オレの楽園はまだまだ遠い #01

いちいち言及するのもうんざりしちゃうような災厄に、世界中が見舞われている。気軽に友達と会うことも、好きな店で馴染みの顔ぶれとお酒を飲むことも、ライブに行って見知らぬ人たちと体を揺らすことも気軽にできなくなった世界線で、僕たちはビデオ通話で友達と飲み会を開いたり、配信ライブを視聴したりしてなんとか溜飲を下げている。日本という国では今のところ暴動のようなものは起こっていないようだが、怒りの声を上げることと沈黙を貫くこと、どちらが正しいともつかない魔女狩りは横行していて、それはそれで恐ろしくもある。どちらの立場の人も怖れているものは同じはずで、どちらもそれぞれの正義に従っているのが難しいところだ。

じゃあ、もう、世界はすっかり地獄になっちゃったのかというと、そんなこともないはずなのだ。もちろんこの状況は良いか悪いかで言えば紛れもなく悪いものなのだけれど、世界を覆う状況に対する人々の態度は今までの受身がちなものから少し変わりつつあるように思う。疑問に思うことをほったらかしにしたり「仕方がない」という言葉で片付けることを避ける空気が醸成されている手触りがある気がしている。

ヤブタが僕にpodcastの番組をやろう、という話を持ち出してきたのは、そんな空気と必ずしも無関係ではないんじゃないかと思う。別にこの放送を通して何かムーブメントを起こしたいとか、社会情勢に一石投じてやろうという大義があるわけではないだろう。でも、得てして寂しがり屋な男なので、例えば自分の半径3m程度で生活が完結してしまうような、小さなワンルームから何ができるでもない日常に閉塞感を感じたりはしなかっただろうかと想像する。この誰もが疲弊しきったご時世の中、誰にも届かぬ声量で不平不満を垂れ流すよりは、見知らぬ誰かに届き得る電波に乗せてくだらない話を放流している方が精神衛生上良さそうだなと思った僕は、彼のよくわからない提案に乗っかってみることにした。

それほど多くの人に見届けられることもなく五条楽園の桜もすっかり散り果ててしまったけれど、皆が嗅ぎ損ねた春の浮ついた空気を、鬱屈とした気分を晴らすくだらないユーモアを、それぞれの鼓膜を通して感じてもらえたのならば、夜な夜な男二人で酒とコーラをしばきつつうだつの上がらない話に花を咲かせる甲斐も十二分にあるんじゃないかなと思っている。

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