案件の回答、作業が必要な案件の入力、応対履歴を簡単に残すという一連の流れがクラウド上で完結できます。各ツールベンダーは包括性や拡張性に加えて生産性向上(コスト削減)と顧客体験価値向上を前面にプロモーションを展開しています。機能面ではその通りなのですが、導入を進めるにあたって決定的に欠けているのがクライアント側の業務設計能力です。そもそも業務整理や整流化が行えていない状態でツールを導入しても単なるシステムのリプレイスに過ぎず生産性は向上しないという基本的なことが分かっていないのです。さらに悪いことにクライアント側のシステム担当が業務そのものを理解できていないため、現状のオペレーションをそのまま新たなツールに移植しようとすることです。結果、管理者の手上げ対応など「変わらぬ風景」が残されてしまうのです。ツールへの期待感のみが先行し、導入はできたが生産性は期待どうりに上がらないことになります。これには客観的なツールの評価がなかなか行われないことにも問題があります。ツールの紹介記事は多く目にしますが、それぞれの評価をユーザー視点で分析したものはほとんど見当たりません。

真の課題その2.チャネル設計の誤解 コール改革こそが重要

 ここ5年間、ノンヴォイスへの期待が大きく広がりました。コンタクトセンターの相談で特に耳にするのがChat Botです。導入動機はシンプルです。
・入電数を減らしたい
・セルフツールで解決してもらいたい
・人ではなくロボットが答えられることはChat Botで解決
おっしゃる通りですが、ではそのChat Botはどの程度活躍できているでしょうか?そもそも多くの統計が示す通り一般的な顧客はまずホームページで自らの要件を確認してからコンタクトセンターにアクセスしてきます。検索サイトや企業サイトでもわからない要件を解決するならばロボットはかなり優秀でなくてはなりません。
よく、「簡単な要件はChat Botで」などと言いますが、検索サイトでわからない簡単な要件などあるのでしょうか?あえて言えばもし入電を減らしたいならロボットに頼るのではなくサイトそのものをわかりやすく作り変えることが何倍も重要です。
またChet Botほど性能に差のあるものもありません。FAQを単にシナリオ化したもの、LLMを使いファインチューニングされたものや少ないパラメーターでも学習効果のある特化型のSLMを使ったものまで玉石混交なのです。よく見かけるのはサイト上に「お困りごとはございますか?」と表示されたポップアップにパチパチとテキストを打ち込んでも、すでに見たサイト案内が表示され、さらに詳しい案内を求めても同じ案内にループしてしまうという経験をお持ちの方も多いと思います。事前に性能が分かっていればそもそもテキストを打たないのですがBotの性能は事前にはわかりません。

2007~2027年米国コンタクトチャネル実績と予測

図はアメリカの調査会社のものです。日本語よりテキストでのコミュニケーションが迅速に行えるアメリカでも2027年時点で60%以上のアクセスは電話だという予測が出されています。入電を減らし生産性を上げたいならChatではなく音声のボット(Voice Bot)を真剣に考えるべきです。

「変わらぬ風景」の一つとして最初の要件確認を相変わらず顧客がボタンで選ぶIVRがあります。これに疑問をもたずに使っているセンターは多いのではないでしょうか?要件が複雑化しているためIVRの階層が3~4階層に及ぶものまであり全部付き合うと1分半以上かかるケースもあります。音声認識ツール(STT)を導入しているのにIVRは昔のままです。

この対策は顧客に選択をさせるのではなく要件を直接BoTが聞く「Voice IVR」が有効です。すでに一部のセンターでは導入され効果を上げていますが、規模は問わずどのセンターでも使えるツールと言えます。Vice IVRのAIはBotでも正解が得られるケースはVoice Botにつなぎ、判断が必要な案件は人につなぐというように顧客を最短ルートで解決に導くことが可能です。
1分あたりに伝えることのできる日本語の声(Voice)の情報量はテキストの4倍と言われています。即時性、双方向性に優れたVoiceの活用はコールセンター改革の中核と言えます。

真の課題その3.示せぬROIを要求する経営者


日本企業でコンタクトセンターを理解できている経営者は多くありません。顧客接点が大切と言葉では言いますが、その実態を把握している経営者はほとんどいないと言ってよいでしょう。そんな経営者もコンタクトセンターのシステムの話は無関心ではいられません。なにしろかなり高額な買い物だからです。クラウド、従量課金といっても年間の費用はかなりのものです。ここに基幹や周辺システムのリプレイス費用が重なるとデジタルトランスフォーメーションの声も小さくなってしまいます。担当者が説明を求められるのはこれでどのくらい生産性があがるのか?つまりコスト削減ができるのかというテーマです。この問いに素早く答えられるコンタクトセンター担当者はほぼいません。なぜか?

2~3年の部署移動で着任した社員で複雑なセンターの仕組みを理解できる人はまれです。また長くセンター業務に携わってきた社員はセンターのオペレーションが複雑であればあるほど現状を維持することのほうが「安全安心」と考えがちです。さらに使ったことのない新たなツールがどの程度生産性向上に寄与するかを定量的に示すことは困難です。結局ツールベンダーのセミナーを聞き、導入事例などを参考に「なんとなく良さそう」という感覚で、社内には「このツールがDX切り札です」などと説明、よくわからない経営層は「現場がそこまでいうのだから」などとつぶやき導入となってしまいます。

いまセンター改革での課題は人です。それも階層構造のトップとして周辺情報を集めDX、CXを迷いなく推進できるリーダーの存在です。欧米と日本の企業の違いはこの層が社内にいるかいないかです。加えて業務設計、運営ノウハウ、周辺システムの知見を持った外部の専門チームの支援も必要です。ツールに頼った部分最適に陥らずに全体を見据えた設計が課題解決の最重要ポイントと言えます。次回は全体設計はサカナモデルで!をお届けします。

Vice IVR
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