「人に言われた事」

 今回の練習は、代表が所用で練習に来ておらず、代わりに僕が練習を担当しました。
 先週も同様、練習メニューは代表が作成し、僕はその指導を担当しました。
 この2週間にわたって、「人が作成したメニューの指導」を行ってきましたが、その中で、普段の生活にも繋がる事をふと思ったので記録として残しておこうと思います。

 練習メニューは、テーマを設定し、そのテーマの獲得に必要なキーファクターをW-UP、TR①、TR②に落とし込んでいきます。練習最後のゲームで起こしたい現象から逆算し、練習メニューの設定を行なっていく事が望ましいとされています。
 つまり、練習メニュー作成者の意図を指導中のコーチング(シンクロコーチング・フリーズコーチング)を駆使して行う事が極めて重要です。その際の伝える方法、語句、テンション、考えなければならない事は多々ありますが、今回は「語句」に着目したいと思います。
 
 本日の練習が終わり、選手の顔や全体の雰囲気など様々な事を勘案して感じた事は、「メニュー作成者の意図を十分に汲み取る事なく指導実践にあたってしまったな」という事です。そして、論理で構成された他人のアイディアを遂行する、換言すれば、「人に言われた事をする」というのはとても難しい事なのだと、改めて感じました。

 練習メニューには、作成者の問題意識、その問題の改善方法のアイディア、作成者のフットボール観、様々な物が要素として盛り込まれていると僕は思います。少なくとも、僕はまだまだ若輩者ですが、そうした事を意識してメニューを作るよう心がけています。

 自分で作成するメニューは自分の思いが如実に現れているので、何に気をつけなければならないか、どのような声掛けで練習全体をマネジメントするか、自分の裁量で決める事ができます。
 しかしながら、他人の作成したメニューの指導実践は、まずは意図の汲み取りから始めなければなりません。ここがずれてしまうと練習の全体がずれることになってしまうのだと思います。

 今回の僕は、練習の意図を汲み取る事は出来ていたと総括しています。しかしながら、キーファクターの伝え方、デモンストレーションの実施方法、シンクロコーチングなど、主に「語句」に課題があったと強く感じます。特に、シンクロコーチングはその瞬間に起きた現象について、あるいは起きる前に予測をしてコーチングをしなければなりませんから、長い単語を多用するとその現象は過ぎ去ってしまいます。だからこそ、ユーロやコパアメリカを中心にサッカーの解説をされている林陵平さんは出来るだけ短い言葉で現象を単語科しているのだと思います。

 そしてこれは、全ての組織において言える事だと思います。「なぜ言った事もできないのか!」と激昂する人を見かけますが、その方は本当に「言っていた」のでしょうか。その方の意図が先方に伝わらなければ「言った」ことにはならないのではないでしょうか。
 「伝える」ことと「教える」ことは違うとつくづく思いますが、「人に教える」つもりで自分も勉強すると学びが深くなるのは「相手に理解をしてもらう」ことを前提に置いているからだと思います。

 最近では、元SC相模原監督の戸田和幸さんのYouTubeの過去の解説動画をひたすら見て、フットボールの原則や性質などを自分なりに咀嚼して言語化出来るよう務めています。これまで、自分はゲームをただ眺めていただけではないか、という強い後悔とともに、ここまで緻密に構造を理解し分析すれば、これほどまでにフットボールを楽しむ事ができるのかと新たな発見にもなりました。
 また、日帰りで東京に帰省した際に地元チームの練習を視察しに行ったのですが、現役時代はあまり交流のなかった総監督より直接「フットボールとは何か」「選手育成とは何か」「日本のフットボールについて」1時間にわたる「講義」をしていただき、深い学びを得る事が出来ました。
 指導やフットボールそのものについて、もっと知識を深めて自分の論理を持たなくてはならない、その為には、今のような生半可な量の勉強ではなく、本気でフットボールに向き合い、出来る限りの時間をフットボールに捧げたいと思いを新たにしました。

総監督が仰っていたいくつもの言葉の中で今の自分に最も響いた言葉です。
「サッカーは上手い奴と一緒にやって上手くなれ。」
 指導者や日々の生活も一緒だなと思います。僕自身はそんなに優れた選手ではありませんでした。フットボールの構造や細かい事象について、理解出来るようになったのは選手を辞めてから、そして指導者を初めてからの事です。
 まだまだ浅すぎる僕のフットボール理解を更に深める為にも、今置かれている素晴らしい環境に感謝をし、近いうちに一流の指導者となれるよう、今日からもう一度勉強し直します。

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