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グリンピースと虫と父

小学生の頃。
夕飯のチャーハンに入っていたグリンピースの中に白い虫がいた。
正確に言うとなんかの幼虫がいた。
手足もはっきり見えた。

お母さん、むしがいる。

叫んで、皿を押しやった。

母は、顔をしかめただけで、グリンピースだけよけて食べろと言った。しかたなくそうして残りを食べた。
食べた気がしなかった。

それからしばらくは、グリンピースがあると必ず箸の先で潰してから食べるようになった。

嫌いになったから拒否する、なんてことが許される甘い家庭でもなかったので、警戒だけして乗り越えた。

それほど頻度は高くないが、食べ物の中に先客がいるということはそれからも時々はあった。
栗の中にもいた。桃の中にも。
ピーマンの中にも寝そべっていた。
苦味のあるものには虫はつかない、と聞いていたので驚いた。
油断ならないと気を引き締めた。

ある日、父が庭から私を呼んだ。
近寄ると、小さな若い植木のそばに父はしゃがんでいた。
これみてみぃ、と植木の葉を私に見せた。
葉には小さな幼虫がついていた。

やだな、と思ったが口には出さなかった。
父はときたま、私が嫌だと思うことをわざとやって喜ぶ悪趣味な面があった。
なので日頃から父の前では喜怒哀楽を出さないようにしていた。
父はにやにやしながら、これはな、タンパク質なんだぞと言った。

そして、葉から幼虫をつまむと、ぱくりと口に入れた。

わたしはただあやふやに笑ったと思う。
平気なふりをしたと思う。

私が泣いたり、気持ち悪がったりすると喜んでからかうつもりなんだ。屈してはいけない。

それと同時に、このモンスターに食べられた幼虫がかわいそうだと思った。
タンパク質だと言って、必要もないのに私をからかうためだけに食べられた幼虫。

父に腹は立ったが、虫が食べられないこともないという事実を目の当たりにしたからか、それからはそこまで気にすることがなくなった。

もちろん食べたいとは思わないし、いまでも虫を食べた時の父のドヤ顔を思い出すと、控えめに言ってド突きたいし、あんな大人になったらアカン、と自分をいましめている。      






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