「座席運」についての一考察
1.「当たり」と「ハズれ」の境界線
我々は、日常の彩りとして映画、音楽ライブ、演劇、イベントなど様々なエンターテイメントに接することがある。そしてそれらに触れるにつれて「あれは面白かった(↔️面白くなかった)」と言う重要な「当たり」と「ハズレ」の境界線についてのジャッジを下したりするものだ。大雑把に言ってそれが良かったり、面白かったりすればもうチケット代など軽く取り返したところがもはや得したような気分になるし、逆の結果だったりすると本当に金返せレベルにまで怒りが込み上げることもある。いや〜、でも、ほんとにひどい音楽ライブなんてほんとに酷いからなぁ。今回の記事は本題ではないので私の経験上での一例にとどめとくが、今でも覚えてるのは去年の5月13日に心斎橋の某小さなライブハウスで開催された女性SSWが4人ぐらいが集まってのいわゆる「対バン形式の企画ライブ」での出来事である。その中の1人の若手のシンガーがどうやら「MCでオヤジギャグを絶対に放つ」と言うことにこだわりを持っている不思議なSSWだったのだ。そもそも「親父ギャグ」自体が世間的に唾棄されるべき存在で聞けたものではないものも多いのだが、その中でも本当に酷い部類のものを会場の空気を読まずにガンガン解き放つタイプのSSWだった。
もちろん具体的なギャグの例は忘れたが「布団が吹っ飛んだ」とかそのぐらいの最下層レベルのゴミみたいな部類だったと記憶している。
そしてさらにタチが悪いことにそれを彼女に関して前から知ってるであろうファンというか取り巻き連中がこともあろうにそれにゲラゲラ笑って囃し立てると言う地獄絵図もそこで当然のようにあったていうのもあって、だからこそ、あろうことかこのSSWは「この芸風はウケている」と勘違いした結果に副産物としてこういうスタイルに陥ってしまったのだろうとも予測できる。いや、何が凄いって曲の途中でも演奏止めて親父ギャグをカマしてたもんな。
当然ライブ最後の締めくくりの挨拶でも親父ギャグで締めてたし。
私としてはもうウンザリだったし、ここまで演者がイタいライブもなかったしもはやこの人のパフォーマンスしているその20分間は正に(大事な事だから二回書くが)客席のノリも含め全てが地獄絵図だった。
そもそもが彼女が演奏する歌も良くも悪くも頭すっからかんで聴けるような応援歌がセトリの中心で、客に左右手を振ってみたいな振り付けを強要するようなライブでパフォーマンス自体も私はそんなに好きではなかったんだけど、でも百歩譲って全体的に可もなく不可もなくって感じでこういう内輪ノリがなければそんなに印象は悪い感じではなかったんだけどね。
以上の特徴をまとめると
❶ 小柄なボーイッシュな明るい女の子
❷ 変な振り付けの入る深みのない応援歌
❸ 親父ギャグ連発
❹ 姓名合わせてひらがな名
何気に❹において新情報ぶっこんでるんだが「ひらがな名のSSW」てのは日本では鬼のようにいるからまさか特定はできるまい。
あ、全部ひらがなつっても「ぽてさらちゃん。」ではありません(笑)
にしてもこうして正に❶〜❹をざっと眺めると本当にSSWおじさん御用達のプロトタイプて感じがする。多分私は2度とこの人のライブを目にすることもないし言及することすらないだろう。せいぜいこの人界隈のコミュニティで物販で手土産でチェキだの交換ごっこでも目に触れない程度でやってくれ。
で、次からが本題です。
2.座席運
さて、ここからが本題である。今日は演劇について語りたい。私は意外と演劇に関しては趣向性が違ったなっていうのが幾つかある程度で、極端な「ハズレの演目」は一例ぐらいしかない。のだけど、この演劇の世界では「座席」にまつわる当たりハズレが非常に多いと思う。いわゆる観やすい(↔️観ずらい)席ってやつ。これはもう面白いだ、面白くないとか言う感想以前の問題で、最悪の座席に着いたらほんとにもう演目内容まで頭に入ってこなかったりするものだから本当にタチが悪い。
そして今回こうした「座席運」についてちょっと考えてみたいと思うエピソードを紹介しよう。これは去年の12月29日の『天使の群像』と言う下北沢711で開催された演目での出来事。割と評判の良い演目で千穐楽以外にも連日客席ぎっしりのいわゆるソールドアウト状態だったんじゃなかろうかと記憶している。狭いながらもぎっしりとしてその客席で開演の30分ぐらい前に指定座席にて待機していたら、私より5列位前にある母娘がいるのにふと気づいた。30代ぐらいの母親と小学校4〜5年生位の娘さんという組み合わせで、このサブカル演劇の聖地にある小劇場にしては異様で割と目立っていたように思う。でもまあ演目自体は基本的に高校が舞台の学園ものだったから健全な演目ってことで親子で観にきたのだろうと予想できる。
そしてちょっとした事件が起こった。
開演20分前の出来事である。
この母娘2人が座っていた座席の女の子の目の前に割と背の高い50代以上ぐらいのおじさんが座ってきたのだ。当然その小学校の女の子は前が見えないので舞台も目に入らなくなるってんでお母さんがふっと目くばせをして席を変わってやっていたのだ。正に親子愛だ。もうこれで万事解決である。
母親が「大丈夫?見える?」みたいなニュアンスで娘に目配せをしていた模様がここからでもはっきりわかった。ああ、ホッとした。
…………….あの〜ところで読者はなぜ私がこんなにこの親子の心理描写まで想像しながら見つめてるんだろうと思ったのかもしれないが、開演前でスマホの電源も切ってるしでやることもないし、後ろを見たら他人と目が合うしで、ふわっと前方しか見るものがないからである。そして、開演5分前になって、劇団側からマナーにまつわる注意事項などの説明があって、それからいよいよ開演の3分前「始まるまでしばらくお待ちください」のアナウンスが!
(*ちなみにこの「しばらく」は言うほど「しばらく」じゃないよねっていつも思うんだが何か謙遜のニュアンスがある気がする。これは演劇あるあるである。)
そして開演2分ぐらい前だろうかもう直前の直前に今回の目玉となる事件が起こった。
そう、その大きいおじさんの隣、その女の子のいる前の席にまたまたキャップを被った50代ぐらいの男が新たに座ってきたのだ。(注;新たにきた男も同じようなおじさんなんだけど紛らわしいので便宜上「男」と呼称する。)
もうそうなってくると私の関心事は「果たして女の子は舞台が見えるのか?」の一点ばりで私は心配になったが今回に関しては「大丈夫」だったのである。と言うのも、その男は先ほどのおじさんほど大柄ではなかったてのも手伝って、このおじさんと男との間にはちょっとした距離があって、その隙間から女子は舞台を観れるようになっているのだ。
正にこの二人のおじさん同士の華麗なる連携プレー!!
って基本的にこいつらは何にもしてないんですけどね(笑)
そしてこ母親がもう一度娘に「大丈夫?」みたいな確認をして女の子も「うん」とうなづいている様子が見て取れた。
よし、これで安心だ。
私も謎のおせっかいコーナーもこれで終わって、いよいよ、舞台が始まるということでワクワクして待っていた。
そして1分後、いや、1分もなかったかもしれない。
1分〜30秒前正にその時にその事件が起こった!
その彼女の前にいるそのおじさんがおもむろに被っていたキャップを脱いだのだ。そこでなんと驚愕の出来事が!!
その時私は思わず「あ!!!!」と声をあげそうになった。
このおじさんがなんとものすごい目を見張るような剛毛だったのである!!
いや、具体的にいうならば、今は知らんが一昔前、世界的に有名なバイオリニストの葉加瀬太郎氏とかパパイヤ鈴木氏だとかあの辺の人たちはブレーク当時ものすごい大爆発したようなアフロヘアを施していたがあの状態の髪型のまま就寝について5度寝ぐらいしてものすごい寝癖を帯びていて、その状態のまま外に出たらものすごい台風ど真ん中だった位の爆発力を誇る髪型だったのだ。
剛毛以上の超剛毛とでもいうべきか、こういう言葉は世の中に存在しないだろうがいわば「爆毛(ばくもう)」だったのだ。
以下、この爆毛の男を「爆毛男」と呼称する。
そして残酷にもそのまま舞台は暗転してその演目は始まった。
3.爆毛男、爆誕
そうここで演目について整理しよう。
この『天使の群像』に関して、
と言う当時の私のXのポストが示唆しているように割とシリアスな学園ものでここでいっている内容に関しては偽りはない。現にものすごく面白かったので帰りにグッズもいくつか購入したほどだ。
だが、一点このポストには嘘がある。
そう、「180分間圧倒されまくった」と言うフレーズである。
物語に惹き込まれたのは合計150分間ぐらいである
なぜなら、この冒頭2,30分間ぐらいの私の視線は舞台ではなく5列目先の母娘と爆毛男との戦いにもはや釘付けだったからである。
この爆毛男は先に述べた髪型ゆえ、一寸でも顔を動かそうものなら、手の位置を変えようものなら、肩を動かそうものなら、足を組み返そうとしようものなら正に台風の時の樹木のようにバッサバッサ爆毛も上下左右に揺れてしまうのだ。そうなってくると、この女の子が不憫極まりなくて爆毛男が揺れるたびに、その女の子にとって舞台上の視覚がかき消されてしまうので男の動きに合わせて顔の位置を変えることを余儀なくさせるのだ。爆毛男が右に揺れると髪型は当然右に揺れるのと同時に左側の上部も揺れるので女の子は爆毛男の頭の左側下部に顔の位置を変え、左方向に揺れると髪型は左に揺れるのと同時に今度は右側の下部が揺れてしまうので女の子は男の右側上部方面に顔の位置を変えなければならないのだ。
そして左右のどちらかの足を組んだ時、左右どちらかの肩を動かそうとした時も同様のメカニズムが適用されることも覚えておきたい。てかこの爆毛男、静かに一点に止まってれば良いようなものの本当に落ち着きなくひっきりなしに動くのだから益々タチが悪いのだ。
これもし、私の目の前にいたらもはや「サ○意」以外の何者でもない怒りと憎悪の感情が巻き起こっていただろう。
そして極端なケースとしてはこの爆毛男が左右両サイドに首をひねった時で、これを台風に例えると風速五十メートルぐらいの台風を真っ向から受ける大木さながら左右上下全てが揺れに揺れるのだからどんな大惨事が起きるのか、と思いきや、この場合は「全てが揺れる=小康状態」とイコールになるらしく意外と大丈夫だったりするのだ。
よくあるじゃないですか。「台風は直前と直後の方が荒れて、直撃ど真ん中の時は逆に静か」って…まさかの台風の本質を下北沢の劇場で名も知らぬ中年男の爆毛から学ぶことになろうとは思いもよらなかったわ(笑)
という訳で私は残念ながら『天使の群像』に関しては前半20分の「生意気な教え子たちに問い詰められる苦悩するある新米教師の心象風景」が描かれたこのシリアスなシーンに関しては記憶が一部抜けてしまっている。
なぜならこの間「存在自体が台風のような爆毛男に翻弄される1組の母娘の物語」という別の群像劇に惹きつけられて(気の毒に思いながらも)可笑しくて可笑しくて仕方なかったし、しかも舞台上でのシーンがシリアスなだけにもう笑うに笑えず痙攣しまくっていたからだ。
それ以後は人間薄情なもので、あまりその母娘と爆毛男との対決に関しては気にならなくなって集中して演目を観劇できたのだが、母娘にとってはかなり屈辱の演劇体験だったのではなかろうか。でも後半ぐらいになるとこの女の子は完全に要領を得たらしくて男の動きに合わせて、臨機応変かつ速やかにサッと顔を移動して「爆毛男避け」のエキスパートと化していた気がする。まあこの先彼女の人生で一ミリたりとも使い物にならない技術だけれど。
それにしてもこの娘さんが今回の演目が初めての演劇体験とかだったら本当に胸がキリキリ痛む思いだな(←てかお前は笑い堪えてただろっw)
しかし劇場側も「他の客様の視界を遮るので帽子を取ってください」という注意アナウンスはたまにあるけど「他のお客様の視界を遮るので帽子を被っててください」というのはなかなか言えないよななどと思ったりして。
もっとストレートに「あんたは爆毛だから帽子被ってな」という訳にもいかないし丁寧に回りくどく言える術がないというか、でも敢えて丁寧に言うならば「お客様が今現在なされているそのヘアースタイルは量や形が通常の髪型以上に及ばれてているのでもし少しでも動かれたら時折後ろのお客様の視界を遮ってしまう可能性があるのでお帽子を着用して頂けると助かります。」という長台詞を爆毛男に面と向かって劇場スタッフは言わなければならないだろう。
まあ私だったらこの長台詞を最後まで言い終わらないうちに間違いなく吹き出してしまう自信があるが。
ということで、なんとなく軽い感じで書いた記事だったが、実は今後のエンタメの座席運を考える上で由々しくも非常に難しい問題だったりして。noteにしては5500字を超えてしまってるし(笑)
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