夙川

命の匂いがする
鱗の剥がれた 銀色の流線型が
流れに逆らって 泳いでいく姿
幾重にも 幾重にも重なりながら
上っては流され 流されては上り
その姿を 太陽の光は 
きらりきらりと 乱反射させていた
春を呼ぶ この街の真ん中には
乱反射した銀色がよく似合っている
 
鐘の音が街を包むころ
十字架は 茜色の空に沈んでいった
冷たい手触りの 扉を開いた先には
許しを請う人々の影が 今日も
床や壁にへばり付いていた
かび臭い ひんやりとした部屋の中
僕の影も 許しを求めていた
跪き俯き加減で 壁と同化していく影たちが
静かに鐘の音を聞いていた
 
鈍色の線路は どこまでも真っすぐで
時に行き先を見失う事があった
真っすぐすぎる線路は
どこか狂気じみていて
行き先を見失う事の方が
正しい判断である様に思われた
子どもたちは 何も知らず
プラットホームで電車を待っていた
 
遠くには山がそびえ立ち
山の上には鉄塔が立っていた
朝日を浴び 夕日を背負い
鉄塔は街をいつも眺めていた
吹く風が鉄塔を揺らし
時に鉄塔が風を揺さぶりながら
この街の季節を回していた
春を呼ぶ風が吹く頃に
この街は芽吹き 静かに産声をあげた
 
だからこの街は春を呼ぶ街

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