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【麻雀】順位点を考慮したときの期待値について

以下の動画で形式テンパイを取るために無筋を押すかどうかについて、期待値の観点から考察されています。

この動画を見たときにふと思ったのが

「順位を考慮するともっと違った結果になるのでは?」

半荘収支という言葉をご存知でしょうか?この動画では1局あたりの点棒(素点)の期待値のことで局収支と呼ばれるものです。しかし実際に麻雀を打つ際には最終的な点棒に順位点(ウマオカ)を合わせて計算したものを競い合います。その期待値が半荘収支と呼ばれるものです。天鳳や雀魂ではpt期待値とも呼ばれますが、最終的な収支のことを指すので半荘収支と同じ意味で使います。

というわけで半荘収支での押し引きを考えていきます。

どのように求めるか

順位期待値がわかれば半荘収支を求めることができます。順位期待値は1位〜4位の各確率と、順位点をかけたものの総和になります。

1〜4位の確率の求め方は、例えば東1局で形式テンパイを取った場合の最終順位を集計しその割合を求める確率とします。

余談ですがこれ以外の要素、例えば放銃するとそれ以降も手が悪くなるといったことはあるかもしれませんが、放銃後の順位を抽出するのでこちらの要素も考慮されていると言えます。

使用するデータと条件

2015〜2019年の天鳳鳳凰卓東南戦データ
東1局0本場で以下の状況が起こったときの最終順位を集計します
・流局時テンパイ収支が1000点
・流局時ノーテン収支が-1500点
・子に対して5200点放銃
・子に対して8000点または7700点放銃
・親に対して12000点または11600点放銃

※天鳳データの30符4翻は子で7700点、親で11600点ですがこの記事ではそれぞれ8000点、12000点としてまとめて扱います。

集計結果

流局テンパイ時
 1位15820回(28.4%)
 2位14900回(26.7%)
 3位13212回(23.7%)
 4位11854回(21.2%)
流局ノーテン時
 1位31784回(23.3%)
 2位33218回(24.4%)
 3位34745回(25.5%)
 4位36648回(26.9%)
子5200点放銃時
 1位3355回(15.8%)
 2位4082回(19.2%)
 3位5447回(25.6%)
 4位8402回(39.5%)
子8000点放銃時
 1位7032回(12.4%)
 2位9538回(16.8%)
 3位14178回(25.0%)
 4位25881回(45.7%)
親12000点放銃時
 1位1827回(9.1%)
 2位2748回(13.6%)
 3位4614回(22.8%)
 4位11008回(54.5%)

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東1局の点棒移動でも点棒が増えると最終順位が上がり、点棒が減ると最終順位が落ちることがわかります。

流局テンパイノーテンでは1000~1500点の点棒移動ですが、回数を重ねると少しずつ順位分布に差が出ています。満貫以上放銃するとラス率が5割近くと一気に跳ね上がります。かなり高いのはおそらく天鳳特有のラス目に厳しく打たれるのが影響していますが、それでも半分近くラス回避できるようです。

押し引きボーダー放銃率の計算

ここまでで半荘収支を計算することがきます。半荘収支は1〜4位の各順位点と順位確率をかけたものの総和で求められます。

半荘収支 = (1位時の順位点) × (1位率) + (2位時の順位点) × (2位率) + ...

半荘収支を利用して、どの程度の危険牌まで押せるかを考えてみます。
押しと降りが互角になるボーダーラインの放銃率をpとすると、以下が成り立ちます。

(流局テンパイ時の半荘収支) × (1-p) + (満貫放銃時の半荘収支) × p 
= (流局ノーテン時の半荘収支)

特定の牌の放銃率はある程度の基準はあるものの、実践では基準から大きく外れることも多いです。これは河の情報、切る牌の種類、点数状況、対人メタなど要素が複雑なためです。なので押し引きの基準となる放銃率pを求めることを最終目的とします。

例として天鳳鳳凰卓7段配分「90 45 0 -135」で計算してみます。
まずpt期待値が以下になります(pt期待値は半荘収支と全く同じです)

押した場合のpt期待値 +8.86
降りた場合のpt期待値 -4.34
8000点放銃時のpt期待値 -42.94

先程の式に当てはめるとp=25.5%となりました。これが放銃率のボーダーラインになるのでp以下の放銃率となる牌は押し有利、p以上であれば降り有利となります。

計算結果

局収支、天鳳ルール、Mリーグルールのそれぞれの場合で計算したものが以下になります。
※Mリーグルールの場合は素点も最終的な点数に反映されるので、順位点期待値+素点を半荘収支として計算しています。

局収支
5200点の場合・・・p=36.0%
8000点の場合・・・p=25.6%
12000点の場合・・・p=18.2%
天鳳ルール(7段pt配分90 45 0 -135)
5200点の場合・・・p=33.6%
8000点の場合・・・p=25.5%
12000点の場合・・・p=19.3%
Mリーグルール(順位点45 5 -15 -35)
5200点の場合・・・p=36.7%
8000点の場合・・・p=27.5%
12000点の場合・・・p=20.7%

考察

局収支、2つルールの半荘収支でボーダー放銃率はほとんど変わりませんでした。平場では局収支を基準に押し引きを決めるのが良さそうです。
集計結果からもわかるように、自分の持ち点がそのまま順位に影響するためです。持ち点を増やせば上の順位を取りやすいし、失点すると下の順位に落ちやすいです。順位点はあくまでも最終結果なので、平場ではほとんど意識せず打つべきですね。

ルールごとに比較すると放銃率のボーダーラインが変化しました。天鳳ルールとMリーグルールを比較すると、天鳳ルールのほうがpが低くなっています。一般的にトップの価値が大きいルールほど押し寄り、ラス回避ルールほど降り寄りになると言えそうです。
基本的にトップの価値が大きいルールほど加点の価値が失点の価値よりも大きいです。例えば+8000点と-8000点では前者のほうが期待順位点の絶対値が大きくなります。ラス回避ルールだとその逆ですね。

ただしMリーグルールの結果については、Mリーグの牌譜データを使っているわけではないのでそのまま当てはめて使うことはできません。フィールドやルールによって点数状況での順位確率が異なるので、集計結果の順位分布も当然異なります。
例えば天鳳ではラス目に厳しく打つことがあります。東発とはいえ満貫放銃などで一度ラスに抜けてしまうとそこから持ち直すのは通常のフィールドよりも難しいです。逆にトップの大きいMリーグルールではトップ目に厳しく打つことが予想されます。
蛇足ながら実際のMリーグではレギュラーシーズンであれば90試合しかないため足切りライン突破条件、優勝条件などがあるので単純な期待値では計れないことが多いです。

東発以外のケースについて

東1局の押し引きはわかったけど、じゃあそれ以外のケースはどうすればいいのか?
どのケースでも順位期待値を求めることによって優劣を判断することができます。最終的な順位確率ですが「データを集めて統計を取る」か「AIによって順位を予測する」の2通りあり、後者については以下のサイトなどで求めることができます。

上記サイトで点数状況を入力し1〜4位の確率を使えば、あとはこの記事と同じ方法で順位期待値を求めることができます。
AIは精度によりますが、同じ天鳳鳳凰卓のデータを使っているので統計データを使うのとほぼ結果になります。

まとめ

実際のデータを使って半荘収支を求めました。順位点を考慮しても押し引き基準は局収支とほとんど変わらないのは意外でした。

私もそうですが極端に放銃を回避したがる人は多いと思います。損失回避バイアスというものがあって、人間は得るものよりも失うものを高く評価する傾向があります。実際は何もしない(降りる)ことによるマイナスがそれなりに大きい、放銃によるマイナスを過大評価していたようです。今回データを使って客観的な視点で考えることができたのは良かったです。

しかし対局中に半荘収支を求めることは困難です。麻雀は点棒状況が複雑になりやすいゲームなので、戦術レベルに落とし込むのは大変でしょう。
こういった複雑な要素が絡んでくるのはAIが得意な分野でしょうか、今後の成長に期待しています。

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