見出し画像

父の作るカルボナーラは味がうすい

もしも、この記事を読んでいたら一報ください。

「来月から富山に転勤になったから、母さんをよろしくな」

真夜中、ひとりでカレーを食べながら、つい最近50歳を超えた父が、突然つげてきた。実情は知らないが、その時僕は、父の会社での立場をなんとなく想像してしまった。

父は北国から上京をし、母と出会ったらしい。そして結婚し、子供が産まれ、家での肩身が狭くなっていった。よくある話だ。

そんな日々のなかで、父は必死に家族とつながろうとしていた。スマートフォンを家族全員が所持した時には、家族LINEを作成し(母は招待を断ったので僕と弟の三人のみ)、家族(父と僕と弟)で外食をした際には毎回帰りにカラオケに行こうと提案していた。一度も行かなかったが。

父は家族LINEで毎日だれかの名言を発信し、転勤してからは富山の風景を僕らに送ってくる。そのほとんどに僕らが反応しなくても毎日欠かさず送ってくる。毎日、どんな気分で日々を過ごしているのだろう。

一度だけ、僕が中学生のころに、父と母でデートに出かけて行ったことがあった。新宿に映画を見に行ったらしい。帰ってきた母が、「つまらない映画だった」とぼやいていた時の父の表情が忘れられない。

そんな父について考えると、いつもさみしくなる。


母がいない日は父がいつも料理を振舞ってくれた。曰く、得意料理はカルボナーラらしい。特製カルボナーラはいつも麺がぼそぼそで味が薄く、僕は実のところ苦手だった。父に率直な感想を伝えると、「料理、むずかしいな」と笑っていた。

数十年ぶりに一人暮らしをしている父は、いまもあのカルボナーラを作っているのだろうか。僕は満腹になりながら、父について考えている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?