#14 スープカレー持ったまま閉め出された(うえまき)
その日はとても気分が良くて、天気も良くて、飛び出すように家を出た。
TSUTAYAに行って買わない本をみた。貧乏だからね。でも本が好きだからね。
帰り道どうしてもお腹が空いて、スープカレーをテイクアウトしてしまった。貧乏だからこそ、たまの贅沢をしたくなってしまって。1400円も払った。ココナッツスープにするのに200円も費やした。絶対に美味しく食べると誓った。
足取りは軽く!スープはこぼさぬように!
軽快に!慎重に!家に帰った。
鍵がない。
うちのマンションは一階部分がオートロックだ。
家の鍵は開きっぱなしなのに入れない。
手にぶら下がってるスープカレー。
スープカレーを呼んでいる胃袋。
別にいいじゃないか、少しの間家に入れないくらい。だって私は散歩が好きなのだから。外にいるなら川でも街でも歩けばいい。とは思えず、大変お恥ずかしい。
あわてて最寄りの公園に行った。
外で食べるのに1番向いていない食べ物はスープカレーだと思った。(スープカレーはカレーのルー?がしゃばしゃばで、それにいちいちスプーンに乗せた米を浸して食べます)
風が強かった。
見事に2つに分けられたカレーとご飯を、風に煽られぬように、プラスチックの蓋等飛ばないように、スープカレー通例の食べ方で食べるのは無理。無理無理無理。
冷めてゆくスープカレーを手にもったり、ベンチに置いたり、股の間に置いてみたりしながら決断した。
米をぶち込む。
そうしないのがスープカレーだとは分かっていながら、そうするしかなかった。一個の器にまとまってしまえば風に吹かれながらでも食べられる。
米の容器とかお手拭きとかのゴミが入ったビニール袋を右足で踏みながら、あられもない姿になったスープカレーを食べた。
なんで一体こんなことに。
寒かった。その時なぜか私は、うっすいトレーナーの下にブラジャーしか着てなかった。家を出る時の気が大きすぎた。風が直にお腹に吹き込んでくる感じがした。
どんどん冷たくなり、スープを吸って膨らんでいく米を食べながら自分を省みた。
「散歩が好きだ」「外を歩き回るのが好きだ」「家を出るといろいろなものが見える」などと豪語してマガジンまで作っているのに、今、家に帰りたくて仕方がない。風が吹かない温かい場所で、いちいちスープに米を浸してカレーを食べたい。
私が歩き出せるのは、帰る場所があるからだ。
私の散歩は恵まれた環境の上にある、甘ちょろい散歩だ。自然に立ち向かうようなサバイバルな散歩ではない。そのことを肝に銘じて散歩を語ろう。うん。そうしよう。私は外の厳しさを何も知らなかった。
しばらくして、帰宅した中学生の後ろにそろりと続いてオートロックを突破し、家に入ることができた。
右足で踏んでたゴミ袋の中からアリが出てきた。ベランダに逃した。命があったって、6階のベランダに急に投げ出されても困るだろうに。あの後どうなったんだろう。ごめんな。
あの日、私はいろいろと学んだ。
カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる
(木下龍也『つむじ風、ここにあります』より)
それでも、今日も散歩が好きだと思いたい。
うえまき
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