ファナックのロボット事業の成功要因

本記事では、ファナックのロボット事業がなぜ成功したかを考えます。

結論から言うと、ファナックか成功したのは、ゴールドラッシュにつるはし⛏を与えるかの如く、「伸びる市場、かつ、日本メーカーの強い産業である自動車産業を裏方で支えた事業」として産業用ロボットを始めたから成功した。



なぜファナックを調べるか

以前、こちらの記事で、ファナックがなぜアメリカの工作機械メーカーがいる中で、ここまで成長することができたかということを述べた。

柴田先生の本に記載の通り、ファナックと言えば、CNCで大成功を収めているメーカーである。しかしながら、近年ではCNCよりもロボットの方が売上高が大きい。つまり、ファナックはCNCという製品からロボットという製品へと手を広げ、更にはロボットに現在の軸足を移すことに成功し、そして今なお、売上高経常利益率30%を誇る一流メーカーである。ファナックをより深く理解することで、自社の事業発展のヒントを得たい。


基本情報(売上高、事業内容、市場シェア)

まず、売上高と経常利益率を確認する。売上高は直近15年間で倍近くとなっている。経常利益率は減少傾向にあるが、日本企業の多くが10%を超えない中で驚異的な数字となっている。

ファナックの売上高および経常利益

次に、ファナックはFA(ファクトリーオートメーション)を専門とする専業メーカーで、以下、4つの部門から構成されている。

ファナックの部門と製品サービス

部門ごとの売上高構成比は以下の通りとなっており、ロボット部門が4割の3500億円程度を稼いでいる。

部門別構成比

産業用ロボットの世界シェアは、ABB、ファナック、安川電機の順で、それぞれ16%,15%,10%となっており世界シェアの4割を占めている(以下のサイトを参照)。

産業用ロボットの新規納入に関しては、アジアが7割を占めており、2015-2020年のCAGRは9%とのことである。これは中国の発展に伴う、市場成長と考えられる。今後、インドやアフリカ市場も発展すると予想されるので、市場衰退の心配は直近20年では考えにくいだろう。https://ifr.org/downloads/press2018/2021_10_28_WR_PK_Presentation_long_version.pdf


NC装置からロボットへ

ファナックのHPに記載の社史によると、1956年に日本で民間初のNCの開発に成功したと記載がある(1972年に富士通からNC部門だけが分離したので、当時は富士通の一部門)。一方、ロボットは1974年に開発と記載がある。


したがって、ファナック創業当初はNC装置が中核製品であったが、富士通から分離してすぐにロボットを開発したこととなっている。NC装置だけでなく産業用ロボットの事業を牽引したのは、以下の論文から稲葉清右衛門(後の富士通ファナック代表取締役)と推測する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/13/11/13_11_836/_pdf


本論文によると「1970年代に入って,工業製品の生産,需要の急増に伴って,労働力不足に加えて人件費も大幅に上昇し,あらゆる産業分野において省力化・自動化の要請が高まってきている.」とあり、日本の経済成長の裏の労働力不足を睨んでいたことがわかる。

また、「NC工作機械群を対象にハンドリング作業を行わせる目的で産業用ロボットを導入した自動化システムが開発されており…」ともあるため、NCと相性の良い事業として産業用ロボットに着手している

では、ここで当時の産業用ロボットがどのようなものだったかを知る。産業用ロボットは、1962年に「ユニメート」がアメリカのユニメーション社から発売され、日本では1969年に川崎重工から「川崎ユニメート2000型」が誕生している。用途は自動車工場向けであった。

自動車産業が当時どの程度成長していたかを調べたところ、1960年~1980年にかけて大幅に増加している。つまり、自動車において大幅に人手が必要になるタイミングに合わせて、ロボット産業は発展しているということである。ファナックは、川崎重工に対し5年遅かったものの、この世の中の潮流に間に合って産業用ロボットを生産できたことが、現在のファナックの産業用ロボットの地位につながっているといえる。

アメリカの企業よりもファナックが産業用ロボットで成功できた理由は、ご存知の通り、この時、自動車産業において日本がアメリカを追い抜くタイミングであり、日本の自動車産業が大きく伸びるタイミングに合致していた。そのおかげで、産業用ロボットの需要が日本において大きかったのではないかと推測する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gscs/2/1/2_50/_pdf/-char/ja

日本の自動車の生産台数推移(「日本自動車産業の革新と成長」立石著にもとづいて筆者作成)


結論

  • ロボット事業を開始したのは、日本初の産業用ロボット発売から5年後のタイミングであり、市場がまだ占有されていなかった。

  • 産業用ロボットを制御するNC装置においてファナックはすでに強みを築いていた。

  • 稲葉清右衛門(後の富士通ファナック代表取締役)は、高度経済成長の裏に潜む「人手不足」を見抜いていた。具体的には、自動車産業が伸びるタイミングであり、大きな需要があった。

  • アメリカでもすでに産業用ロボットは作られていたが、その用途である自動車産業において日本は成功し、産業用ロボットはその波に乗れた。


以上のように、何重もの成功要因が重なった結果、今の盤石な経営体制につながっていると考えられます。


ではまた~。


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