「教師不足」と教職課程 (1)「教師不足」の状況と対応策

 「教師不足」が叫ばれて久しい我が国であるが、実際のところどれほど教員が不足しているのか。また、既存の教職課程が「教師不足」を引き起こしている原因の一つではないかと考えている。これらについて数回に渡って議論を深めていきたい。なお、本稿は学級運営という点に焦点を絞って議論を深めるため、初等教育(小学校)を対象とし、中等教育(中学校・高等学校)は含めないものとする。


現在の「教師不足」の状況

 臨時適任用教員等の確保ができず学校へ配置する教師の数に欠員が生じる「教師不足」に関して、年度当初における全国的な実態を把握するため、67都道府県・政令指定都市教育委員会及び大阪府豊能地区教職員人事協議会(計68)を対象とした実態調査が行われた。

概要

 令和3年度始業日時点の小・中学校の「教師不足」人数(不足率)は合計2,086人(0.35%)、5月1日時点では1,701人(0.28%)であった。義務標準法に基づき算定される小・中学校の教職員定数に対する充足率は、全国平均で101.8%であった。なお、大阪府は99.9%であり、不足人数が60人、不足学校数が53人、不足率が0.44%とされている。小学校の学級担任の代替状況として、本来担任ではない職務の教師が学級担任を代替しているケースは474件、このような場合に学級担任を代替している主なものは、①指導体制の充実のために配置を予定していた教員(少人数指導のために配置された教員など)143件と②主幹教諭・指導教諭・教務主任が205件、さらには生徒指導の充実のため配置された教師のケースが37件、管理職が代替するケースが53件存在した。
 また、小学校に配置されている教員の雇用形態別内訳(5月1日時点)は、正規教員が331,697人(87.38%)、臨時適任用教員が41,991人(11.06%)。非常勤講師が5,911人(1.56%)であった。小学校の学級担任は、正規教員が237,099人(88.40%)、臨時適任用教員が30,826人(11.49%)、その他が276人(0.10%)であった。

「教師不足」の要因

 見込み以上の必要教師数の増加の観点からは、特に産休・育休取得者数、特別支援学級数の増加、病休者数の増加により必要となる臨時的任用教員が見込みより増加したことが要因として認識されている。この傾向は令和元年度に文部科学省において一部の自治体に対して行ったヒアリング調査と同様であった。
 臨時的任用教員のなり手不足の観点からは、講師名簿登録者数の減少が最も多く、また、もともと臨時的任用教員として勤務していた者の正規採用が進んだこと、臨時的任用教員のなり手がすでに他の学校や民間企業等に就職済であることによる、講師名簿登録者の減少が顕著であった。また、講師名簿登録者や退職教員が教員免許状を更新しておらず失効した、もしくは更新手続きの負担により更新がなされていないことにより採用ができなかったり本人が辞退するケースも半分以上の自治体で要因として認識されている。

教師の確保に向けた取組

各教育委員会における取組

①福数年を見越した計画的な採用
 各自治体によって、具体的な目標を設定し採用者数を平準化させつつ、講師数の調整を図りながら、計画的に新規採用者数及び講師数を管理している。多くの自治体において5年から10年先までの採用計画の策定を行っている。
 例えば、神戸市では、35人学級による教員定数の増加や、特別支援学級数の増減等の予測を反映させた5ヵ年の採用計画を作成している。

②講師登録者数の増加に向けた具体的取組
 自治体独自にポスターやチラシ、リーフレット、HP、メディア、民間求人サイト等を活用した広報活動を行っている。また、自治体独自の人材バンクの設置や、教員採用試験において1次選考から講師登録名簿の案内を行ったり、講師経験を有する者への特別選考を行っている自治体もある。
 例えば、仙台市や神戸市などでは、教員採用先行試験において育児休業代替任期付き教員の採用選考を実施している。

③年齢構成に鑑みた採用・配置・人事面の取組
 年齢制限の拡大・撤廃を図り、特にミドルリーダーとなり得る30代〜40代の採用に向けた積極的な広報を行っている。また、再任用希望調査等を早い段階から行い、採用見込み数を数年先まで算出している自治体もある。
 例えば、山梨県では、55歳以上の教職員に再任用希望のアンケートを実施し、実態把握をするとともに、学校訪問などを通じて積極的な働きかけをしている。

④大学等との連携
 各自治体及び隣接した自治体に設置された大学と連携し、インターンシップ事業やいわゆる教師養成塾の取組を展開したり、教師の魅力を伝えるための講座等を行っている。大学推薦枠を設け、教育委員会と大学における連携の強化を図る自治体もある。
 例えば、島根県や鳥取県では、島根大学および島根。鳥取県教育委員会で連携を図り、教育・研修システムの構築を図っている。また、福岡市では、令和4年度より協定締結大学の現役学生について、教育実習評価と大学からの推薦に基づく特別選考を導入予定である。

⑤文部科学省による「学校・子供応援サポーター人材バンク」等の活用
 34の自治体(68都道府県市中)が、「学校・子供応援サポーター人材バンク」の活用により臨時的任用教員等の確保に繋げている。

⑥域内において「教師不足」の偏在が生じている状況と要因、対応策
 5割以上(68県市中39が「有」と回答)の自治体が教師不足の偏在が生じていると回答しており、地域の実態に応じて、地域採用枠の設定や人事異動の広域化等の対応策を講じている。
 例えば、長野県では、令和2年度から「ブロックの採用数を設定した採用」を行なっている。また、鹿児島県では、次年度任用希望者を募る際、離島や離島以外の小規模校でも勤める意思がある方を把握し、臨時的任用教員確保の難しい地区や学校に配置するように努めている。

文部科学省における取組

 本調査により、各都道府県・指定都市教育委員会別の「教師不足」の状況を公表するとともに、教育委員会における教師の確保に向けた取組事例を幅広く共有する。その上で文部科学省として、
• 公立学校教員採用選考試験における取組の収集・発信
• 文部科学省による「学校・子供応援サポーター人材バンク」等を通じた講師のなり手確保に向けた取組
• 学校における働き方改革の推進など勤務環境の改善を含めた教職の魅力向上
といった取組を引き続き推進していく。
 併せて、教員免許状を保有しているものの、長らく教壇に立っていない者が教職を志す際に、教壇に立つ上で必要な知識技能の刷新を図り、スムーズな入職を支援できるよう、オンラインで利用のできる学習コンテンツの開発を行う(令和4年度予算案措置)。
 これらの取組に加え現在、中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」において、教師の養成・採用・研修に関する検討を行っているところ、議論を踏まえ引き続き質の高い教職員集団の実現に向けた必要な政策を行っていく。

「教師不足」に関する実態調査, 文部科学省, 2022

とのことである。中教審「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」については、既に答申も出ており今後多くの識者がその内容について精査することになるだろう。
 その答申の内容とは、①「新たな教師の学びの姿」の実現、②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成、③教職志望者の多様化等を踏まえた育成・安定的確保の3つの方向性を踏まえた5つの改革である。

  1. 「令和の日本型学校教育」を担う教師に求められる資質能力

[教師に求められる資質能力の再整理]
• 「大臣指針」において、教師に共通的に求められる資質能力の柱を、①教職に必要な素養研修、②学習指導、③生徒指導、④特別な配慮や支援を必要とする子供への対応、⑤ICTや情報 ・教育データの利活用の5項目に再整理
任命権者において、指針を参酌しながら、教員育成指標の変更など必要な見直しを実施
• 教職課程では、既に④に対応した科目は令和元年度、⑤に対応した科目は令和4年度から養成必須単位化。今後、自己点検評価の中で、上記の資質能力を身に付けられるか確認。

[理論と実践の往還を重視した教職課程への転換]
• 「教育実習」等の在り方の見直し(履修形式の柔軟化等
• 「学校体験活動」の積極的な活用(学習指導員、放課後児童クラブやNPO等での課題を抱える子供たちへの支援等も含む)
• 「教員養成フラッグシップ大学」における先導的・革新的な教職科目の研究・開発
• 特別支援教育の充実に資する「介護等の体験」の活用等(特別支援学校・学級、通級指導など)

2. 多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成

[教職課程における多様な専門性を有する教師の養成]
強みや専門性(データ活用、STEAM教育、障害児発達支援、日本語指導、心理、福祉、社会教育、語学力、グローバル感覚など)を身に付ける活動との両立のため、四年制大学に おいて最短2年間で必要資格が得られる教職課程の特例的な開設・履修モデルの設定小学校の専科指導優先実施教科(外国語、理科、算数、体育)に相当する中学校教員養成課程を開設する学科等において、小学校教員養成課程の設置を可能とする
• 中学校二種免許状等における「教科に関する専門的事項」の必要科目の見直し

[優れた人材を確保できる教員採用等の在り方の検討]
教員採用選考試験の早期化・複線化を含めた多様な入職スケジュールに関し国・任命権者の連携により検討(7月に1次試験、8月に2次試験、9〜10月に合格発表・採用内定が一般的)
特定の強みや専門性を有する者に対する特別採用選考試験等の実施

[多様な専門性や背景を持つ人材を教師として取り入れるための方策]
• 特別免許状に関する運用の見直し(授与基準や手続の周知、特別免許状保有者が、他免許校種の特別免許状の授与を受ける際の基準等の明確化)
• 任命権者における特別免許状を活用した特別採用選考試験の実施促進(特別免許状等を活用した入職支援)
特別免許状による採用者を対象とした研修の実施・支援
教員資格認定試験の拡大等(高校「情報」の実施、中学校等免許取得者の小学校試験の一部免除の検討)

[校長等の管理職の育成および求められる資質能力の明確化・計画的な育成]
• 「大臣指針」の改正により、校長の資質能力(マネジメント能力、アセスメント、ファシリテーション)を示すとともに、各任命権者が、教師とは別に、校長に関する独自の育成指標を策定することを明記。新任校長等を対象とした研修の充実など、校長自身の学びを支援

3. 教員免許の在り方

[教員免許更新制の発展的解消および教員研修の高度化]
• 審議まとめ(令和3年11月)において、教員免許更新制の発展的解消を提言。令和4年5月に教育職員免許法が改正され、7月1日より実施。
研修履歴を活用した資質向上に関する指導助言等の仕組みにより、教師の「個別最適な学び」、「協働的な学び」を充実させ、「新たな教師の学びの姿」を実現
• 教師の資質向上に関する「大臣指針」を改正「対話と奨励のガイドライン」を策定

[義務教育9年間を見通した教員免許のあり方を踏まえた方策
小学校教諭と中学校教諭の両免併有の促進
• 教職課程における義務教育特例の新設【制度改正済】
• 専科指導優先実施教科の小学校教員養成課程の設置の拡大等(再掲)
• 教員資格認定試験における中学校等免許保有者の小学校試験の一部免除等(再掲)
• 他校種の免許状を取得する際に必要な最低勤務年数の算入対象の拡大【制度改正済】

4. 教員養成大学・学部、教職大学院の在り方

[教員養成大学・学部、教職大学院の高度化・機能強化]
学部と教職大学院との連携・接続の強化・実質化(教職大学院進学希望者対象コースの設定、先取り履修を踏まえた教職大学院の在学年限短縮等)
教育委員会と大学の連携強化(教員育成協議会における協議の活性化、教委等との人事交流の推進、教委と連携・協働した研修プログラム等の展開等)
• 教師養成に係る理論と実践の往還を重視した人材育成の好循環の実現(教職大学院の学びを生かしたキャリアパスの確立、教員養成学部における実務家教員登用に係る具体的な 基準設定・FDの充実等)
教員就職率の向上、組織体制の見直し(養成段階における教員就職率向上のための取組、教委と連携した地域課題解決に対応したカリキュラムの構築等、定員の見直し・大学間連携・統合に係る検討等)

5. 教師を支える環境整備

[学びの振り返りを支援する仕組みの構築]
• 「研修履歴記録システム」および「プラットフォーム(教委・大学・民間等が提供する研修コンテひろふみがンツを一元的に収集・整理・提供するシステム)」の一体的構築
• 教育委員会・学校管理職は、研修履歴の記録・管理を自己目的化しない意識が必要
喫緊の教育課題に対応したオンライン研修コンテンツの充実

[多様な働き方等教師を支える環境整備]
失効・休眠免許保持者の円滑な入職の促進(再授与手続き簡素化、ペーパーティーチャー等への研修)
働き方改革の一層の推進(教職員定数の改善、支援スタッフの充実、学校DXの推進、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的な推進等)、勤務実態調査の結果を踏まえた教師の処遇の在り方の検討

以上、5つの改革を書き出したものの、「理論と実践の往還」をはじめとした専門用語が飛び交っているため、次回はこれらの用語解説とこれらでは「教師不足」を根本的に解決しない理由等について説明する。

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